第七十七話 慰め
私は導師棟の外を行ったり来たりしながら、どうしても中へ入ってレオン導師を捜すことができずにいた。
以前の一件で、許可も得ず勝手に中へ入れば、また厳しく叱られることを知っていたからだ。場合によっては、処罰されることさえあるかもしれない。
誰か、私を助けてくれないだろうか。
たった一言、声をかけてくれるだけでもいい。
ただ私のそばに立ってくれるだけでもよかった。
けれど、誰もいない。
以前なら、母上がそばにいてくださった。
だが、母上はもういない。
ドワインも来られない。
ユーナも来られない。
二人には、それぞれしなければならないことがある。
これまでの私は、家の部屋に籠もって勉強するか、外へ呼び出されて戦闘訓練を受けるか、そのどちらかだった。
けれど本当は、ずっと外へ出てみたかった。
この新しい星を、自分の目で見たかった。
この新しい世界を歩き、もっと多くの人と知り合いたかった。
それなのに今、ようやく知り合った人たちは、集まって私のことを語り、悪魔だと呼んでいる。
どこに悪魔などいるというのだ。
そんなものは書物の中の物語でしかない。数百年前に起きたという、真偽さえ定かではない領域大戦に現れるものだ。
髪が漆黒であるというだけで、どうしてあのように私を貶めるのだろう。
けれど、先ほどの廊下では、その言葉を一つも口にできなかった。
あの時、私の喉には大きな石が詰まっているようだった。
吐き出すこともできず、飲み込むこともできない。
息をすることさえ、その石に塞がれているように苦しかった。
別の学級を受け持つ導師が一人、私のそばを通りかかり、声をかけてくれた。
けれど私は、ただ俯いたまま、何も答えられなかった。
自分でも、何をどう説明すればよいのかわからなかったからだ。
やがて、その導師は去っていった。
もしかすると最初から、私に何があったのかを本当に尋ねるつもりなど、なかったのかもしれない……
「ペラルド。ここで何をしているのですか?」
突然、背後からレオンの声が聞こえた。
私は振り返り、驚いた表情を浮かべている導師を見た。
どうやら、彼は導師棟の中にはいなかったらしい。
だが、そんなことはもうどうでもよかった。
私はもともと、彼を捜すためにここへ来たのだから。
しかし、導師を見つけたあと、私はどうすればよいのだろう。
何も考えていなかった。
事前に説明を用意していたわけでもなく、どのように話せばよいのかもわからない。
私は袖を上げ、目尻を拭った。
そのまま俯いた時、胸元の服がすでに涙で濡れていることに気づいた。
もう、どうでもいい。
私がいつまでも話そうとしないのを見ると、レオンは何も言わず、私の手を取った。
そのまま私を連れ、導師棟の中へ入っていく。
私は口を開いたが、声は出なかった。
本当に、このまま入ってよいのだろうか。
私はまだ、何が起きたのかさえ説明していない。
もし、またあの恐ろしい教授に見つかったらどうするのだろう。
導師まで私のせいで巻き込まれてしまったら……
けれどレオンは歩調を速めるだけで、私を自分の執務室まで連れていった。そして中へ入ると、扉をきちんと閉めた。
そこで私は初めて、彼の部屋をじっくりと見回した。
茶色い革張りの長椅子が二つ。
淡い白色をした木製の机と椅子。
二列の書架には、厚さも大きさも異なる書物が整然と並べられている。
そして水晶窓の外から、午後の柔らかな陽光が差し込んでいた。
それ以外には、ほとんど何もない。
驚くほど簡素な部屋だった。
私は顔を戻した。
レオンはすでに長椅子へ腰を下ろし、静かに私を見ていた。
彼はすぐに、何があったのかを尋ねなかった。
助けが必要なのかとも聞かなかった。
ただ、そこに静かに座っていた。
まるで、私が自分から口を開き、胸の内にあるものをすべて話すのを待っているかのようだった。
「座りなさい、ペラルド」
長い時間が過ぎ、私の涙がようやく止まってから、彼は初めてそう言った。
私はゆっくりと腰を下ろした。
しばらく黙ったあと、ようやく口を開く。
「導師。どうして私は、黒い髪なのでしょうか」
それを聞いたレオンは、わずかに目を見開いた。
彼にわかるはずがない。
私は、なんて愚かなことを尋ねたのだろう。
それでも私は、彼に聞きたかった。
父上でもなく、老執事でもない。
レオン導師に尋ねたかった。
本当は、自分の黒髪が母上から受け継いだものであることくらい、私も知っている。
私が本当に聞きたかったのは、どうして自分だけが、ほかの人と違うのかということだった。
しかも、その違いが、皆から悪いものだと思われてしまうような違いであることが。
レオンは、ゆっくりと口を開いた。
「実を言えば、私も以前、そのことを疑問に思ったことがあります」
