第七十八話 異変
『カルロ学級所属、ペラルド・カルロ・パーリセウス殿。
私はヴィスカルロ魔法学院の中級学徒、ソルーン・ベル・グリエンと申します。光明神のご加護のもと、あなたとお知り合いになれる機会を得ましたことを、心より光栄に存じます』
これは間違いなく、正式な貴族書簡だった。
父上が普段、レシュオン閣下をはじめとするほかの貴族と書簡を交わす際にも、これとよく似た形式を用いている。
しかし、ソルーン……。
しかも、貴族としての姓はベル。
それは、私と同じ学級にいるソルーン・ベル・フィリシアと、同じ一族なのではないだろうか。
けれど、私はフィリシア嬢とは、ほとんど話したことがない。
この手紙の差出人であるグリエンも、彼女と同じ一族なのだろうか。
以前、どこかで顔を合わせたことがあっただろうか。
それに、この人は私に何の用があるのだろう。
私はいくつもの疑問を抱えたまま、続きを読むことにした。
『あなたが練習戦において、極めて優れた戦いぶりを見せたと耳にいたしました。初級学徒の中でも、ひときわ秀でた実力をお持ちとのこと。同じ学院にあなたのような優秀な後輩がいることを、私も大変喜ばしく思っております。
つきましては、ベル家を代表し、魔法を通じて互いに研鑽を重ねるため、友好的な練習戦を正式に申し込みたく存じます。
もしお受けいただけるのであれば、日時は明日の午後一時にお願いしたく存じます。すでに練習場の予約は済ませております。あなたのお越しを、心よりお待ち申し上げます。
イシス学級所属、中級学徒ソルーン・ベル・グリエン』
私は深く息を吸い込んだ。
そして、そのまま呼吸を止めた。
これが形式の整った、正式な挑戦状だった。
だが、どうして中級学徒が突然、私に挑もうとするのだろう。
私はこの人物を見たこともなければ、名前を聞いた記憶すらない。
知らないうちに、彼と同じ一族の誰かを怒らせてしまったのだろうか。
学徒同士の練習戦は、学院の規則で禁止されているわけではない。
双方が同意し、導師の監督を受けるのであれば、自由に行うことができる。
以前オスワルドと戦った際に負った傷は、治癒魔法によってすでに治っていた。
けれど、すぐにまた別の者と練習戦を行う心の準備までは、まだできていない。
それでも、相手が貴族の名において正式に申し込んできた以上、カルロ家の者として断るべきではない。
まして、恐れて退くことなどできない。
わずか三か月の体験学習の間に、さらに別の練習戦を行うことになるとは思ってもいなかった。
しかも、このところ父上にも、ドワインにも会っていない。
屋敷へ帰ったあと、二人にどう説明すればよいのだろう……
ともかく、今は受けて立つしかない。
私はすでに、本来なら中級学徒が学ぶ強光束を身につけている。
この戦いにも、まったく勝ち目がないとは限らない。
それに、これは彼らへ証明する機会になるかもしれない。
私もまた、間違いなく光族の一人なのだと。
私は素早く挑戦状を折り畳み、鞄の中へしまった。
そして、早足で学院を飛び出した。
執事がそばにいなくても、私は一人で学院へ通うことができる。
一人でも、きちんと物事を成し遂げられるのだ。
……
同じ頃、学院二階の教室では、一人の学徒が、勲章のついた白い制服の襟元を整え、導師へ簡潔に一礼していた。
彼は美しい淡金色の髪をしていた。
柔らかな髪が両側へ流れ落ち、耳を覆い隠している。
「イシス導師。私をお呼びでしょうか」
長い褐色の髪を持つ中年の導師は、彼を見つめながら、静かにため息をついた。
「グリエン。なぜ突然、初級学徒へ練習戦を申し込んだのですか?」
「あなたは学院から大きな期待を寄せられている中級学徒です。実戦を通じて自らを鍛えたいのであれば、挑戦する相手は上級学徒であるべきでしょう」
グリエンは片手を上げ、自分の髪を軽く整えてから、ゆっくりと答えた。
「同じ一族の妹から、彼の話を聞いたからです。聞くところによれば、彼の実力は、とても初級学徒のものとは思えないそうですね。ただの体験生でありながら、相当に優れた潜在力を持っているとか。導師もご存じの通り、私は以前から、さまざまな相手と練習戦を行いたいと考えています。魔法の技量を高めるうえで、実戦に勝るものはありませんから」
その顔には、自信が満ちていた。
まるで、練習戦がまだ始まってもいないうちから、すでに完全な勝利を確信しているかのようだった。
「確かに、言っていること自体は間違っていませんが……」
イシス導師の眉間からは、依然として皺が消えなかった。
「しかし、相手が申し出を受けるとは限りません。それに、この練習戦に伴うかもしれない危険についても、理解しているのでしょうね?」
グリエンの表情が、突然冷たくなった。
今の言葉が、自分が負ける可能性をわずかでも疑われたように感じたのだろう。
「もちろん理解しております、導師。ですが、彼は必ず来ると確信しています」
グリエンは、わずかに顎を上げた。
「彼も貴族の出身だと聞いております。そうである以上、貴族からの正式な申し入れを拒むべきではありません。少なくとも、彼が貴族として持つべき誇りと責任を、本当に備えているのであれば」
「グリエン。もう一度、よく考えることを勧めます」
「失礼いたします、導師」
グリエンは、イシスの言葉を遮った。
