第八十三話 やるせなさ
学院を離れ、レシュオン閣下の屋敷へ戻ってから、すでに三日が過ぎていた。
この三日間、私はほとんどずっと自室に閉じ籠もっていた。
出産を間近に控え、滅多に部屋の外へ出なくなったリリロット夫人と同じように、私も外へ出ようとはしなかった。
学院から戻った時、レシュオン閣下は執事や使用人たちを連れ、屋敷の玄関先で私を待っていた。
けれど私は、どうしても顔を上げて挨拶することができなかった。
ただ俯き、深く腰を折ったまま、彼の許しを乞うような姿勢を取り続けた。
あの時、レシュオン閣下が何を言っていたのか、私はもう覚えていない。
ずっと泣いていたからだ。
きっと、ひどくみっともない姿だった。
なんて情けないのだろう。
私は、すぐに泣いてしまう、それほど弱い人間なのだ。
ようやく与えてもらった学院での体験学習も、たった一度の練習戦によって、予定より早く終わらされてしまった。
父上も、すでにこの件を知っているはずだろう。
いつかわからないが、父上にどれほど厳しく叱責されるのか、想像することさえ怖かった。
レシュオン閣下も、きっと私に失望しているだろう。
私は、皆を失望させてしまったのだ。
部屋に閉じ籠もってからというもの、私はこの三日間、一度も魔法の訓練をしなかった。
レオン導師から借りた魔法書にも、触れることができなかった。
なんだか、あの本を開きさえすれば、導師が私に怒っている姿が、頁の向こうに浮かび上がってくるような気がした。
あの日以来、私はレオン導師と一度も会っていない。
あと数日もすれば、ここを出て、自分の家へ戻ることになるのだろうか。
レシュオン閣下も、いつまでも私をこの屋敷へ置いておくわけにはいかない。
学院での体験学習が早く終わったのなら、この屋敷に滞在できる期間も、それに合わせて短くなるはずだ。
今の私は、レシュオン閣下からいつ出ていくよう言われるのかを、ただ待っているだけなのかもしれない。
私は金色の縁取りが施された窓を開き、ぼんやりと遠くを眺めた。
光の領域の空は、いつ見ても変わらず明るい。
ほかの領域では、天候はこれほど安定していないらしい。空の様子も頻繁に変わり、時には私が一度も見たことのない景色が現れるという。
だが今の私の気持ちは、目の前に広がる明るい空とは、まるで釣り合っていなかった。
私はただ黙って、窓の外を眺め続けた。
本当は、何かを考えていたわけでもない。
ただ少し、外の空気を吸いたかっただけだ。
遠くから吹いてくる風が頬を撫でると、沈んでいた気持ちも、ほんのわずかに落ち着くように感じられた。
だがその時、窓の下から、使用人の心配そうな声が聞こえた。
「パーリセウス坊ちゃま、どうか窓へ近づきすぎないでくださいませ。危険でございます。何かご入り用でしたら、いつでもお申しつけください」
声は一度途切れ、すぐに慌てたように続けられた。
「申し訳ございません。突然お声をかけ、驚かせてしまいました」
私はそれを聞くと、急いで窓を閉めた。
またやらかしてしまったのか。
今の私は、自分が何をしても間違っているような気がしていた。
誰と話しても、その人までクレメンティ教授のように、突然私を叱り始めるのではないかと思ってしまう。
私は椅子へ腰を下ろし、両膝を胸の前まで引き寄せ、腕で強く抱え込んだ。
この座り方が礼儀に反していることくらい、私にもわかっている。
父上やドワインに見つかれば、すぐに姿勢を正すよう注意されるだろう。
けれど、もうどうでもよかった。
今、この部屋にいるのは私一人だけだ。
誰にも見られていない。
少しくらい、このままでいてもよいだろう。
膝を腕の中へ抱き込んでいると、まるで誰かを抱きしめているようで、ほんの少しだけ心が慰められた。
しばらくすると、扉が静かに叩かれた。
先ほどの使用人が、わずかに扉を開け、その隙間から慎重に尋ねてくる。
「パーリセウス坊ちゃま、何かご入り用でしょうか?」
「何も必要ありません。ありがとうございます」
私はすぐに、どこか硬い声で答えた。
「心配をかけてしまい、申し訳ありません」
彼は少しためらっているようだった。
だが、私がはっきりと首を横に振ると、彼は最後には小さく頷いた。それ以上何も言わず、静かに部屋から下がり、扉を閉めた。
けれど、彼が立ち去ろうとした瞬間、私は急に呼び止めたいという衝動に駆られた。
三か月にも満たなかった学院での体験学習について、誰かにすべて話してしまいたかった。
授業で起きたこと。
練習戦で起きたこと。
同級生たちから言われた言葉。
