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第六十二話 変化

 私の答えを聞いたリリロット夫人は、琥珀色の瞳を大きく見開いた。どうやら、かなり驚いたらしい。


 なんて綺麗な瞳なのだろう。


 できれば、あの目でいつも人を怒鳴りつけたり睨みつけたりしないでほしい。


 彼女の桃色の唇が、ほんの少し開いた。そこから漏れた声は、これまでとはまるで違う、天上の音色のように柔らかな囁きだった。


「それが、あなたがレシュオンに言いたかったことなの? パーちゃん?」


 パーちゃん?


 まさか、私のことを呼んでいるのだろうか。


「はい……。父上は私を学院へ入れようとなさらず、家で育てるおつもりなのです。だから、レシュオン閣下に相談してみようと思いました。申し訳ありません」


 彼女の目尻が、ほんのわずかに下がった。どこか寂しそうにも見えた。


 だがすぐに、彼女はまた手を伸ばし、私の髪をくしゃりと撫でた。その動きは少し乱暴だったが、不思議と嫌な感じはしなかった。


「この件は、私から話してあげるわ。あなたはここで待っていなさい」


「えっ、本当によろしいのですか?」


 私は心底驚いた。


 彼女が私の通学のために動いてくれることにも驚いたし、先ほどから続くこの予想外の変化にも驚いた。


 もしかすると、私は彼女という人をずっと誤解していたのかもしれない。


 リリロット夫人は、実はとても良い人なのだろうか。


 彼女は身を翻し、扉を開けた。


 私は慌てて後を追い、礼を言おうとした。


「あ、ありが――」


 しかし、言葉を最後まで言い終える前に、リリロット夫人は勢いよく振り返り、私を指差した。あの聞き慣れた大声が、またしても部屋に響く。


「ここで待っていなさいと言ったでしょう! 小僧! ちゃんと立ってなさい!」


 私は仕方なく、スレーやハンクのような騎士を真似て、背筋を伸ばしてまっすぐ立った。


 心の中では、つい思ってしまう。


 この人は、いったいどういう人なのだろう。


 少し後悔すらした。


 さっき、適当な理由を作って、本当のことなど言わなければよかったのではないか。


 しかし、いくら待っても何の知らせも来なかった。




 汗が額から流れ落ちるほど立ち続けていた私を、老執事ドワインがようやく見つけて、外へ連れ出してくれた。


「坊ちゃま、このような場所で何をなさっているのですか。レシュオン閣下と奥様がお帰りになります。急いでお見送りに参りましょう」


 見送り?


