第19話 焼き芋
秋の定番と言えば何だ?
そうだ、焼き芋だ。
まあ秋自体はスポーツの秋だの読書の秋だの芸術の秋だのと意見が分かれるだろうが。
やはり一番ポピュラーなのは食欲の秋だろう。
畑に種芋を植えたサツマイモも明らかに育ってるから試しに一本引っこ抜いてみると。
「うおぉ。すげぇな」
芋は一本の茎から何個も取れるので収穫も大変かと思ったら土がフカフカ過ぎて思いのほか簡単に引き抜けた。
土の中から姿を現した芋は丸っと育った立派なサツマイモだ。
何と言うか、見るからに旨そうだな。
『生で食ったら腹を壊すぞ』
「食わねぇよ。化け狐なら生でも食えるんじゃねぇの?」
『焼いた方が旨い物を生でなど食うか』
まあ、そうだよな。
折角の旨そうな芋なので、早速焼き芋にしていこう。
とりあえず五つもあれば十分なので土を落としてから半分凍っている池の水で洗って屋敷に入る。
調理場で茎を落としてもう一度流水で洗い綺麗にしたら二本だけ塩を振っておく。
塩を振って焼く派と食う時に塩を振る派で分かれるからな。
折角だから今回は両方試す事にする。
後はアルミホイルで包み、一生火が絶えることのない我が家の囲炉裏の灰の中に突っ込んだらじっくりと蒸し焼きにするだけだ。
芋が一つ一つ太いので時間は掛かるだろうが、時間は幾らでもあるので酒でも飲みながら待っておこう。
『時間があるのならもう一品ぐらい作ったらどうなのだ?』
「面倒臭いな」
即答したら何故か鼻先で尻を突かれたので、仕方なくもう一品作る事にする。
とは言え難しい物は作る気がしないのでサツマイモのサラダでも作るか。
丁度良い事に我が家では一生切らす事の無さそうなキュウリもあるしな。
サツマイモは四つ焼き芋にしたので残った一つも消費してしまおう。
まずは流水で洗って皮を剥いたサツマイモを角切りにする。
水を張った鍋に切ったサツマイモをぶち込んで火にかける。
囲炉裏は焼き芋に使っているので、こちらはガスコンロを使う。
サツマイモを茹でている間にキュウリをさいの目切りにして塩を振っておく。
サツマイモは角切りなのにキュウリはさいの目切りって言うの何でなんだろうな。
別に両方角切りで良くないか?
サツマイモが茹で上がったら笊にあける。
キュウリは塩を掛けておくと水分が出てくるので水を切る。
粗熱の取れたサツマイモとキュウリをボウルに入れてマヨネーズと塩胡椒で味を付けたら完成だ。
『素材が旨いから食えるな』
「いや、感想酷くね?」
人が作った渾身のサラダなんだから、もっと大袈裟な反応をするべきだと思うんだがな。
「どれ、俺が正しい食リポってもんを見せてやる」
化け狐に手本を見せる為に俺もサラダを食ってみると。
「味にパンチが無い。微妙」
確かに化け狐の言った言葉は正しかった。
素材が旨いので全然旨いのだが、それ以上の感想は特に出てこない。
俺達はそれ以上何も口にする事無く黙々とサラダを食い酒を飲み。
「そろそろ良さそうか?」
『うむ、良い匂いだ』
囲炉裏から焼き芋の良い匂いがして来たので、トングで灰の中から芋を取り出した。
そう言えば手袋が無いんだが、これは手でいかなければならないやつだろうか。
化け狐は芋の熱さなどお構いなしに、器用にアルミホイルを開けて齧り付いているが。
『これは旨い。お主の作った物とは思えん』
「洗って包んで埋めて放置しただけだけどな」
作った焼き芋が旨いと言われて喜ぶ人間は石焼き芋屋のおっさんぐらいだと思うんだよな。
その後も焼く前に塩を振っていない方に塩を掛けろだの、バターを付けろだのと色々手伝わされつつ。
終わった頃には手で触れる熱さになっていたので、ようやくアルミホイルを開いて皮ごと齧り付いた。
「旨いなこれは」
流石に甘いで有名な芋だけあって甘みは強いしホクホクしていて旨い。
我ながら上手く出来たのではなかろうか。
洗って包んで埋めて放置しただけだけれども。
「どうした?お前らも食ってみるか?」
俺が焼き芋を食っているのを、髪型だけ違う五人の座敷童が興味深げに見ていた。
なので食うかと聞いてみると、控え目に頷いたので食べかけの残りと手を付けてない一本を丸々やった。
座敷童達は焼き芋を齧ってパッと花が咲いた様な笑顔を浮かべた。
「今まで俺らが食ってた物には興味を示さなかったんだがなぁ」
不思議なものだが、座敷童はここへ来てから初めて食べ物を口にした。
洗って包んで埋めて放置しただけだけの料理だが、喜んで貰えたなら何よりだ。
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