第20話 領都
領都まで襲撃はなかった。
小型の魔物にはたまに出会ったが、大型の魔物や群れには会わなかった。
街道の先に城壁が見えた時、ほっとした。
でも、この先狙われないわけじゃない。
引き締めなくては。
この先、パドが側にいるわけじゃない。
「それで、この街で、ディアは何をするんだ? ずっと手持ちの資金で暮らすってわけにいくのか?」
道中、パドがそんなことを訊いてきた。
「そうね。事務仕事は得意なんだけれど、そうそうそういう仕事には就けないでしょうね。魔法が使えることを活かして、冒険者かしら?」
「……冒険者ギルドで解体するだけでも食っていけそうな気がするぞ」
「雇ってくれるかしら?」
「くれると思うぞ。あの解体魔法は凄い」
「褒めても何も出せないんだけど……」
「いや、本当だ。解体が多いギルドは泣いて喜ぶ」
「血生臭さが身に染みそうね」
「それはそうだな」
わははと口を開けて大げさに笑う。
そういうところは中年ぽいけど、憎めない感じがする。
たまに大声だと馬がブルルと鳴いて抗議する。
「おう、わりぃな。うるさかったか?」
そう言って鬣を撫でる様子は馬好きなんだなと思う。
パドは馬に名前を付けた。
売るのなら付けないほうがいいのに、付けたのだ。
黒い体毛からなのか【ディー】と名付けた。
私は迷ってまだ付けられないでいる。
懐いてくれているから手放すのは惜しくなっているけれど。
街道を領都へと向かって馬を走らせる。
アイチェよりも城壁が大きい。
領都の門の前には馬車や荷馬車、徒歩の旅人などが大勢並んでいた。
今は昼前だ。
大体門が開くのは二の鐘が鳴ってから。
それが大体前世でいう9時頃だ。
鐘が鳴る時間で人々は動く。
「昼前に入れるかと思ったが、こりゃあ昼過ぎるな」
「仕方がないわ。待つしかないでしょう」
門を出ていく人もいる。
行商人や冒険者のような人たちが多かった。
大型の馬車が護衛付きで出ていくのも見た。
あれは都市間を結ぶ定期便の馬車なのかもしれない。
「次」
私たちの番になった。
「彼女の護衛だ。彼女はこの領都に家がある」
パドがギルド証を見せる。
門番は一瞬驚いたように目を瞠る。
私も身分証を見せ、隠れ家の番地が書かれた紙を見せた。
「この身分証と住所だけでは貴族門は通れないかもしれないですよ」
「そこは役所で何とかする」
パドがそう言うと門番は頷き、通っていいと道を開ける。
「それしかないですね。領都レイにようこそ」
門はアイチェと同じくらいに厚かった。
構造は同じで、20メートルほど門から歩かないといけなかった。
内側の門を潜り抜けるとアイチェより人も馬車も多く、通りは混雑してた。
不思議と、領都は落ち着いた色合いの家が多く、赤い屋根、赤レンガ造りの建物、石を切り出して作ったような建物。
窓は木枠でガラスが入っていた。
印象は栄えた街。
見張り塔の屋根にはカウーンレイ辺境伯の旗が翻っていた。
「凄いわ。活気があるわね」
「ああ。最初に役所に行って手続きをしよう。そう言えば鍵とかは預かっているのか?」
「え?」
「家の鍵だよ」
「あ、預かっているわ」
「よし。行こう」
役所。行政機関ね。
そう言えば、今世では行ったことはないわね。
貴族院なら王城にあったから行く機会はあったけれど。
領都レイは四角に近い形をしている。
それぞれの面に門があり、一の門、二の門と呼ばれている。
私たちが入ったのは二の門だ。
帝都がある方角にある門は一の門とする慣例があるそうだ。
オキーフ王国は単に、南西南北と方位をつけていたけれど。
役所はギルドが集まる通りの一番大きい建物だった。
この役所には代官の執務室など、主要な行政機関が集約されているそうだ。
代官は貴族だから、邸宅は貴族街にあるそう。
「パドは何でも知っているのね」
「情報に詳しくないと冒険者はやっていられないんだよ。俺は貴族絡みの仕事も受けるしな」
「そうなのね。パドに会えたのは幸運だったわ」
「……こっちだ。馬を預けて、中に入るぞ」
建物の裏に馬車が停められている場所があり、その奥に馬を預ける場所があった。
役所に入るとまず受付があり、パドが用件を言うと、番号札を受け取った。
「この番号で呼び出しだと」
木片に数字が書いてあった。E6と。
待合所になっていて、木のベンチが置かれていた。
私たちのほかにも、待っている人はいて、そこそこ待ちそうだった。
「待つしかないわね」
「まあな」
そして待つこと30分くらい。
「E6の方。2番の窓口へどうぞ」
カウンターで手をあげている男性がいる。
「あそこだな」
「そうね」
私たちは呼ばれた窓口に向かった。
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