そのすべてを、誰か一人に聞いてほしかった、誰でもいい。
けれど、喉元まで出かかった言葉を、私は結局飲み込んだ。
彼に何を話せばよいのだろう。
話したところで、彼に何ができるのだろう。
彼は、レシュオン閣下の屋敷に仕える一人の使用人にすぎない。
そしてレシュオン閣下は、これまで私を十分すぎるほど助けてくださった。
これ以上、私は何を願うというのだ。
何を求めることが許されるのだろう。
私はそのまま、椅子の上でぼんやりと座り続けた。
……
一時間ほど経ってから、ようやく、自分がこれからどうすればよいのかを考え始めた。
家へ帰るのか。
またスレーやハンクおじさんたちとの戦闘訓練を続け、魔法の腕を磨いていくのか。
学院へ通うという道は、もう閉ざされてしまったのだろう。
おそらく今後、私を学徒として引き受けてくれる導師も現れない。
初級学徒が身につけるべき内容は、すでにほとんど学び終えている。
けれど学院もなく、導師もいない状態で、私はこの先も進んでいけるのだろうか。
これから、どのように生きればよいのだろう。
本当に黄金魔法師になれるのかという自信さえ、少しずつ揺らぎ始めていた。
家族が長い間抱き続けてきた悲願を、私は果たせるのだろうか。
自分自身の夢を、実現することができるのだろうか。
ましてや、母上の仇を討つことなど――
そのすべてが、急に遥か遠くへ離れてしまったように思えた。
私が魔法の練習戦で、武器を使ってはいけなかったからなのか。
中級学徒からの挑戦状を受けたことが、間違いだったのか。
いや。
もしかすると、もっと前から間違えていたのかもしれない。
私は、オスワルドとの練習戦をするべきではなかったのだろうか。
それとも最初から父上の言葉に従い、魔法学院などへ行こうとしなければよかったのか。
結局、すべては私のわがままから始まったことだ。
私が、どうしても一度、魔法学徒としての生活を経験してみたいと願ったから。
けれど私は、ほかの同年代の子供たちと同じように、家の外へ出てみたかっただけだ。
外の世界を、自分の目で見たかった。
同じ年頃の者たちと話し、魔法について学んだことや考えたことを語り合ってみたかった。
ただ、それだけだった。
本当に、それだけだったのに。
私は頬を伝った涙を拭った。
ああ、また泣いてしまった。
こうしたことを考えるたび、どうしても感情を抑えられなくなる。
それは、老執事のドワインから受けた教えに、まるで反していた。
真の貴族は、どのような出来事に直面しても、優雅さと強さ、そして相応の風格を失ってはならない、と。
けれど、それは私にはあまりにも難しかった。
もしかすると私は、貴族には向いていないのかもしれない。
母上のように、冒険者となる方が自分には合っているのだろうか。
もっと遠くの地へ向かい、未知の世界へ挑む。
旅を続け、冒険を重ねる。
そうした場所でなら、かえって戦う力や魔法の技量を伸ばしていけるかもしれない。
だが父上は、私が家を離れ、それほど遠い場所へ旅立つことを許してくださるだろうか。
どうすれば父上に冒険へ出ることを認めてもらえるのか。
その理由を考えていた時、突然、廊下から慌ただしい足音が聞こえてきた。
私の身体は、瞬く間に緊張した。
まさか、ついに私へ屋敷を出るよう告げに来たのだろうか。
次の瞬間、勢いよく扉が開かれた。
そこに立っていたのは、焦りと心配を露わにしたレシュオン閣下だった。
「レシュオン閣下?」
私は急いで抱えていた膝を下ろし、椅子から立ち上がった。
「何かあったのでしょうか?」
「パーリセウス、早く来なさい」
レシュオン閣下の声は、普段とはまるで違っていた。
呼吸は乱れ、言葉もところどころ途切れている。
「リリロットの容体に異変が起きた。すでに人を遣わし、君の父上を呼びに行かせている。ヴィスカルロ城で最も優れた医師にも、来てもらうよう頼んだ」
そう言いながら、彼は私へ手を差し出した。
「君も来て、力を貸してほしい」
「で、ですが、私に何ができるのでしょうか?」
私は戸惑いながら尋ねた。
しかしレシュオン閣下は、すでに私の手を握り、足早に部屋の外へ歩き始めていた。
私はただ彼の歩調についていき、もう随分長い間閉じ籠もっていたように感じる自室から、ようやく外へ踏み出した。
リリロット夫人の子供が、もう生まれようとしているのだろうか。
けれど、レシュオン閣下が口にしたのは、「異変が起きた」という言葉だった。
胸の奥へ、得体の知れない不吉な予感が、ゆっくりと広がり始めた。




