第七十二話 同じ傷
練習戦が終わった日の夕暮れ、太陽は遠くの建物群の向こうへ、少しずつ沈んでいった。
ソル星の貴族区は、広い石板道の両側に並ぶ光の灯に包まれている。柔らかな金色の光が街路に降り注ぎ、その一帯を華やかでありながら静かなものに見せていた。
一台の馬車が、ゆっくりと近づいてくる。
明るい銀色の車輪が石板を踏み、低く規則正しい音を響かせた。
厳重に守られた大門が、それに合わせて開いていく。
門の内側には、幾何学模様に刈り込まれた庭木が整然と並んでいた。それらの庭木はオスワルド家の敷地のあちこちに植えられ、財産と身分を象徴する草木を、庭全体へ余すところなく敷き詰めようとしているかのようだった。
そこは、極めて華美な屋敷だった。
ヴィスカルロ市内にある、新興貴族の屋敷区に建っている。
大門は彫刻を施された金属で作られ、門柱には、まるで永遠に消えることのない光魔石が埋め込まれていた。庭の中央には人の背よりも高い噴水があり、太陽石の彫刻を捧げ持つ半裸の男神像から水が流れ落ち、暮色の中で細かな金色の輝きを映している。
屋敷の外壁は、きめ細かな白石で築かれていた。窓枠の一つ一つには金の縁取りが施され、正門へ続く階段にさえ、滑らかで美しい玉石が敷かれている。
外見だけを見れば、レシュオン家の豪邸にも決して劣らない。
しかしオスワルドは、ここへ入るたびに胸が詰まるような息苦しさを覚えた。
明るすぎる。
そして、あまりにも贅沢すぎる。
まるで、この場所はもう商人の家ではなく、貴族の邸宅なのだと、全員に証明しなければならないかのようだった。
もとの家も、十分すぎるほど華やかではあった。だが、ここへ移ってから彼が感じるようになったのは、深い居心地の悪さだけだった。
執事が彼へ挨拶した。
しかしオスワルドは振り返りもせず、大広間へ入っていった。
廊下を抜け、自室へ入ろうと扉に手をかけた時、不意に少し離れた場所から父の声が聞こえた。
その声は、普段彼に向けられるものとはまるで違っていた。
へりくだり、柔らかく、そしてどこか慎重すぎるほどだった。
オスワルドは足音を殺し、応接室の前まで歩いた。
なぜか、扉は完全には閉まっていなかった。
その隙間から、彼は父が腰を折り、白い長衣をまとった男の前に立っているのを見た。
その男は長椅子に座り、胸元には光明教派の紋章をつけている。
オスワルドは、その紋章を知っていた。
それは普通の信徒が身につけられるものではない。光明大司教の側近である使者だけが、身につけることを許される印だった。
そして彼の父――アルヴィンド・フィオラード・ステファノは、その使者に向かって、恭しく報告していた。
「どうかご安心ください。近頃、ソル星における教派の影響力は、以前よりさらに安定しております」
使者の声は、静かでゆるやかだった。
「よろしい。旧貴族どもは相変わらず頑迷に自らの権益を守ろうとしているが、やがて彼らの時代は終わる。大司教閣下は、時機さえ熟せば、光明神の御意志に従おうとしないいくつかの旧き血脈を完全に取り除くことも、もはや難事ではないとお考えだ」
ステファノは、さらに深く頭を下げた。
「はい、はい。大司教閣下のご判断に、誤りなどあるはずがございません」
使者は茶杯を手に取った。だが、すぐには口をつけない。
彼は宝物と呼んでも差し支えない骨董の茶杯を指先で弄び、落ち着き払った、傲慢な姿勢を崩さなかった。
「カルロ家のような例を見れば、すでに十分だ。どれほど古い名であろうと、光明神の前に跪かぬなら、いずれ歴史の塵となる」
カルロ家。
その四文字を聞いた瞬間、オスワルドはわずかに目を見開いた。
彼は、あの黒髪の少年を思い出した。
ペラルド・カルロ・パーリセウス。
使者はさらに続ける。
「新しい時代には、新しい支柱が必要だ。オスワルド家が教派の承認を得た以上、これまで以上に敬虔でなければならない。大司教閣下は、来年より、オスワルド家が毎年捧げる金貨の額を三割増やすことを望んでおられる」
「三割……」
オスワルドは、父の身体が一瞬だけ強張るのを見た。
しかし、その硬直は本当に短い一瞬で終わった。
「もちろんでございます。光明神と大司教閣下にお仕えできることは、オスワルド家の栄誉にございます。金貨の件につきましては、どうかご安心くださいませ。必ず滞りなく手配いたします」
使者は満足げに頷いた。
「よろしい。大司教閣下は、忠誠ある者の貢献をお忘れにはならない」
応接室の中に、しばらく静寂が落ちた。
やがて使者は茶杯を置き、ゆっくりと立ち上がった。
ステファノはすぐ自ら前へ進み出て、その外套を整えた。
それを見たオスワルドは、やむなく隣の茶室の扉をそっと開き、その中へ身を隠した。
「大司教はお前を高く評価している、ステファノ。忘れるな、光明神が目をかけるのは、時代に従うことを知る者だけだ」
「はい、はい、もちろんでございます。どうか私からの最も深い敬意を、大司教閣下へお伝えくださいませ」
その声が少しずつ遠ざかっていった後、オスワルドはようやく茶室から出て、そっと後を追った。
彼は父が最後まで腰を低くしたまま、あの腹の出た使者を門口まで見送るのを見た。
使者が去ると、大門は再び閉じられた。
オスワルドは静かに立ち去ろうとした。だが、結局父に見つかった。
「オスワルド」
