第6話 乗りたい背中
ヤケ酒の効果で昼下がりにはメンタルが復活した俺。
そろそろ山を登るとしよう。
そもそも俺が今まであやかしを遠ざけていたのは、化け狐からあやかしと接し過ぎると存在があやかし側に引っ張られると言われたからだ。
もっと簡単に言うなら死が近付くって事だな。
あやかしは幽霊や生霊とは違うが、生物とは異なる。
目で見えるのも触れるのもそれが出来る一部の人間だけだ。
因みに見える奴は大抵が相棒と呼べるあやかしを連れている。
そいつが他のあやかしを追い払う事で、あやかし側の世界へと引っ張られるのを最小限に押さえている訳だ。
『だと言うのに、お主はあやかしと共に生きる事を選ぶ訳だ』
「だってあやかしって面白いだろ?
お前らって俺からすると意味がわからな過ぎて最高の娯楽なんだよな」
『何年生きられるかわからんぞ?』
「お前にはわからんだろうが、人間六十年も生きれば今日明日病気で死ぬ事だってあるんだぜ?
大病に罹って苦しんで苦しんで、死に抗っても結局は死んじまうかもしれん。
だったら俺は存分に楽しんで死にたいね。
あやかしのお姉ちゃんともしこたま酒を飲んで遊びたいし」
『馬鹿よな。お主は本当に馬鹿よ』
化け狐が何か言っているが無視だ無視。
俺は寺を馬鹿息子に継がせたら目撃者の出ない山に籠ってあやかしとスローライフを送ると決めていたのだ。
だからまず俺がやるべきはあやかしの背に乗って山小屋まで登る事なのだよ。
「誰か良い背中の持ち主現れんかなぁ。
首無し馬とかいねぇ?」
今は化け狐があやかしを追い払っていないので続々とあやかしが集まってきている。
生首だけの奴とか一つ目の幼女とかなまはげっぽいのとか。
「二足歩行が多めだな。四つん這いにして上に乗せてもらうかな」
『鬼か。だったら普通におぶって運んで貰えば良いだろう』
うーむ、それじゃあ面白くないではないか。
「だったらあそこにいる子泣き爺っぽいのの背中に乗るか。
抱かれたり背負われがちな子泣き爺に逆に乗ってみるっていう」
『鬼か。あれの身体能力はよぼよぼの老人と同等だぞ。
3歩歩いたらへばって倒れるぞ』
「そうなのか、、、」
だったら別のあやかしを選ぶしかないか。
「ワンチャンいけない?」
『ワンチャンいけない!』
どうやら本気で無理らしい。
化け狐とはもう長い付き合いだから、こいつの考えている事は大体わかる。
そして二度聞いて無理ならもう絶対に意見が変わる事はない。
「ワンチャン無理?」
『ワンチャン無理だ!』
もう俺の体の胸から太腿の辺りまでは子泣き爺の胸から太腿の辺りまでになっているのに。
『何々の口になってるみたいな言い方をするな!
わかり辛いわ!』
寧ろ良くわかったな。
流石は付き合いが長いだけはある。
『はぁ。わかったわかった』
化け狐は溜息を吐いてからそう言うと地面に伏せてこちらを向いた。
『特別に我の背中に乗せてやる。
それで文句は無かろう』
「え?マジ?良いの?」
俺は出会ってから55年にして初めて化け狐の背中に乗った。
化け狐の背中は丸っこく、もふもふの白い毛がクッションになって非常に乗り心地が良かった。
但し走る速度が滅茶苦茶速いので。顔面が強風を当てられた時のリアクション芸人みたいになった。
次からはやっぱり子泣き爺に乗ろうと心に誓った。
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