第七十一話 挑発
オスワルドとセオドールが場内へ入り、準備を始めたところで、私はレオン導師の方を見た。
彼がどんな反応をするのか、確かめたかったのだ。
しかし意外にも、レオンもまた私を見ていた。
レオンは場外に立ったまま、私へ軽く頷いた。
「ペラルド、ファロ。二人とも、よくできていました」
導師の評価を聞いた瞬間、私は思わず背筋を伸ばした。
その「よくできていた」という一言だけで、私はしばらく嬉しくてたまらなかった。
なにしろ、家で訓練していた時に私を褒めてくれるのは、スレーとハンクの二人のおじさんくらいだったのだ。
レオンが片手を上げた。
「始め」
レオンが再び合図を出すと、オスワルドの練習戦が正式に始まった。
私は視線を戻し、隣にいるファロへ小声で尋ねた。
「ファロ。あのオスワルドという人は……いったい何者なのですか」
ファロの表情は、すぐに少し微妙なものへ変わった。
「ああ、オスワルドか」
彼は声を低くした。どこか言葉を濁すような調子で、近くにいるほかの学徒たちには聞かれたくないらしい。
「知らないのか? あいつは、ソル星でも名の知られた大商人の一人息子だよ。オスワルド家はもともと由緒ある貴族じゃなかったんだけど、骨董品の取引で大儲けしたらしい。それから光明教派に加わって、つい最近、貴族に叙せられたばかりなんだ」
「骨董品の取引で……貴族に?」
私はその言葉を小さく繰り返した。
その響きは、私にはどこか馴染みの薄いものだった。
私が受けてきた教育の中で、貴族とは血筋であり、責任であり、土地と栄誉を意味するものだった。そして、光帝と領民に対する義務をも意味していた。
たとえカルロ家がすでに衰えていたとしても、父上も執事も、貴族はそれに相応しい責務を背負わなければならないと、何度も私に教えてきた。
私自身も、今のカルロ宗家の規模では、本当の意味で強盛な貴族と呼ぶのは難しいのかもしれないと感じている。
それでも、商人が貴族の名を得ることもあるのだろうか。
私の顔に浮かんだ疑問を見たのか、ファロは肩をすくめた。
「今は、そう珍しい話でもないらしいよ。光明教派に認められて、十分な財産さえあれば、新興家族はすぐに上へ登れる。うちの父さんと母さんも、そういう家は多いって言ってた。特にソル星は、ここ数年でかなり変わったらしい」
そこまで言ってから、彼はまた私を見た。
「でも、本人の前では言わない方がいいぞ。オスワルドは、自分の家が骨董品を扱っていたって言われるのをすごく嫌がるんだ。あいつのことは、貴族として扱っておけばいい」
私は答えなかった。
ただ、もう一度オスワルドを見た。
この自分を優れた先輩だと思っている者は、いったいどれほどの実力を持っているから、あそこまで自信満々でいられるのだろう。
意外なことに、彼は岩陰に隠れることを選ばなかった。
そのまま、場の中央に立っている。
一方、対戦相手のセオドールは、先ほどの私やファロと同じように、あまり大きくない岩の後ろへ身を隠していた。
次の瞬間、オスワルドの掌に光が灯った。
それは、私が先ほど使ったような、慎重に凝り固めた光弾ではない。
もっと直接的で、もっと速い放出だった。
一発の光弾が、真っ直ぐ飛ぶ。
轟、と音が響いた。
岩の一つが、一瞬で砕け散った。
同時に、対戦相手もオスワルドへ向けて攻撃を放っていた。
オスワルドは避けなかった。光弾は彼に命中する。
しかし彼は、相手が同時に撃ってくることなど最初から読んでいたかのように、すぐ次の光弾を用意し、セオドールの隠れている岩へ撃ち込んだ。
不運にも、セオドールが選んだ岩は、それほど頑丈ではなかった。
たった一撃で岩の上半分が削られ、彼の上半身がそのまま露わになる。
セオドールは即座に横へ避けた。
しかし、彼が動いた瞬間、オスワルドの三発目の光弾がすでに追いかけるように飛び、彼の退路を塞いでいた。
オスワルドは、複雑な戦術を使っているわけではない。
その戦い方は、単純で、ほとんど乱暴と言ってもよかった。
連続する光弾で相手を圧迫し、安定して隠れることも、落ち着いて狙いを定め反撃することも許さない。
ただ、私は気づいた。
彼の魔力放出は非常に安定している。光弾を撃つ間隔も短い。しかも一撃ごとに距離をあらかじめ計算しているかのように、相手を少しずつ場の端へ追い込んでいた。