その声には、もう先ほどまでのへりくだりはなかった。
冷たく、重く、逆らうことを許さない命令の響きに変わっていた。
オスワルドは足を止めた。
「はい、父上」
父は振り返り、廊下に身を隠すように立っていた彼を見た。
オスワルドは、自分では十分に注意していたつもりだった。まさか、それでも見つかっていたとは思わなかった。
そして父の顔からは、先ほど使者へ向けていた恭しい表情も消え去っていた。
そこにあったのは、オスワルドが最もよく知る、厳しさと不満だった。
「今日の学院での練習戦はどうだった」
「私の完勝でした」
オスワルドは答えた。
「それだけか」
父は眉をひそめた。
「私が聞きたいのは、それだけだと思っているのか。お前は、その学年で最も優秀な学生にならなければならない。卒業後は主星へ移り、さらに上位の学院へ入り、本当に価値ある人脈に触れろ。そして光明教派の導きに従い、オスワルド家にふさわしい地位を担うのだ」
オスワルドは、しばらく黙った。
「ですが、私はソル星に残りたいのです」
父の眼差しは、さらに冷たくなった。
それは、ほかの学徒の親が我が子に向けるような目ではなかった。
「何だと」
オスワルドは顔を上げた。
父が足早にこちらへ歩いてくるのが見えた。
そして自分は、蛇に睨まれた鼠のように、どこにも逃げ場がなかった。
ぱん。
乾いた音が、大広間に響いた。
オスワルドの顔は、横へ弾かれていた。
焼けるような痛みが、頬から一気に広がっていく。
「オスワルド。お前は、我が家がここまで来たのは、お前をソル星で庶民の子供たちと戦いごっこに興じさせるためだと思っているのか」
オスワルドは奥歯を噛みしめた。
「私は……」
「黙れ」
父が鋭く言い放った。
「お前は今の情勢を何もわかっていない。旧貴族は衰えつつあり、光明教派の力はますます強くなっている。我が家はようやく貴族の名を賜り、あらゆる苦労を重ねて大司教閣下の承認を得た。それなのにお前は、まだソル星などという場所に残りたいと言うのか」
彼は一歩前へ出た。
「覚えておけ。私たちはもう、ただの商人ではない。お前の一挙一動は、すべてオスワルド家の風格を示すものだ。お前は旧貴族よりも優秀でなければならない。生まれながらに姓を持つ者たちよりも、さらに貴族らしく振る舞わなければならない。そうでなければ、連中は陰で我々を笑うだろう。金貨の力で這い上がっただけの成り上がりだとな。わかっているのか!」
オスワルドの指が、ゆっくりと握り込まれた。
父の声はさらに低くなった。だが、その重みはかえって増していく。
「だから、お前にわがままを言う資格などない。お前は私の言う通りに動き、光明教派の言う通りに動けばいい。オスワルド家は恩恵を受けた商人ではなく、新時代に必然として台頭する貴族なのだと証明しろ。未来は、我らオスワルド家のものだ」
オスワルドは頭を下げたまま、答えなかった。
頬はまだ熱を持っている。
だが彼の心の奥で、顔の痛みよりも強く突き刺さっていたのは、父が先ほど口にしたあの言葉だった。
金貨の力で這い上がっただけの成り上がり。
その言葉は父自身が口にしたもののはずなのに、一本の棘となって、オスワルドの心へ深く突き立った。
彼は知っている。
普段は自分に唯々諾々と従う学徒たちも、陰では似たようなことを口にしているのだと。
彼は誰も信じていなかった。
なぜなら、一度でもほかの学徒たちへの支配を失えば、その者たちの目はたちまち侮りと高慢に変わるからだ。
父は冷ややかに彼を見た。
「明日からは、学院の授業に加えて、毎晩さらに一時間の魔法訓練を増やせ。それから、将来性のない学生たちとはあまり関わるな。忘れるな、お前が将来行くべき場所はルミナス星だ。このような小都市に留まることではない」
そう言い終えると、父は身を翻して去っていった。
大広間には、オスワルドだけが残された。
彼の傷を治しに来る執事はいない。
彼を気遣いに来る使用人もいない。
その人たちは皆、この屋敷の主人の逆鱗に触れ、追い出されることを恐れていた。
壁に掛けられた母の遺影でさえ、彼を叱責しているかのように、厳しい表情を浮かべている。
大広間の上方から、金色の灯が白石の床へ降り注いでいた。すべてを明るく、そして豪奢に照らし出している。
だがオスワルドには、その光が冷たく、ひどくよそよそしいものにしか感じられなかった。
彼は長い間、そこに立ち尽くした。
やがて、ゆっくりと手を上げ、殴られた頬に触れる。
痛みは、なおもはっきりと残っていた。
その時、昼間の訓練場での光景が、ふいに脳裏へ蘇る。
あの黒髪の異端児。
入学したばかりで、すでにレオン導師の前で認められた体験生。
衰えた旧貴族の出でありながら、なお静かで自信に満ちた目で自分を見返してきた年下の少年。
ペラルド……
オスワルドの眼差しが、少しずつ冷えていった。
自分がいったい何に怒っているのか、彼自身にもわからなかった。
彼が策を用いて勝ったことに腹を立てているのか。
彼が生まれながらの貴族であることに腹を立てているのか。
それとも、自分に逆らう者が現れたことそのものが許せないのか。
ただ、一つだけはわかっていた。
次に訓練場へ立つ時、彼は必ず、あの黒髪の少年を正面から打ち倒す。
そしてその決闘は、思いもよらぬ形で訪れることになる。




