第19話 道中
「村まではあと少しなんだが日が暮れるまでに着かなそうだ。野営をしよう」
「わかったわ」
街道脇になる野営できる広場にテントを張る。
「今日は干し肉とお湯くらいしかないが、いいか?」
「もちろんよ」
野営も慣れた。
簡単な食事が終わってパドに伝えないといけない案件を打ち明けることにした。
「パド、もしかしたら私の持ち物の中に追跡魔法がかけられた物があったかもしれない」
「……魔導収納に入れたら魔法は途切れるぞ」
「ピアスはずっとつけていたの。昨夜、外したのだけど」
「なるほど。ありうるかもな」
「でもそれって贈り物だったのだけど、贈られてから外したことがないの。ずっと居場所を知られていたってことなのかしら」
「魔法なら、魔法が妨害されている場所では使えないこともある」
私の住んでいた場所は魔法禁止区域が多かった。王族の住む場所だもの。
その中で引っ掛からず、ずっと威力を保ってたってこと?
怖すぎる。
「そうだな。一度検証してみるか」
「来たら困らない?」
私は街道の先を見た。
村が近いせいか農地が見える。
種が蒔かれた畑に魔法が着弾したら目も当てられない。
「それもそうか。それこそカウーンレイ辺境伯に相談してみるといいんじゃないか?」
「そうね。贈り主が問題だけれど、仕方ないわね」
「ん?」
「それで襲撃があったら、贈り主が送り込んだってことじゃない?」
「まあ、そうだな。ショックか?」
パドがお湯が入ったコップを渡してくれる。
なぜかパドの前髪はオールバックから元の目隠し前髪になっていた。
その方が私も落ち着くけど。
「そうね……ショックではないけれど、そんなにも邪魔なのかしらって少し怒りが湧くわね。それに隣国でこんな騒ぎを起こして大丈夫なのかという方が気になるわ」
「相手がわかるといろいろややこしいことになりそうか?」
「それも含めて相談してみるわ」
父はどこまで、道筋が見えてたのかしら?
私の前世の知識はいまここに来て、全然役立ってはいない。
今の私は18の小娘でパドがいなければもう死んでいた気がする。
ため息をついて、コップを傾けた。
パドのくれた白湯は飲むのにちょうどいい温度だった。
パドがやっぱり見張りを引き受けてくれて、眠った翌朝。
「襲撃はなかったぞ」
空が白んできたばかりで、空の大部分は暗かった。
空気もひんやりしている。
「お湯だけ飲んで出発だ」
手渡されたコップに湯気が立っている。
あったかいそれを飲み、支度をして野営地を発った。
二時間ほど馬を走らせると村が見えてきた。
木の柵に囲まれた、小さな村。
木と煉瓦で作られた家は50あるかないか。
「ここは素通りするか。街道をこのままいけば村には入らない」
「そうね。泊めてもらうには早いわ」
私たちは村に入らずに領都を目指した。
次の村には夕方に着いた。
先ほどの村より少し大きめだ。
「泊めてもらえるか? 領都に向かうんだ」
パドが村の門番に話をしている。
「ああ、宿は空いてるんじゃないかな? 特に旅人が来たって聞かないしな」
「どこに?」
「村の中央の広場に面した大きめの家だ」
「ありがとう」
言われたとおりに広場に向かうと、他の家は平屋なのに、その家だけ二階建てだった。
「すみません。宿はここだって門番に聞いたのですが」
パドが扉を開けて中に入って訊いた。
「おや、珍しいね。この時期に。部屋は空いているよ」
中から中年の女の声がした。
「じゃあ、二つだ」
「一つじゃないのかい?」
「護衛と依頼主だ。いくらだ?」
「一晩銀貨一枚だね」
「これで。なにか食べるものは?」
「宿賃に含まれてるよ。出来たら声をかけるさ」
「馬がいるんだ。厩はあるか?」
「裏にある。世話は自分でしておくれ」
「わかった」
パドが戻って一緒に馬を預けに行く。
「やっと休めそうだ」
「パドが倒れなくてよかったわ」
「ああ。護衛どころじゃなくなる」
二人で馬の世話をして、宿屋に入った。
部屋はベッド一つでぎゅうぎゅうの小さな部屋だった。
「体を拭く水は出してくれるそうだが」
「浄化で済ませるわ。パドもかける?」
「いや、いい」
「じゃあ、食事の時間に」
夕食はシチューだった。村で牛を飼っているらしい。
食べて、部屋について寝たら、もう朝だった。
襲撃がない、宿の夜。
パドの顔も晴れやかだった。
朝もパンとスープを出してくれて、満足して出立した。
「素敵な宿だったわ」
「シチューは美味かった」
そんな話をしながら、領都へ急いだ。
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