第七十三話 異なる道
練習戦から、すでに一か月が過ぎていた。
私は思わず、時間が過ぎるのは本当に早いものだと感じていた。
レオン導師が受け持つ初級学徒の授業はこれからも続いていく。けれど、体験生である私の学習期間は、残り一か月にも満たない。そう考えると、少し寂しくもあった。
リリロット夫人には、どうにか正式な学徒にしてもらえないかと頼み込んだこともある。
けれど残念ながら、彼女はきっぱりと首を横に振った。私はまだ年齢に達していないのだという。今回の体験入学だけでも、すでに特例なのだと。
学院の規則は、本当に多すぎる。
リリロット夫人といえば、最近、彼女の顔色はますます悪くなっているように見えた。
かつて透き通るように輝いていた肌は、ところどころ光を失って暗く沈み、また別のところでは、怖いほど強く輝いている。
屋敷へ来た医師の話によれば、夫人は心身の負担が大きく、生活リズムも乱れているため、体内の魔力の均衡がひどく崩れているらしい。このままでは、無事に出産することが難しくなるという。
できる限り治癒魔法で出産の時期を遅らせ、母体の健康を守らなければならないそうだ。
だが、予定日まではもう一か月も残っていない。
私はその意味をあまりよく理解できなかった。けれど夫人が部屋から出てくるたび、私はできるだけ彼女のそばにいるようにしていた。
もうすぐ母親になるからだろうか。
時々、彼女の身から、とても柔らかな気配が漂っているように感じることがあった。
あるいは、それは私が近づきたくなるような魔力なのかもしれない。
とにかく、彼女は以前ほど怖くなくなっていた。
レシュオン閣下が一度屋敷へ戻ってきた時、夫人の出産が近いこの時期には、ユーナやドワインたちにも手伝いに来てもらうつもりだと、私に話してくれた。
……
ある日、私はいつものように執事に連れられて学院へ向かい、教室の席に座っていた。
周囲の同級生たちは、皆、私より年上の魔法学徒である。
魔法を学んできた時間だけで言えば、彼らは皆、私より短い。だがそれでも、彼らは導師から与えられた課題をこなし、学習目標を達成していた。
レオン導師の授業は難しい。
少なくとも、私にとってはそうだった。
彼は講壇の前に立ち、一つまた一つと、光魔法の術式を布幕の上へ並べていく。導師の話す速度は速く、その声はとても落ち着いていた。まるで、そうした複雑なものは、聞けばすぐに理解できて当然だと言わんばかりだった。
教室の中では、多くの者が眉を寄せている。
私にも当然、わからないところはたくさんあった。
けれど、手を止めるわけにはいかない。
私はただ書き続けるしかなかった。
レオン導師の言葉を、できるだけ筆記に残す。理解できない箇所には、横に小さな印をつけておき、授業が終わってからゆっくり考える。
術式の順番、魔力の流れる方向、詠唱の際に間違いやすいところ。そのすべてを、細い線で丁寧に分けて書き込んだ。
私は知っている。
自分は、ほかの者たちとは違う。
彼らは正式な学徒だ。
だが私は、ただの体験生にすぎない。
だからこそ、私にとって一つ一つの授業は、何より貴重だった。
父上には、今後も私を学院へ通わせる計画などないのだから。
それに、私には黒髪がある。
もう二か月も一緒に過ごしているのに、私が教室へ入るたび、まだ誰かは必ずこちらを見る。
すぐに顔をそらす者もいる。
小さく笑う者もいる。
さらに、私の身に本当に何か不浄なものがついているかのような、奇妙な目でじっと見てくる者もいた。
だから、私は誰よりも真面目でなければならない。
間違えてはいけない。
怠けてはいけない。
黒髪の者は光魔法を扱うのにふさわしくないなどと、彼らに思わせてはいけない。
ましてや、私が光族である資格を持たないなどと、思わせるわけにはいかなかった。
