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第八十五話 太陽のような生命

 屋敷の使用人たちから聞いた話では、リリロット夫人には数日前から、すでに出産の兆候が現れていたらしい。


 けれど、その状態のまま何日も経ってしまった。


 夫人はほとんど食事も取れず、身体も日に日に弱っていったという。


 そして今、さらに数時間が過ぎても、夫人はまだ無事に子供を産むことができていない。


 状況がますます危険になっていることは、私にもわかった。


 レシュオン閣下が、屋敷付きの医師だけに任せることをせず、わざわざヴィスカルロからヨゴル閣下ほど経験豊富な医師を呼び寄せたのも当然だった。


 夫人は、本当にこの危機を無事に乗り越えられるのだろうか。


 確かに私は以前、リリロット夫人を少し怖いと思っていた。


 けれど、私の誕生日の宴で自ら口添えしてくださり、学院で体験学習をする機会を与えてくれたのは夫人だった。


 それに彼女も、私と血のつながった、紛れもないカルロ家の一員なのだ。


 何かしたい。


 ただレシュオン閣下と一緒に立って待つのではなく、夫人が無事でいられるように、本当に役に立つことをしたかった。




 私は顔を上げ、レシュオン閣下を見た。


 私の視線に気づいたのか、閣下が低い声で尋ねる。


「どうした、パーリセウス?」


「閣下は先ほど、私にも手伝ってほしいと仰いました」


 私は少しためらいながら続けた。


「ですが、私はずっとここに立っているだけです。夫人のために、何をすればよいのかわかりません」


 レシュオン閣下はしばらく黙った。


 やがて両手を上げ、強く自分の頭を抱えた。


「そうだな……」


 その声は、低く掠れていた。


「私も、何かしてやりたい。だが今の私たちにできることは、医師を信じることくらいなのかもしれない」


 その言葉が終わった直後だった。


 目の前の閉ざされていた扉が、突然勢いよく開いた。


 屋敷の使用人が一人、慌ただしく飛び出してくる。


 その顔には、はっきりとした動揺が浮かんでいた。


「レシュオン閣下!」


「ヨゴル閣下が、すでに夫人の手術を始められました! ですが、夫人の魔力が失われる速度が、予想を遥かに上回っています!」


「今すぐ、光の魔力を安定して扱える者を増やし、夫人へ魔力を補わなければなりません!」


 レシュオン閣下は、ほとんど迷わなかった。


 すぐに私の手をつかむと、そのまま足早に部屋へ飛び込んでいった。


 私は閣下に連れられ、リリロット夫人の寝台のそばまで向かった。


 けれど、そこに広がっていた光景を見た瞬間、思わず足が止まった。


 夫人の下に敷かれていた白い寝具は、淡い桃色と暗い赤色の血で広く染まっていた。


 その中には薬布や、私には何なのかわからない肉のようなものまで混じっている。


 身体の下へ近づくほど色は濃くなり、幾重にも滲んだ血の跡は、真っ白な布の上に大きく乱れた赤い花が咲いたように広がっていた。


 背筋に冷たいものが走った。


 私はそれ以上下を見ることができず、慌てて夫人の顔へ視線を移した。


「ちょうどよいところへ!」


 ヨゴル閣下が顔を上げた。


 声音は相変わらず厳しかったが、先ほどより明らかに切迫している。


「今ここにいる者のうち、光の魔力を安定して扱える者は全員、できるだけ穏やかに夫人へ魔力を送り込んでください!」


「一度に大量の魔力を流してはいけません。途中で途切れさせてもいけない。一定の量を、安定して維持するのです!」


 その指示を受け、周囲の者たちはすぐに動き始めた。


 やがてリリロット夫人の額や肩、両腕から両脚、足元に至るまで、何人もの者が片手、あるいは両手を添え、柔らかな光の魔力を絶えず夫人の身体へ送り始めた。


 私は、他人へ直接自分の魔力を渡すのは初めてだった。


 夫人の前腕へ掌を当て、慎重に光の魔力を流していく。


 けれど、私が送り込んだ力には、あまり大きな反応がないように感じられた。


 私の魔力が少なすぎるのだろうか。


 それとも、魔力を渡す途中で多くが失われ、実際にはほとんど夫人の身体へ届いていないのだろうか。


 私にはわからない。


 ただ、できる限り多く、そして安定した光の魔力を送り続けるしかなかった。




 私たちが魔力を補い始めると、ヨゴル閣下も再び手術へ戻った。


 リリロット夫人の腹部には、すでにはっきりとした切開部があった。


 そこから半透明でわずかに濁った液体が絶えず流れ出し、血と混ざりながら身体を伝って寝具へ落ちていく。


 私は、これほど大量に血を流す人間を見たことがなかった。


 いや。