その声音は、どこまでも率直だった。
「ですが、レシュオン閣下から、それはあなたの家系に由来するものだと説明を受けました。それ以降、私はそのことに何の疑いも抱いていません」
どうして、導師はほかの人たちと違うのだろう。
私は、同級生全員に同じように説明しなければならないのだろうか。
この黒髪は、ただ家から受け継いだものだと伝えれば、彼らも私を見る目を変えてくれるのだろうか。
「でも、私は黒髪でいたくありません」
私の声は、次第に小さくなっていった。
「皆が、私を悪魔だと言うのです」
その言葉を聞いた途端、レオンは眉を寄せた。
その眼差しは、急に厳しいものへ変わった。
だが、その表情を見た私は、かえって安心した。
「誰がそのようなことを言っていたのか、知っていますか?」
「わかりません、導師」
私は俯いた。
「その場から逃げてきました。誰だったのか、知りたいとも思いません」
レオンは立ち上がり、私の前まで歩いてきた。
そして、そっと私の顎に手を添え、顔を上げさせた。
「最初のうちは、確かに私も疑問を抱いていました」
その声は、先ほどよりずっと柔らかくなっていた。
「いえ、疑問というより、少し不安を感じていたと言った方が正しいでしょう」
「光の領域に生きる者にとって、髪の色は、その者が持つ光属性の魔力への親和性や、魔力の純度と結びつけて考えられることが多いのです。金色や白色に近いほど、高い潜在力を持つと見なされやすい」
そこまで言うと、彼は一度言葉を止めた。
少しだけ、続けることをためらっているようにも見えた。
「ですから最初は、あなたが暗属性の魔力に親和性を持っているのではないかと考えたこともあります。しかしその後、私は資料を調べました。光の領域において暗属性の魔力を扱える者であっても、必ずしも髪が黒いわけではありません。また、黒髪の者が必ず暗属性の魔力を使えるというわけでもありません」
彼の眼差しは、さらに強いものになった。
「何より、仮にあなたが本当に暗属性の魔力を使えたとしても、それだけで悪魔だと決めつけることはできません」
「ペラルド。私は、魔法の属性が、その人の身分や価値を決めるものではないと信じています」
レオンの揺るぎない声を聞いた瞬間、私は再び涙をこらえられなくなった。
数滴の涙がこぼれ、手の甲へ落ちた。
「でも……」
私は顔を上げ、彼を見た。
「それでも、わかりません。どうして導師は、私が悪魔ではないと信じられるのですか?」
私の目に映ったのは、導師の穏やかな微笑みだった。
「最初の授業で、私はあなたの明光術をこの目で見ました」
レオンは静かに言った。
「あの光は、澄みきっていて、とても美しかった」
「それを目にした瞬間から、私は信じています。あれは決して、悪魔に放てる光ではないと」
「うっ……」
次に気がついた時、私はすでにレシュオン閣下の屋敷へ戻っていた。
あのあと、自分がレオン導師に何を話したのか、ほとんど覚えていない。
ただ、導師が私を抱き寄せてくれたような気がする。
それから、レシュオン家の執事が学院まで迎えに来て、私を連れ帰ってくれたようにも思う。
とにかく、あの感覚は、深い水の中へ沈みかけていた私が、ようやく誰かの手によって岸へ引き上げられたようなものだった。
胸の中には、まだ恐怖が残っている。
けれど、それとは別に、感謝という名の温かさも、ずっと心の内に留まっていた。
それは、明るく輝く衛星のように、私の心の周囲をゆっくりと巡っている。
そして、何度も私へ教えてくれた。
あのような学院の中にも、信じるに値する人はいる。
敬うに値する人もいる。
そして、生涯感謝し続けたいと思える人もいるのだと。
……
翌日、オスワルドはいつも通り教室へ入ってきた。
ただ、以前とは違い、普段よりずっと静かだった。
あまりにも静かなため、先日の強光束が彼の頭にまで当たってしまったのではないかと、疑いたくなるほどだった。
彼は一度も私を見なかった。
それなら、それで構わない。
彼がもう何も問題を起こさないのであれば、私も彼など存在しないものとして扱える。
ただ、周囲の者たちも同じように、私を存在しないものとして扱っているようだった。
教室の空気は、以前よりもさらに静かになっていく。
けれど、それも悪いことではない。
少なくとも、レオン導師の説明は以前よりずっと聞き取りやすくなった。
私は、このまま静かに体験学習の最後の数日を終えるのだと思っていた。
しかし、その日の午後。
私は誰もいない教室へ入り、荷物をまとめて帰ろうとした時――
机の上に整然と置かれていた一通の正式な貴族書簡が、その後の私の学徒としての歩みを、大きく変えることになった。