授業が終わると、レオン導師はいつものように教室を出ていった。
私はまだ席に残り、先ほどの筆記をもう一度整理した。
手は少し痛かったが、それでも最後の数行まできちんと書き足した。
その時、隣から小さな声が聞こえた。
「あの……ペラルド」
私は顔を向けた。
エルノス嬢だったか。
彼女は少し緊張しているようで、指先で自分の筆記帳の角をそっとつまんでいた。
「さっきレオン導師が話していた後半部分……私、よくわからなくて。もしあなたが全部書き留めていたなら、少し見せてもらえませんか」
私は一瞬、きょとんとした。
入学初日、彼女が自分の筆記帳を私に貸してくれたことを思い出す。
そして今度は、彼女にわからないところがあり、私の助けを必要としている。
もちろん、何の問題もなかった。
むしろ、彼女の役に立てることを光栄に思った。
ただ、私は同年代の相手と話すことがあまり得意ではない。だから筆記帳を閉じ、そのまま彼女の前へ押し出した。
「どうぞ」
彼女の表情は、一瞬でほっと緩んだ。
「ありがとう、ペラルド。本当に助かります」
私は軽く頷いただけで、それ以上は何も言わなかった。
けれど心の中では、とても嬉しかった。
たった二か月で、私はもう学徒たちの中でほかの人の役に立てるようになっていたのだ。
もしかすると、私は本当に天才なのかもしれない。
ふふ。
そんな考えが浮かんだ直後、教室の後ろから耳障りな笑い声が聞こえてきた。
「おい、俺の見間違いか?」
その声を聞いた瞬間、私の身体はこわばった。
私はわかっている。
あの声はオスワルドに違いない。
私はゆっくりと振り返り、彼を見た。
彼は数人の生徒の真ん中に立ち、私がよく知っている、あの嘲るような笑みを浮かべていた。
彼がああいう笑い方をする時は、必ず誰かが嫌な思いをする。
彼の視線は、エルノス嬢の腕の中にある筆記帳へ落ちた。それから、ゆっくりと私の方へ移る。
「エルノス。お前、まさかその黒髪の体験生から筆記を借りているのか?」
周囲の何人かが笑った。
エルノス嬢の顔は一瞬で赤くなり、すぐにまた白くなった。
彼女は私の筆記帳を抱えたまま、それを置くべきか、それとも持ち続けるべきかもわからないように固まっていた。
オスワルドは数歩近づき、わざと声を大きくした。
「そいつの魔法に、何か汚いものが混じっているかもしれないとは思わないのか? もしその筆記を読んで、お前の光魔法まで汚染されたらどうするんだよ。お前はまだ、レオン導師に明光術の光球の純度を認められたわけでもないんだぞ」
笑い声はさらに増えた。
私はその声を聞きながら、胸の奥が少し重く詰まるのを感じた。
確かに、エルノス嬢は学徒たちの中で特別優れているとは言えない。レオン導師から何度も指導を受けていることも多い。
けれど、それをお前のような嫌な奴に言われる筋合いはない。
それに、私の筆記が他人の光魔法を汚染するなど、あるはずがない。
エルノス嬢は俯いたまま、何も言えなかった。
彼女の指は筆記帳を強く握りしめていて、まるで自分が何か悪いことをしてしまったかのようだった。
しかし彼女は、何一つ悪いことなどしていない。
授業がわからなかったから、私に筆記を借りただけだ。
エルノス嬢は顔を上げ、私を見た。その目には、戸惑いが浮かんでいた。
「ペラルド、私……」
「大丈夫です」
私はできるだけ落ち着いた声に聞こえるように言った。
「筆記の中に汚いものなど入っていません。安心して読んでください」
それから、私は立ち上がり、オスワルドの方へ歩いた。
「彼女に謝ってください」
教室が、急に静まり返った。
オスワルドは最初、少し呆気に取られたようだった。だが、すぐに笑った。
「今、お前は何て言った?」
「彼女に謝ってください」