 一度だけ、見たことがある。


 あの時の母上だ。


 私は慌てて、その続きを考えることをやめた。


 今、あの記憶に気を取られてはいけない。


「ここからが最も重要です」


 ヨゴル閣下の厳しい声が、再び響いた。


「これから子供を夫人の体内から取り出します」


「全員、集中を切らさないでください! 魔力の供給を絶対に止めてはなりません!」


 その声に引き戻され、私は再び目の前のことへ意識を集中した。


 けれど、次に起きたことには、それでも本能的な恐怖を感じずにはいられなかった。


 ヨゴル閣下が両手を夫人の腹部へ伸ばし、切開部から慎重に子供を取り出そうとする。


 私はすぐに目を閉じた。


 見られない。


 怖かった。


 しかし、それから間もなく――


 小さく、それでもはっきりとした泣き声が、部屋の中へ響いた。


 子供?


 好奇心に負け、私はそっと片目だけを開いた。


 その瞬間。


 信じられないほど眩しい光が目へ飛び込み、私は危うくもう一度両目を閉じそうになった。


 眩しい。


 あまりにも眩しい。


 まるで、誤って太陽そのものを直視してしまったかのようだった。


 数秒が経ち、ようやく目が少しずつその光に慣れていく。


 ヨゴル閣下の両手も、治癒魔法によって淡く輝いていた。


 けれど、その掌の中にある生まれたばかりの小さな生命と比べれば、その光さえ霞んで見えた。


 彼は両手で、まるで丸い太陽そのもののように輝く何かを抱え、ゆっくりと持ち上げている。


 輪郭が見えるようになって、ようやく私は気づいた。


 あれは子供の頭だ。


 ヨゴル閣下は慎重に、少しずつ子供の身体を夫人の体内から取り出していった。


 私は驚いた。


 生まれたばかりの子供というものは、想像していたよりずっと大きかった。


 身体が母体から離れていくにつれ、さらに多くの血と透明な液体が切開部から流れ出し、突然開かれた泉のように寝台へ広がっていく。


 その光景を見た瞬間、また血まみれになった母上の姿が頭に浮かんだ。


 胸の奥から恐怖と悲しみが一気に込み上げ、私の掌から流していた魔力が大きく揺らいだ。


「ペラルド殿!」


 ヨゴル閣下はすぐに、その変化へ気づいた。


「集中してください! 今が最も重要な時です!夫人への魔力供給を、さらに安定させてください。お願いします!」


「はい!」


 今は、悲しんでいる時ではない。


 私は大きく息を吸い、無理やり記憶を押し戻した。


 震えかけた手を再び安定させ、リリロット夫人の腕へしっかりと当てる。


 そして、自分の光の魔力を、もう一度彼女の身体へ流し始めた。




 その間にも、子供の身体はほとんど完全に取り出されていた。


 私は、子供と夫人の身体の間に、まだ白い糸が一本つながっていることに気づいた。


 ヨゴル閣下は右手の人差し指と中指を伸ばした。


 その指先に、細く鋭い光の刃が生まれる。


 軽く一閃すると、そのつながりはすぐに断ち切られた。


 次の瞬間、子供は完全にヨゴル閣下の腕の中へ抱き上げられた。


 小さな身体は、それでもなお眩い光を放ち続けていた。


 私は呆然と、その姿を見つめた。


 なんて眩しい生命なのだろう。


 まるで、一人の人間の身体の中から、本物の太陽を取り出したかのようだった。


 その光は部屋全体を明るく照らし、壁も天井も、淡い金色に染めている。


 ヨゴル閣下は、あらかじめ用意されていた柔らかな布で子供を包んだ。


 顔や身体についた液体を慎重に拭い、呼吸を確かめる。


 それからようやく振り返り、レシュオン閣下のそばに控えていた執事と使用人へ、子供を預けた。


「おめでとうございます、レシュオン様」


 一人の執事が声を抑えながら告げた。


「カルロ家に、また新たな一員がお生まれになりました」


 別の使用人も、思わず感嘆の声を漏らした。


「生まれたばかりで、これほど眩しい光を放つなんて……」


「きっとカルロ家にとって大きな幸運となるお子様です。将来は、極めて優れた光魔法の才能をお持ちになることでしょう」


 レシュオン閣下は、自分の子供を見つめていた。


 その目には、確かに一瞬、大きな動揺にも似たものが浮かんだ。


 けれど、周囲の賞賛を聞いても、喜びの笑みを浮かべることはなかった。


 彼の視線は、すぐに寝台の上の妻へ戻った。


 今、最も大切なのは、生まれた子供がどれほど優れた才能を持っているかではない。


 リリロット夫人が生きて、この先も子供のそばにいられるのか。


 それだけだった。

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