第六十話 物語
「私は以前、ほかの貴族家で管理と護衛の仕事に就いておりました。ただ、カルロ家についても、それなりには存じ上げております。なにしろ、かなり名高い貴族家でございましたから。
ただし、旦那様のお父上――つまり坊ちゃまのお祖父様がカルロ家の事業を継がれてから、ちょうど同じ頃、光の領域では光明教派の運動が勢いを増し始めました。
その時から、太陽神教派を信奉していたカルロ家は、活動を少しずつ縮小せざるを得なくなったのです。そして、私がかつて仕えていた貴族家もまた、光明教派の台頭に反対したことで、先代の光帝から弾圧を受けました。私がカルロ家に拾っていただいたのは、まさにその頃のことでございます。
私がカルロ家に入り、執事として働き始めて間もない頃、旦那様もまた、ようやく成人の儀を終えたばかりの若き貴族でございました。当時は光帝の王廷にて、記録や物資配分などを担当しておられました。
その頃のカルロ家は、すでに十分すぎるほど慎重に振る舞っておりました。それでも、今の光帝からは至るところで圧迫を受けていたのです。各星に所有していた家産も、光帝の名、そして光明神の名のもとに、次々と徴収されていきました。
旦那様は常に自制を忘れず、光明教派によって新たに台頭した大貴族たちの間をできる限りうまく渡り歩き、カルロ家の利益を守ろうと努めておられました。けれど、家の衰退は避けられませんでした。あのまま進めば、カルロ家はいずれ、新興貴族たちの口に入る餌となっていたことでしょう。
そもそも光明教派なるものは、どこからともなくひとりの神を作り出し、その神の名を掲げて重税を取り立て、貴族たちの権力を取り上げ、光帝が領域全体を独裁するための道具にすぎません。
このままでは、カルロ家は必ずじわじわと弱っていく。そうした状況の中で、坊ちゃまのお祖父様は、旦那様を光帝配下の軍団士官の家の娘と縁組させることを決められました。
当然ながら、それはカルロ家が以後、光帝と完全に結びつくことを意味しておりました。
旦那様も、当時は強く反対されました。カルロ家はようやく光明教派からの強引な取り込みを退けたばかりである。それなのに今さら、光明教派と結託する光帝、そしてその麾下の士官集団に近づくなど、到底受け入れられない――そう考えておられたのです。
私もまた、それが徹頭徹尾、取引にすぎないことは理解しておりました。
しかし、当時のカルロ家が次第に衰えていく状況を思えば、私自身、それはやむを得ないことだとも考えてしまったのです。旦那様のために立ち上がり、言葉を尽くせなかったことを、今でも申し訳なく思っております。
……はあ。
ただ、旦那様がそこまで強く拒まれるとは、当時の私は思ってもおりませんでした。
家族がわざわざ開いた宴で、その軍団士官の娘とその家族に会った後でさえ、旦那様はその後の舞踏会で、その娘からの婚約の申し出を拒まれたのです。
幸いにも、当時、お祖父様が選ばれていたのは、名のある正統派の士官でございました。相手方も旦那様を過度に責めることはなく、この件はようやく一段落いたしました。
けれど、この道も閉ざされたなら、カルロ家はどこへ向かえばよいのか。
私がかつて仕えていたあの家と、同じ末路をたどるしかないのか。
正直に申し上げますと、その頃の私は、ほとんど毎日そのことを案じておりました。
光の領域では、すでに長年、ほかの領域との戦争は起きておりませんでした。けれど当時の内部対立は、それだけで人の心を落ち着かなくさせるほど不穏なものだったのです。
ところが、その少し後に、事態は思いがけず転機を迎えました。
当時はちょうど、光の領域が各星に残る未踏の領地を積極的に開拓していた時代の末期であり、大規模に冒険者や魔法師を招集する最後の時期でもありました。