私はもう一度言った。
「彼女は私に筆記を借りただけです。あなたがあのように言うべきではありません。それに、私が彼女に貸したのは、入学初日に彼女が私を助けてくれたからです」
オスワルドの笑みは、冷たいものへ変わった。
「ペラルド。お前、自分が何者なのか忘れたのか?」
彼は私の方へ近づいてきた。
周囲の視線が、すべて私たちに集まっているのを感じた。
興奮している者がいる。
怯えている者がいる。
まるで、これから始まる見世物を待っているような者もいた。
オスワルドは私の前で足を止め、上から見下ろしてきた。
彼は、私より頭一つ分ほど背が高い。
「お前は、ただ地方領主の口利きでここへ入ってきた体験生にすぎない。誰かが後ろ盾になってくれなければ、自分がここに座る資格を持っているとでも思っていたのか?」
ひどい言い方だった。
だが、私は反論できなかった。
そして、そう考えている者が大勢いることも、ずっと前から知っていた。
私が答えないのを見ると、オスワルドの笑みはさらに深くなった。
「それに、その黒髪。そもそも光族の学院にいるには相応しくないんだよ。ここは光族の優れた子供たちが学ぶ場所だ。不吉な者が紛れ込む場所じゃない」
私は顔を上げた。
「今の言葉を取り消してください」
オスワルドは片眉を上げた。
「どの言葉だ? お前が体験生だということか? お前が口利きで入ったということか? それとも、黒髪はここに相応しくないということか?」
彼は少し顔を近づけ、声を低くした。けれど、その声はわざと私にだけはっきり聞こえるように響いた。
「それとも、カルロ家もまた、つてを頼って黒髪の子供を学院へ無理やりねじ込むことしかできないということか?」
私の心臓が、急に重く打った。
カルロ家。
黒髪。
母上……
彼は、お決まりの嘲笑を浮かべたまま、私を見ていた。
「何だ? 怒ったのか? 黒髪の者でも、家門のためには怒るんだな」
私はもう下がらなかった。
胸の中の重苦しさが、少しずつ熱へと変わっていく。
今、自分がどんな表情をしているのか、私にはわからなかった。
ただ、周囲の音が一気に遠くなったように感じた。
机も、椅子も、同級生たちの顔も、壁にまだ完全には消えずに残っている魔法文字も、まるで一枚の光の膜の向こう側へ隔てられたようだった。
私の足元から、淡い金色の光が浮かび上がる。
誰かが小さく息を呑んだ。
「お前のような成り上がりが、家門を語る資格などあるのですか」
オスワルドの笑みが、一瞬止まった。
だがすぐに、その表情は怒りへ変わった。
彼もまた片手を上げる。白い光が、その掌に集まり始めた。
「今、何と言った? 誰が成り上がりだと?」
私は一歩前へ進んだ。
「あなたです、オスワルド。エルノス嬢に謝り、それとカルロ家への侮辱を取り消してください」
オスワルドは歯を食いしばり、掌の光はさらに鋭くなった。
「お前は何様のつもりだ。黒髪の体験生風情が、この俺に命令するのか?」
私は本当は、とても怖かった。
敬愛する導師に叱られるかもしれないことも、わかっていた。
けれど、今回だけは頭を下げたくなかった。
ここで私が下がれば、あの少女は、もう二度と私に筆記を借りようとはしないかもしれない。
もし私が、オスワルドに好き勝手カルロ家を侮辱させ続ければ、彼らはカルロ家など取るに足りないものだと思うだろう。
だから私は、後ろへ下がらなかった。
光の魔力が、教室の中央でぶつかり合った。
机の上に置かれていた書物の頁が気流にめくられ、筆が床へ転がり落ちる。
壁際の魔法板が、ふいに光を放った。
レオン導師が残していた警戒術式が、二つの魔力に反応したのだ。甲高い警報音が、瞬く間に廊下全体へ響き渡る。
そして、オスワルドの光は、すでに私へ向かって放たれていた。




