第16話 宿屋
「何か悪いことでも?」
男性が私に心配そうに訊いた。
「いいえ、そうではないの」
伝言をポーチに仕舞った。
「では、依頼書を作成します」
男性が言い、紙にさらさらと依頼内容を書いていく。
「ではご確認ください」
男性は依頼書を書き上げ、私に差し出した。
『護衛依頼
緊急のためランク不問
ディア(女性)の護衛
安全な場所まで送り届けること
報酬
ネックレス・馬一頭(前払い)
状況によって追加報酬有り
ギルドへの報酬は依頼完遂後依頼料の20%を支払う』
「これ、ざっくりしすぎでは」
読んで顔をあげて男性に問う。
「どれ?」
パドが依頼書を覗き込み、顎を手で擦った。
「いや。これでいい」
「パドがいいならいいけれど」
依頼書を真剣に見ている様子に、ちゃんと考えているのならと頷く。
「では、こちらにサインを」
依頼者の欄にディアとサインをした。
「ではパド、ギルドカードを預かります。依頼の引き受け処理をいたします」
そう言うともう一度、男性は出て行った。
「それで、行く先っていうのは領都なんだろう? そこまで案内するぞ。どうせ、場所は知らないんだろう? アイチェだと思ってたくらいだからな」
パドの言葉にうっと詰まる。
「あの場所は領都の貴族街にある家だ」
「き、貴族街? 私、入れるかしら」
「どうかな? なにかその家の所有者だっていう証を持っているか?」
「いいえ」
なぜ、父はこんなところに隠れ家を手配したんだろう。
『カウーンレイ辺境伯を頼りなさい』
「あ」
もしかして、カウーンレイ辺境伯に何か依頼をしているのかしら?
「なにか思い当たることがあったのか?」
ポーチに仕舞った伝言を見せる。
「これなんだけれど」
「なるほど。情報が抜かれるのを恐れたのか。元の護衛にも知らされていなかったかもしれんな」
紙を見せたら驚いた様子だった。相変わらず表情はよくわからないけれど。そこは雰囲気だ。
「でも、約束はアイチェまでだし……」
「さっきの依頼書、安全な場所までと書いてあったぞ」
「!」
私が驚いていると、男性が戻ってきた。
「パド、こちらはネックレスの鑑定書と預かったネックレスだ。それからギルドカード。魔物の討伐依頼の処理はいつも通りにしてある」
「ありがとう。じゃあ、俺たちはもう出る。護衛依頼の報告は後程」
「わかったよ。ディア様、ご武運を」
男性は立って、胸に手を当てて軽く頭を下げた。
「ま、待って! ギルドに支払う報酬の預かりは」
「完遂後で結構でございます」
「だってよ。ほら行くぞ」
パドが私の腕を取って引っ張る。
そして、冒険者ギルドを出た。
個室からはカウンターがあるところに出ないで外に出る扉があった。
「よく知っているのね」
「大抵個室で説明されるからなあ。S級は」
「そうね。S級だったわ」
「忘れていただろう?」
「いいえ。そんなことないわ。ただいろいろあったから。とりあえず宿を取りましょう」
「俺の拠点にしている宿がある。最高級だ」
「……あまり高くないといいのだけれど」
資金は持ち出しているが、この先何があるかわからない。
できるだけ節約したい。
「大丈夫だ。行こう」
そして厩があるというので、馬を引き取って宿に向かった。
超高級宿屋だった。
S級冒険者め!
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