第七十六話 勝者はいない
「お前は旧貴族よりも優秀でなければならない。生まれながらに姓を持つ者たちよりも、さらに貴族らしく振る舞わなければならない。そうでなければ、連中は陰で我々を笑うだろう。金貨の力で這い上がっただけの成り上がりだとな」
父の声だ。
どうして、よりによって今になって、また耳元で聞こえてくる……
「オスワルドのやつ、ただの成り上がりのくせに、本物の貴族を前にして偉そうに振る舞っている」
お前たちは皆、俺の背後に隠れて陰口を叩くだけだ。
俺の前に立って、自分の口で言う勇気すらない。
臆病者どもめ!
「ああ、これは尊敬すべきアルヴィンド・フィオラド・オスワルド殿。本学院は、フィオラド家の優秀なご子息が魔法を学びにお越しくださることを、心より歓迎いたします」
まるで本の頁をめくるように、あっさりと態度を変える教授だ。
この男が、この魔法学院を管理する者なのか。
「オスワルド。あなたに才能があることは間違いありません。しかし、もう少し腰を据えて学ぶことを覚えてほしい。光魔法への理解には時間が必要です。焦りすぎてはいけません」
どうして、よりによってこんな臆病で退屈な導師に当たったのだ。
俺は最初の学期のうちに、この学級で最も優秀な学徒にならなければならないのに!
「レオン導師が担当する学級の皆さんにお知らせします。明日より、一名の体験生が授業へ参加します。実際の習得水準によっては、今後の授業の進み方を多少調整する可能性があります」
ふざけるな!
中級学徒へ進むための強光束の授業が、ようやく始まったばかりだ。
今さら、初歩の明光術や光弾に費やしている時間など、どこにあるというのだ!
「皆さん、初めまして! 私はペラルド・カルロ・パーリセウスです!」
何だ、あれは。
どうして黒髪の者がいる?
怪物、異種族。
あれはきっと、闇の領域から来た悪魔だ!
あのようなものは、数百年前にすべて滅ぼされているはずだった!
「ファロ! この田舎者、早く後ろを見ろ!」
ファロの馬鹿が、あの怪物にいいように翻弄されている!
俺の配下になると言ったのではなかったのか。
その程度の実力しかないのか!
うるさい。
お前たちの雑音など、すべて遠く後ろへ置き去りにしてやる。
いつかお前たちは、ただ俺を仰ぎ見て、崇めることしかできなくなるのだ。
待て……
どうして、急に周囲が暗くなった?
前に誰かが立っている。
あの黒髪のやつだ!
学院へ来たばかりの体験生が、俺よりも強い光弾を放つなど、あり得ない。
あいつの明光術は俺のものより眩しく、その光の色さえ、理想とされる金色に近い。
そんなことがあるはずがない。
許せない!
あいつは、何か邪悪な魔法を使ったに違いない!
レオンとも親しそうにしている。きっと、特別な指導を受けたのだ。
どうしてあいつは、エルノスのそばにまで近づいている?
あの馬鹿は、怪物から離れなければならないことすらわからないのか。
離れろ。
エルノスから離れろ!
俺よりも先に強光束を身につけただと。
しかも、あれほどの威力を……。
駄目だ。
認められない。
認められるものか!
絶対に認めない!
まだ戦いは終わっていない。
こちらを向け!
くそっ。
俺を追い詰めるな!
その時、オスワルドの掌の中で、大きな光弾が急速に形を成した。
激しく膨張した光の塊を、彼は背を向けているペラルドへ向かって、力任せに放った。
轟――!
光弾は、ペラルドの背後にわずかに残っていた護盾の光を突き破った。
衣服を焼き焦がし、その背中一面に暗赤色の傷痕を刻みつけた。
……
痛い。
こんなにも痛い一撃を受けたことなど、一度もなかった。
もしかすると、ドワインも、スレーおじさんも、ハンクおじさんも、これまではずっと私に手加減してくれていたのだろうか。
視界が一瞬で暗闇に沈んだ。
私は、危うく意識を失いかけた。
幸い、すぐそばには砕けかけた岩が残っていた。私は慌てて手を伸ばし、それに身体を預けたことで、どうにか倒れずに済んだ。
激痛に耐えながら、私は怒りに任せて振り返った。
オスワルドは地面に伏していた。
その目には、私と同じように激しい怒りが満ちている。
だが呼吸はすでに途切れ途切れになっており、身体も大きく上下していた。
それでもなお、彼の掌は新たな光弾を作り出そうとしている。
しかし次の瞬間、レオンが彼の前へ駆け込み、その手首を強くつかんだ。
「オスワルド! 練習戦はすでに終了しています! 直ちに攻撃をやめなさい!」
オスワルドは、なおも導師の拘束から逃れようとした。
だが、数回身体をもがかせたところで、全身から完全に力が抜けた。
どうやら、意識を失ったらしい。
私は岩へ身体を預けたまま、荒い呼吸を繰り返した。
しかし背中から伝わってくる激痛によって、先ほど勝利した時の喜びは、跡形もなく洗い流されていた。
私は、確かに勝ったはずだ。
それなのに、どうして。
どうして、あいつはまだ私を攻撃したのだ。
いったい、何をしようとしていた?