 彼女は私のために、父上と交渉しに行ってくれたのではなかったのか。


 結果も教えてくれないまま、もう帰ってしまうのか。


 どうやら、交渉は失敗したらしい。


 それでも私は、胸の中に広がる失望を押し殺し、ドワインと並んで立った。そして父上の後ろで、馬車へ乗り込むレシュオン夫妻に向かって礼をした。


 リリロット夫人の表情はよく見えなかった。


 けれど、レシュオン閣下の表情は少し複雑だった。彼は私に手を振ると、すぐに随行の者へ合図し、馬車を出させた。


 一陣の風が吹いた。


 まだ夏だというのに、私はそこにかすかな寒さを感じた。


 空を駆けて遠ざかっていく馬車の列を眺めながら、私の胸に残ったのは、計画が完全に潰えてしまった失望と、リリロット夫人へのわずかな恨めしさだけだった。


 なんだ。


 私はてっきり、彼女もレシュオン閣下と同じように、父上を説得できる人なのだと思っていた。


 どうやら、私は彼女を買いかぶりすぎていたらしい。


 見送りが終わると、私はドワインや他の使用人たちと一緒に、先に屋敷の中へ戻った。


 だが、私が家の扉をくぐった直後、背後でなお遠くを見つめていた父上が、私を呼び止めた。


「パーリセウス。あとで私の部屋へ来なさい」


 私は振り返り、夕陽の中に立つ父上の視線を正面から受けた。


 彼の髪は夕陽とほとんど同じ色をしていた。その眼差しは相変わらず冷静で、落ち着き払ったまま私を見つめている。


 父上が私を正式な名で呼ぶのは珍しい、私を叱る時ぐらいかな。


 普段なら、ペロルス――私の愛称で呼ぶことの方が多い。


 どうして父上は、いつもあんなに冷静でいられるのだろう。


 リリロット夫人とはまるで正反対だ。


「承知いたしました。その前に、ドワインと一緒に食卓を片づけた方がよろしいでしょうか」


「必要ない。今日予定していた訓練も中止だ。着替えたら、そのまま来なさい」


「はい」


 私は腰を折り、父上へ礼をした。


 その瞬間、頭の中にさまざまな考えが一気に押し寄せてきた。


 なぜだろう。


 なぜ父上は、珍しく私を自分の部屋へ呼ぶのだろう。


 父上の部屋へ入る時は、たいてい叱責を受ける時だ。


 なぜレシュオン夫妻が帰ったあとで、私と二人きりで話そうとするのか。


 まさか、リリロット夫人の説得がうまくいったのだろうか。


 いや、もしそうなら、彼女はさっき私を呼びに戻ってきたはずではないか。


 疑問で胸がいっぱいになったまま、私は客を迎えるために着ていた礼服を脱ぎ、それをきちんと畳んで机の上に置いた。それから部屋着の長衣を羽織り、不安を抱えたまま廊下へ向かった。




 父上の許可を得て、私は部屋へ入った。


 前回とは違い、今回の部屋は明るく灯されている。


 父上は四角い卓の奥にある椅子に座り、真正面から私を見ているから、私は目に見えない重圧を感じた。


 それでも、私は騎士のように背筋を伸ばし、まっすぐに立ったまま、そして父上の目を見つめ返した。


 そのまま、およそ一分ほど沈黙が続いた。


 やがて父上が口を開いた。


「リリロットは、お前をヴィスカルロの学院へ通わせたいと言っている。これは、お前が彼女に話したことだな」


 え?


 リリロット夫人が私を?


 私が彼女に頼んだ、という話ではないのか。


 とはいえ、すでに父上には見抜かれている。ここで隠しても仕方がない。


「はい。私がリリロット夫人に、学校へ行きたいと申し上げました」


「私は、お前を学院へ通わせたいとは思っていない」


 父上の返答は、簡潔で、あまりにもはっきりしていた。


 それは私が心の中でずっとわかっていたことでもあり、むしろ聞いた瞬間、気持ちが少し落ち着く言葉でもあった。


 やはり、そうなのだ。


「はい、父上。それでは私は、これからもスレーとハンクの両騎士、そしてドワインに師事して学びます」


 反論の余地はない。


 自分の考えを述べる余地もない。


 この家において、父上は絶対の権威なのだから。


「だが、レシュオンとリリロットは私に言った。必要な手続きと費用はすべて引き受け、三か月後には必ずお前を家へ戻す、と」


 え?


 三か月後?


 学院での一連の学びは、五年ほど続くものではなかったのか。


「はい」


 私の胸に、ふいに小さな震えが生まれた。


 父上は、いったい何を言おうとしているのだろう。


 まさか……。


「私は、お前を三か月だけレシュオン家へ預けることにした。カルロ家の礼節は理解しているな。己の身分を忘れるな。来月、お前は出発する」


 ……


「本当でございますか?」


 父上は答えなかった。


 私はわかった。父上はこの決定に満足していないのだ。


 きっと、これはレシュオンとリリロットの頼みによるものだからこそ、父上が最終的に一度だけ譲歩したということなのだろう。


 なぜ三か月だけなのかも、その期間が過ぎればやはり家へ戻らなければならない理由も、私にはわからない。


 それでも私は、ついに学院で魔法の知識を学べるのだ。




 鏡は見ていない。


 けれど、自分の喜びが顔いっぱいに出ていることは、自分でもわかった。


 父上は私の表情を見ると、わずかに眉をひそめた。


 そして一通の手紙を取り出し、私へ差し出した。


「その時になったら、この手紙をリリロットへ直接渡しなさい。彼女は私のいとこ。お前にとって、従叔母にあたる。次に会う時は、もう少し親しく接しなさい。もう下がってよい」


 何だって?


 あまりにいろいろなことが続きすぎて、頭の整理が追いつかなかった。


 私とあの恐ろしい女性が、親戚だったのか。


 そういえば、リリロットはたしかに、父上と少しだけ似ているところがある。


 だが、そんなことはもう重要ではなかった。


 彼女は本当に、父上に私の通学を認めさせてくれたのだ。


 なんて素晴らしいことだろう。


「はい! ありがとうございます、父上! では、失礼いたします!」


 そう言うと、私はほとんど小走りで部屋を出た。それから振り返って、ようやく扉を閉める。


 私は両手でその手紙を抱えた。まるで、とんでもない宝物を授かったかのようだった。


 そして部屋の中では、パドリグスがようやく力を抜き、椅子の背にもたれた。


 彼は小さく息を吐く。


「後悔しなければよいがな」


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