セオドールという名の学徒は反撃しようとしていたが、魔力を十分に練る時間を最後まで得られなかった。
オスワルドが一歩前へ踏み出す。
さらに一発の光弾が地面に命中し、セオドールの足元で炸裂した。
足場が崩れ、セオドールの体がぐらりと揺れる。
次の瞬間、オスワルドが制御する一発の光弾は、すでに彼の胸元で止まっていた。
かなり強力な光弾だった。
どん、と鈍い音が響く。
セオドールの護盾は、オスワルドの前で砕け散った。
「そこまで」
レオンが告げた。
「勝者、オスワルド」
訓練場の周囲から、いくつかの驚嘆の声が上がった。
オスワルドは手を下ろしたが、その顔に大きな喜びはなかった。
まるで、この結果は最初から当然だったと言わんばかりだった。
私は黙ったまま、その光景を見つめていた。
認めざるを得ない。
オスワルドは、確かに強い。
少なくとも今の私にとって、彼の魔力放出の速度、実戦経験、そして正面から相手を圧迫する力は、決して軽く見てよいものではなかった。
もし本当に彼と戦うことになれば、さっきファロを相手にした時と同じ方法だけに頼るわけにはいかない。
そう考えていた時だった。
オスワルドがふいにこちらを向き、いつもの傲慢な口調で声を張り上げた。
「見たか、ペラルド。これが貴族に相応しい戦い方だ。正面から攻め、正面から押し潰し、正面から相手を倒す。お前みたいに、陽動だの誘導だの、死角へ回り込むだの、そんな小細工で勝つんじゃない」
レオンが眉をひそめた。
「オスワルド。練習戦において戦術を用いることは、学院教育の一部です。それに、あなたはほかの学徒の戦い方や成果を勝手に評するべきではありません」
「俺はただ、このカルロ家のお坊ちゃんに教えてやっているだけです。本物の貴族は、陰湿な手段を自分の実力だと思い込むべきじゃないってね」
オスワルドの表情には、はっきりとした軽蔑が浮かんでいた。
その顔には得意げな色さえある。まるで私を貶めること自体を楽しんでいるかのようだった。
ただ商売で身を起こした家の者が。
カルロ家の前で、いったい何の資格があって貴族の風格を語るのか。
だが、その言葉を私は口にできなかった。
学院でこれ以上問題を起こすわけにはいかない。
それは、私が尊敬する人々の名声にも関わることだ。
けれど、彼に私を好き勝手に貶めさせるつもりもなかった。
「私は、規則で許されている範囲の中で、どう勝つべきかを考えただけです。それは陰湿な手段ではありません」
私はできるだけ平静を保って説明した。
しかし、口にした直後、自分でも少し後悔した。
あまりにも弱々しく、力のない言葉だった。
オスワルドは片眉を上げた。
「つまり、お前は自分の実力不足を、考えることで補っていると認めるわけだな?」
その瞬間、何か強いものが私の頭の中へ一気に流れ込んできた気がした。
私は目を見開き、彼の目を真正面から見返した。
「もしあなたの言う通り、考えないことこそが堂々とした貴族の戦い方だというのなら、私はそんな貴族にはなりたくありません」
その言葉を聞いた瞬間、オスワルドの顔色が変わった。
「お前……」
「そこまでです」
レオンの冷静な声が割って入った。
レオンはまずオスワルドへ視線を向け、それから私を見た。
「ここは訓練場であって、口論の場ではありません。オスワルド、列へ戻りなさい。ペラルド、あなたもです」
私は仕方なく、場の端から少し離れた場所へ下がった。
しかしオスワルドはいつも通り、レオンの指示を素直に聞く様子ではなかった。
彼はその場に立ったまま、まっすぐ私を睨みつけている。その目には、先ほどより明らかな怒りが宿っていた。
「次に機会があれば、お前をしっかり躾けてやる」
私は目を逸らさなかった。
「導師が許すのであれば、その挑戦を受けます」
「ふん」
オスワルドは鼻で笑い、身を翻して自分の位置へ戻っていった。
彼は確かに強い。
だが、同じくらい不愉快な相手でもある。
頭を高く上げて去っていくその背を見つめながら、私は初めてはっきりと感じていた。
才能を示せば、誰もが認めてくれるわけではない。
中には、その才能を見たからこそ、さらに私を貶めようとする者もいるのだ。