「このあと、まだ魔法の訓練が残っております。明日はぜひ、監督とご指導をお願いいたします」
そう言うと、彼は簡潔に一礼し、顎を高く上げたまま教室を出ていった。
グリエンは天才だ。
しかし、あのような心構えでは、これ以上先へ進むことは難しいだろう。
イシス導師は、去っていく彼の背中を見つめながら、深く考え込んだ。
そして、翌日の昼食時。
休憩時間であるにもかかわらず、練習場にはすでに多くの初級学徒と中級学徒が集まっていた。
グリエンは、周囲を取り囲む見物人たちを見渡し、満足そうな表情を浮かべた。
いいだろう。
お前たちは、そこでその目に焼きつければいい。
このグリエンが、あの悪魔をどのように打ち倒すのかを。
もっとも、あの者にここまで来るだけの勇気が残っていればの話だが。
俺の名を知ったうえで、それでもなお目の前に立つというのなら、ほんのわずかくらいは、貴族としての度胸を認めてやってもいい。
たとえ、黒い髪を持つ異端者であることに変わりはないとしても。
……
ソルーン・ベル・グリエン。
私は、その名前を以前どこかで聞いた記憶がまったくなかった。
ただ、学院の中には飛び抜けた実力を持ち、学院が特に力を入れて育成している学徒が何人かいるとは聞いている。
もしかすると、この人物もその一人なのではないだろうか。
そう考えた瞬間、それまで自分を励ますために抱いていた考えは、煙のように跡形もなく消え去った。
代わって胸の中を占めたのは、冷静さなどではない。
強い不安だった。
相手がすでに中級学徒であるのなら、今の私が最も得意としている強光束でさえ、彼にとってはとうに身につけた基礎魔法にすぎないのだろう。
同じ魔法を使って正面から競い合えば、私に勝ち目はない。
では、私には彼に勝てる何があるのだろう。
その夜、私は寝台の上で何度も寝返りを打ちながら、長い間考え続けた。
だが、どれほど考えても、実行できそうな方法は一つも見つからなかった。
そして、翌朝。
私は沈んだ気持ちのまま、学院へ続く道を歩いていた。
その時、正面から突然、激しい風が吹きつけてきた。
風が身体の横を通り抜けていくのを感じた瞬間、私は以前、スレーおじさんから受けた教えを思い出した。
「スレーおじさん」
「おじさんはやめてください」
スレーは水の入った杯を置き、全身を汗で濡らしたまま私を見た。
「私はまだ五十歳にもなっていません。スレーとお呼びくだされば結構です。それで、どうなさいましたか、ペラルド坊ちゃま?」
「王剣騎士と黄金魔法師では、どちらの方が強いのですか?」
私は顔を上げて尋ねた。
スレーは私の質問が面白かったらしく、整った白い歯を見せて笑った。
「それは、なかなか興味深い質問ですね、坊ちゃま」
「必ずどちらか一方が強いなどということはありません」
彼は一度言葉を止めると、片手を上げ、遠くで標的を設置しているハンクを指した。
「ハンクは以前、一人の黄金魔法師に敗れたことがあります」
「ですが、王剣騎士としての彼の実力が優秀であることに疑いはありません。彼に敗れた魔法師など、数え切れないほどいるのですから」
「そして彼が魔法師を相手にする時、最も得意としているのが速攻です」
「つまり、相手が魔法を完成させるより先に、速度で押し切って勝利するのです」
スレーは私の方へ顔を向け、真剣な眼差しで言った。
「坊ちゃま。この世に、絶対的に強い者など存在しません」
「ただ、間違った戦術を選べば、自ら不利な勝負へ足を踏み入れることになります」
「自分の長所を柔軟に生かし、相手の弱点を攻めなければなりません」
そう言いながら、彼は私が握っている練習剣を指した。
「たとえば、先ほどの坊ちゃまの斬撃は、なかなか見事なものでした」
斬撃?
けれど私は、魔法師を目指しているのではなかったか……
「ですが私は、優れた魔法師になりたいのです」
「それは、何も矛盾しませんよ、坊ちゃま」
スレーは片目をつぶり、口元を大きく緩めた。
「速度は、魔法師にとっても立派な長所になります」
「自分の優位をつかみ、それを用いて相手を倒せるのであれば、どのような方法を使ってもよいのです」
……
やはり、スレーやハンクと訓練を重ねたあの数か月の間に、私は多くのものを学んでいた。
自分よりはるかに強い者と戦えば、たとえ毎回ひどく打ち負かされたとしても、そこから得られるものは数多くある。
護盾の強度を競えば、おそらく私はグリエンに及ばない。
強光束も、相手が十分に使い慣れている魔法に違いない。
この数か月、学院の授業で学んだものだけに頼っていては、私より長く学んできた中級学徒に勝てるはずがない。
それならば、彼がまだ経験したことのないものを使うしかない。
けれど、どうやって相手へ接近し、斬撃を加えればよいのだろう。
彼の護盾も、スレーが展開する護盾ほど頑丈ではないはずだ。
近づくことさえできれば。
相手が魔法を完成させるよりも早く、私の攻撃範囲へ踏み込むことができれば……
その日のレオン導師の授業中、私はほとんど最初から最後まで上の空だった。
午前の授業がすべて終わると、私はまるで機械のように教室を出て、ゆっくりと練習場へ向かった。
約束の場所が近づくほど、一歩ごとに足が重くなっていく。
胸の中は、どうしても押さえ込むことのできない不安で満たされていた。




