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第七十四話 誰を守ったのか

 オスワルドが術を放つ速度は、あまりにも速かった。


 私が反応し、光の護盾を展開しようとするよりも早い。


 私は驚いて目を見開いた。


 正面から迫る光弾が風を巻き起こし、額にかかっていた黒髪を後ろへ吹き上げる。


 この一瞬で、光弾を防ぎ切れるだけの護盾を練り上げることなど、到底間に合わない。


 光の魔力を直接ぶつけ、できる限り相殺するしかないのか。


 私は慌てて片手を上げ、掌へ光の魔力を集めた。どうにか、正面から迫った最初の一撃を受け止める。


 二つの光が、私の掌の中で激しく衝突した。


 しかし、オスワルドは攻撃を止めなかった。


 続けざまに複数の光弾を放ち、それらすべてを私へ向けて撃ち込んでくる。


 この野蛮で無礼な男は、本当に教室の中で攻撃魔法を使ったのだ。


 残りの光弾が私へ命中しようとした、その瞬間だった。


 見覚えのある人影が、教室へ飛び込んできた。


 その人物が片手を掲げる。


 小さく、精密に凝縮された複数の光弾が一斉に放たれ、空中でオスワルドの攻撃を一発ずつ迎え撃った。


 衝突した光弾はすべて砕け、細かな火花のような光となって教室の中へ散っていく。


 レオン導師だった。


 来るのが早くて助かった。


 けれど同時に、私たちが教室で争っていたことを、導師に直接見られてしまった。


 どうしよう……


「二人とも、やめなさい! その場に立ち、両手を背中へ回しなさい!」


 レオンの顔には、私がこれまで一度も見たことのない厳しさが浮かんでいた。


 当然だ、教室内で争いを起こすことは、学院の規律に対する重大な違反なのだから。


 ただ、先ほどの私の行動も、オスワルドと戦ったことになるのだろうか。


 私は彼に、攻撃魔法を使ってはいない。


 反撃しようとは考えていたけれど。


「二人とも、今すぐ私の執務室へ来なさい!」


 レオンの言う執務室とは、まさか、あの恐ろしい教授がいる、導師の許可なしには入れない学院の禁域ではないだろうか。


 これは大変なことになった……




 レオンの後ろを歩く間、私はずっと俯いていた。


 額に滲んだ汗が鼻筋を伝い、鼻先へ集まっていく。それでも、手を上げて拭う勇気さえなかった。


 そのうえオスワルドは、わざと私の肩へぶつかると、無理やり私とレオン導師の間へ割り込んだ。


 ほんの少し歩くだけなのに、お前はどうしても私より前へ出たいのか。


 この男は、本当に貴族としての教育を受けたことがあるのだろうか。


 私は密かに拳を握りしめた。


 けれど、これから導師に叱られることを思い出し、ゆっくりと手を開いて、小さく息を吐いた。


 着いた。


 ここは、以前私に恐ろしい記憶を残した場所だった。


 レオン導師は、まず私を執務室の外で待たせた。


 先にオスワルドから事情を聞くという。


 考えるまでもない。


 あの男は、きっとすべての責任を私へ押しつけるに決まっている。


 どうすればいい……


 私の言葉を、レオン導師は信じてくれるだろうか。




 どう説明すればよいのかを何度も考えていると、意外にも、オスワルドはすぐに執務室から出てきた。


 彼は顔を横へ背け、私を一度も見ようとせず、そのまま立ち去っていった。


 どういうことだろう。


 どうして、もう帰ってしまったのか。


 まさか導師は、すべて私が悪いと考えたのだろうか。


 私は、どのような罰を受けるのだろう……


「ペラルド。入りなさい」


 普段と変わらない、レオンの静かな声が私の思考を遮った。


 同時に、心臓が急に強く脈打ち始める。


 私は重い足取りで執務室へ入り、レオンの前まで進むと、頭を下げた。


「レオン導師、私が悪かったのです。教室でオスワルドと口論するべきではありませんでした。どうかお許しください。今後は、決して同じことを繰り返しません……」


 私は、あらかじめ用意していた言葉を暗唱するように、ゆっくりと明瞭に謝罪を口にした。


 しかし、まだ最後まで言い終えていないうちに、レオンがこちらを振り返った。


 その顔には、わずかな驚きが浮かんでいた。


「ペラルド。あなたは彼を攻撃していないでしょう。ですから今回、あなたを罰するつもりはありませんよ」


 何だって?


 私を罰しない?