まさか、あいつも私を殺そうとしたのか。
あいつは新興貴族だ、光明教派に属する家の者だ。
残酷で、自分のことしか考えない者たちの子供だ。
母上を殺した者たちと、同じ側にいる人間だ。
私は、あの者たちを永遠に許さない。
お前のこともだ、オスワルド。
……
レオンが練習戦の終了を宣言したあと、私たちはそれぞれ別の休憩室へ運ばれ、治療を受けた。
身体の痛みは、治癒魔法によってすぐに薄れていった。
けれど、心の中には深い傷が残ったように感じられた。
その傷は、私に訴えかけているようだった。
この世界には、いつか必ず、私の敵になる者がいる。
そしてその者たちは、永遠に敵であり続けるのだと。
翌日、オスワルドは練習戦の規則に違反し、私にもまだ治りきらない傷を負わせたとして、学院から一時的な帰宅を命じられた。
数日間、自宅で謹慎し、反省することになったらしい。
それからの数日間、オスワルドがいなくなった教室は、急に静かになった。
私は、その静けさをかなり気に入っていた。
しかし、あの練習戦が終わってからというもの、周囲の者たちが意図的に私を避け始めていることに、少しずつ気づいた。
たとえば授業が終わったあと、私はほかの学徒たちと一緒に食事を受け取りに行く。
だが周囲の学徒たちは、自分の食事を受け取ると、すぐにその場を離れてしまう。
近くには空いている席がいくつもあるのに、誰一人として私のそばに座ろうとしない。
私を中心に円を描くように、周囲の机と椅子だけが空いていた。
また、朝の登校途中で同じ学級の者と出会えば、本来なら互いに挨拶を交わすべきだった。
けれど相手は、慌ただしく私へ一礼するだけで、すぐに顔を伏せ、足早に学院へ駆け込んでいく。
まるで、私を恐れているかのようだった。
何なのだ……
どうして以前は、オスワルドをそれほど恐れていなかったくせに。
私は少し落ち込んだ。
それでも、オスワルドが学院にいないだけで、気分はそれほど悪くなかった。
彼が戻ってくる前日の午後までは。
授業を終えたあと、私が廊下を通りかかった時、不意に信じがたい言葉が耳へ入ってきた。
「一時的に家へ帰って休養するって話だけど、学院の規則に違反したんだから、オスワルドは実質的に停学になったようなものだよな……」
「そうだよ。あいつが嫌な奴なのは確かだけど、あそこまで傷つけた本人は、何事もなかったみたいに授業を受け続けているんだぜ」
「本当だよ! 人間らしい心がないんじゃないの? 最初から、黒髪の人間なんて絶対に邪悪だと思ってた」
「間違いないよ。あの人の髪は、あなたみたいに綺麗な金色じゃないもの。私はあなたの髪が本当に羨ましいわ」
「やっぱり髪の色と心は同じなんだね。見ればすぐにわかるもの」
「幸い、あの悪魔はあと一か月もしないうちに出ていくんでしょう? 明日にでも消えてほしいよ」
「そうだよ。早く出ていけばいいんだ、疫病神!」
私は壁へ身体を預けたまま、動くことができなかった。
ひそひそとした声は、少し離れた曲がり角の向こうから聞こえていた。
誰が話しているのかは、私にはわからない。
ただ、その中には少年の声も、少女の声も混じっていた。
そして、その声の聞き覚えが、彼らが私の同級生であることを告げていた。
どうして。
どうして、こんなことになったのだろう。
怒りよりも先に、胸の奥を深く抉るような痛みが広がった。
なぜ、私をそんなふうに言うのだ。
私の黒髪が、どうして私の心を邪悪にするというのか。
確かに私も、美しい金髪を持つ者たちを羨ましく思っている。
けれど、自分の髪を変えることなどできない。
どれほど努力したとしても、永遠に変えられないものなのに。
私は邪悪なのだろうか。
オスワルドを傷つけたという、それだけの理由で?
けれど、あいつが私に浴びせた言葉も、確かに私を傷つけた。
それに、あいつはお前たちのことも、ずっと傷つけてきたはずではないか。
どうして、誰一人として私のために何かを言ってくれないのだ。
どうして、長い間オスワルドに苦しめられてきた者たちが、今になって一緒になって私を貶めるのだ。
私は身を翻し、その場から逃げ出した。
俯いたまま、教室棟へ向かって一心に走り続ける。
目尻から次々とあふれ出したものが頬を伝い、やがて胸元の服を濡らしていった。




