第25話 箱罠
※パド視点
ディアと一緒に狩人小屋までやってきた。もう一人、ディアを領都に送るための護衛の冒険者も連れてきた。昔なじみのA級冒険者のフィオンだ。
アイチェの方角に半日ほど戻った距離にある、森の中の狩人小屋だ。
昔は村の狩人が使っていたが、今は冒険者から肉を買っているので、使わなくなった小屋だ。
たまに冒険者が使ったりしているらしく、思ったより汚れていない。
野盗などが使う可能性もあるが、この辺りは騎士が見回るのでその恐れはない。
一応根回しはしてきたが、どうだろうな。
引っ掛かる可能性は半々。
宿屋を襲撃してきたのは異端審問官とは別口だった。
まだ、口を割ってないらしいが、最初にディアをおっかけてきてた方だろう。
女一人にずいぶんと犠牲を払っているなと思うが、ここまで来たら暗殺組織の矜持もあるだろう。
もしかすると辺境伯領の裏組織に依頼をかけているかもしれないが。
ディアが小屋の窓を開けて『清掃』と唱えると埃が消えた。
凄腕のハウスキーパーになりそうだ。
しかし水竜巻を使うお嬢ちゃんが、ハウスキーパーはもったいなさすぎる。
「ディア、出してくれ」
ディアは頷くと腰のポシェットからピアスを出した。
それを俺に渡す。
花を模したデザインのピアスだ。
花の中心と花びらに宝石を使っている。中心の大き目な緑色の石は魔石だ。
多分風属性。
位置を知らせる術を仕込むなら風属性だ。
「これは……」
「元婚約者から贈られたの。迂闊だったわ」
元、か。今ものすごく怖い表情をしたが、よほど嫌っているのだろうか。
「とりあえず、ディアはもう領都に帰った方がいい。フィオン、俺が乗ってきたディーに乗って送ってくれ」
「わかった」
「パド、無理はしないでね」
「ああ、大勢だったら逃げるさ」
ディアとフィオンが去っていくと、俺は小屋の中を見回す。
さて、罠を仕掛けるとするか。
小屋に罠を仕掛けて結界を張り、小屋が見える木の上に登った。
太い枝の上に座って、気配を消す。
「さて、どのくらいでやってくるんだろうな」
俺は薄く目を閉じ、待ちの姿勢を取った。
「……!!」
「結界か」
小屋の方で、声がする。
早かったな。仕掛けた当日に夜駆けとは。
黒装束に身を包んだ者たちが結界に阻まれて声をあげている。
意外に多いな。10人くらいか。
小屋を取り囲んでいる。
魔法を使える者が結界を壊そうとしている。
今回は安い結界の魔道具にしたから、そろそろ効果が切れるか。
結界の破壊に成功し、それぞれが小屋の周りに潜む。
一人が扉をそっと開ける。
パアンと音がし、のろしが上がった。
慌ててるな。
少し程度が低い者も混じってるようだ。
それでも慎重に中に入った。3人か、他は周りを包囲している。
ドンと音がして、矢で射抜かれた先頭の男が小屋の外に吹き飛ばされた。
全員が身構える。
入口の両脇に二人立ち、中を伺う。
中は真っ暗なはずだ。
頷きあって入口の木枠に体を沿って、中に滑り込んだ。
仕掛けが起動する音がした。正面にいた黒装束がさらに二人小屋の中に飛び込んだ。
俺は、入口と反対の小屋の壁に待機している黒装束の上空に足場を作って立っていた。
(上も警戒すべきだぞ)
さっと飛び降りて、ナイフで喉を後ろから掻き斬った。
リーダー格一人確保でいい。
力を失った黒装束を音を立てないように地面に横たえる。
また上空に上がり側面に回ると、同じように一人始末する。
そこには二人いたが、もう一人は小屋の入口に集中して後ろにいた者がやられたのに気付かない。
(これで暗殺者はやっていけないんじゃないか?)
その黒装束の肩をつつくと振り向いた瞬間にナイフを首に走らせた。
(外にいるのは後二人)
また空に上がり、反対側の二人も始末した。
さて、あとは中に入った四人か。
(光明)
頭の上に光源を浮かせ、開け放たれた扉をノックする。
「留守中に襲撃ですかね? 野盗の皆さん?」
中には逆さ吊りになった二人、床に仕掛けた粘着シートに体が拘束されている一人。
そして、靴を捨てて粘着の罠から抜け出した一人。
「とっておきの蜘蛛の糸の罠だったんだがね」
「き、さま!」
短剣を持って飛び掛かってきた最後の一人。
これがリーダーかな。
短剣には毒が塗ってあるんだろう。
振る度に液体が飛び散る。
(風の結界)
体に薄く風を纏う。
攻撃を避けながら、徐々に後ろに退く。
靴の踵が矢で射抜かれた黒装束の足に引っかかる。
「!」
「馬鹿め!!」
俺がバランスを崩して体を沈ませた時に一気に向かってくる。
俺は魔導収納から剣を出し、鞘から抜かずに横なぎに腹を打った。
「ぐ、ぁあ」
身体強化した打撃で、奴は吹き飛び木に体を打ち付けて意識を失った。
耳に馬の駆ける音が聞こえる。
俺は最後の黒装束が生きていることを確かめ、自殺が出来ないよう武装を解いた。
「パド様!」
駆けつけてきたのは辺境伯領の騎士たち。
のろしが上がったらここへ来てくれるよう頼んでおいたからだ。
ここから馬で一時間ほどの場所で野営訓練を装って待機してくれていたのだ。
「こいつらだ。野盗ではなく暗殺業を営んでいるように見える」
「わかりました。おい、生きている者はくれぐれも丁寧に迎えるんだ」
「はい、団長!」
「俺はこれで、領都に戻る。あとはよろしく頼む」
俺は徒歩で向かおうとしたが、ディーが走ってきた。
「預かっていましたので」
「ありがとう。よし、ディー領都へ戻ろう」
俺はディーに跨り、領都へ戻ったのだった。
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