 私は信じられず、自分が聞き間違えたのではないかとさえ思った。


「オスワルドから、すでに事情は聞きました。彼と親しいエルノス嬢に、あなたが筆記を貸したことが気に入らず、わざと難癖をつけてきたのでしょう?」


「は、はい……」


 あの男は嘘をつかず、先ほど起きたことをそのまま説明したのか。


 それにしても、エルノス嬢とオスワルドは親しい間柄なのだろうか。


 私はまったく気づいていなかった。


 いや、今はそれを考えている場合ではない。


「そして、一方的に攻撃したのも彼です。最初から最後まで、あなたは自分の身を守ろうとしていただけですね?」


「は、はい……それに、彼は私の家門を侮辱しました」


 それを聞くと、レオンは小さく息を吐いた。


「わかりました。あなたはもう戻って構いません。オスワルドについては、こちらで対処します」


 これで、もう帰ってよいのか。




 だが、まだだ。


 私は導師に、どうしても伝えなければならないことがある。


「申し訳ありません、レオン導師。今回、私は教室でオスワルドと口論してしまいました。ですが彼は、カルロ家の名誉を侮辱しました。ですから私は、彼との練習戦を希望します。許可をいただけないでしょうか」


 レオンは何も言わず、静かに私を見つめた。


 長い沈黙のあと、ようやく口を開く。


「練習戦ですか。決闘ではなく?」


 私は、一瞬言葉に詰まった。


 確かに、私が望んでいるのは決闘だ。


 けれど、体験生にすぎない私が直接決闘を申し込むことは、学院の規則で認められていない。


 そのようなことをすれば、私だけでなく、レシュオン閣下にも余計な迷惑をかけてしまう。


「はい……練習戦です」


 私の答えを聞くと、レオンは眉を寄せた。


「そのような小細工を使ってはいけません、ペラルド。あなたとオスワルドの練習戦は認められません」


「どうしてですか、導師?」


 私は納得できず、問い返した。


「彼がヴィスカルロでも名の知れた貴族で、大商人の家の者だからですか。まさか、魔法学院も彼を守ろうとしているのですか……」


 レオンは首を横に振った。


「違います、ペラルド」


 その声は、変わらず穏やかだった。


「私は一度も、そのように考えたことはありません。以前も、今も、そしてこれからもです。私は、身分を利用して他人を虐げる学徒を好みませんし、意図的に守るつもりもありません」


「ですが……」


「私は、あなたを守っているのです。ペラルド」


 レオンの淡い橙色の瞳に、柔らかな光が浮かんでいた。


 その眼差しは、波一つない水面のように穏やかだった。


 私を守っている?


 私は、オスワルドより弱いわけではない。


 確かに、彼の方が優れているところもいくつかはあるけれど。


 導師の言葉は、どういう意味なのだろう。


 私が負けることを心配しているのか。


 けれど、たとえ負けるとしても、家が侮辱されたことを黙って受け入れるわけにはいかない。


 私はカルロ家の名誉を守らなければならない。


「申し訳ありません、レオン導師。たとえ私が負けるとしても、彼との練習戦を望みます」


 私は顔を上げ、導師を見た。


「カルロ家は、彼が勝手に批判し、侮辱してよい家ではありません。そのことを、彼に理解させなければなりません」


 今の自分が、普段とはまるで違う態度を取っていることはわかっていた。


 私がここまで強く言い張れば、レオン導師が怒る可能性も十分にある。


 それでも私は、オスワルドのことをこれ以上我慢したくなかった。


 しかしレオンは、変わらず静かに私を見ていた。


 長い沈黙のあと、彼は軽く息を吐いた。


「私は、あなたが負けることを心配しているのではありません。ペラルド」


 そこで一度言葉を止める。


 まるで、自分にとっても望ましくない決断を下そうとしているようだった。


「そこまで強く望むのであれば、明日、あなたと彼の練習戦を行いましょう」


 私が負けることを心配してはいない。


 それなのに、私を守っているという。


 やはり、導師の言葉はどこか矛盾しているように感じられた。


 けれど、レオンがそう言うのなら、きっと何か理由があるのだろう。


「ありがとうございます。このような無礼な願いをお許しいただき、感謝いたします」


 許可を得た私はレオンの執務室を退出し、翌日の戦いへ向けて準備を始めた。


 ……




 翌朝。


 必ず勝たなければならない。


 その覚悟を胸に、私は教室へ入った。


 しかし、中には誰もいなかった。


 もう全員、先に訓練場へ向かったのだろうか。


 私は自分の席へ近づいた。


 机の上には、一枚の紙が置かれている。


 それを手に取ると、そこには歪んだ、目に刺さるような文字で、一行だけ書かれていた。


 ――訓練場で決闘しろ、黒髪の悪魔め。


 私はゆっくりと、その紙を握りしめた。


 掌の中で、紙がくしゃりと潰れていく。


 そして、それを机の上へ投げ捨てると、身を翻し、早足で訓練場へ向かった。


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