各星の基地や要塞を拡充するという点においては、現任の光帝も、まだ職務を果たしていたと言えるでしょう。大型魔獣を討伐し、辺境領地を守った勇士には褒賞を与え、ルミナスの王都へ入って栄誉と褒賞を受けることを許していたのです。
もちろん、その中には王権を誇示し、こうした人材をしっかり掌握しておく狙いもありました。
そして、王都へ褒賞を受けにやって来た有名な団体の中に、坊ちゃま、あなたのお母上が率いる一団があったのでございます。
私は、今でもあの日のことを覚えております。
その日は、光がひときわ晴れ渡った日でございました。私は旦那様に従い、冒険者たちへ褒賞を告げるため、その場へ赴きました。
旦那様は新興貴族たちに好かれていたわけではありません。しかし数年のうちに積み重ねた経験と実務能力は、すでに広く評価されておりました。だからこそ、大貴族にとっては雑務にすぎないような仕事も、しばしば旦那様へ任されていたのです。
そしてその日、坊ちゃまのご両親は、初めて出会われました。
セルヴィン・エルセーン・ルシア。
ルミナス星とアルティエン星に名を轟かせた、封印の魔女。
彼女は美しい黒髪を持っていました。その髪色ゆえに人々から恐れられ、しかし同時に、その美貌ゆえに誰もが驚嘆せずにはいられない女性でした。
彼女は光の領域でも稀に見る封印術の天才でした。数多くの魔獣が、坊ちゃまのお母上の手によって封印されております。そして彼女の率いた一団もまた、冒険団の中では数少ない少数精鋭の一隊で、総勢四十八名でございました。
旦那様が光帝陛下の書状と、褒賞として用意された魔法杖などをお母上へ手渡した時、旦那様もまた、初めてそのような髪色を目にしたのです。
太陽の光の下で、その黒髪は黒曜石のように静かで、それでいて眩い輝きを放っておりました。
旦那様は一瞬、見入ってしまったようでした。
ああ、あれは本当に美しい光景でございました。
目の前の方はあまりにも美しく、旦那様でさえ、自分が読み上げるべき言葉を忘れてしまったほどです。
しかし、坊ちゃま。次に起きたことは、きっと想像もつかないでしょう。
お母上は、その褒賞として渡された魔法杖が大きすぎ、自分の手には合わないとおっしゃったのです。そして別のものに替えてほしいと求め、その場で旦那様へ魔法杖を返してしまわれました。
その瞬間、周囲にいた、あの高みから人々を見下ろす光明教派の貴族たちは、ひどく不満を露わにしました。彼らは口々に、お前は一介の冒険団の団長にすぎないのに、この神聖で厳粛な授賞式で褒賞を突き返すとは何事か、と叱責したのです。
『でも、合わないものは合わないのです。私に必要なのは、私に合うものだけで十分ですから』
私は、今でもはっきり覚えております。
当時、旦那様でさえ身を低くして礼を尽くし、敬称をもって接しなければならなかった光明教派の貴族たちの前で、お母上は凛として、疑いようもなく正しく、そして筋の通ったその言葉を口にされたのです。
その表情は、まっすぐで、少し頑固でございました。
その瞬間、私は心から彼女に敬意を抱きました。
ただ、あまりにも時機が悪かった。
私は目の前の黒髪の少女がどうなるのかと、内心冷や汗をかきながら、旦那様の方を見ました。どうにか間を取り持ってくださらないものかと願ったのです。
ところが、旦那様はさらに呆けたように見つめておられました。
あれには、私も本当に驚きました。
私はもう、服が汗で濡れてしまいそうなほどで、ただ旦那様が早く正気に戻ってくださることを願うばかりでした。
そして、お母上の率いる冒険団の者たちは、自分たちの団長が難癖をつけられているらしいと知るや、なんとその場で立ち上がり、会場中央へ近づいてきたのです。
たとえ褒賞を失ったとしても、自分たちの団長が辱められることだけは許さない。そういう気迫でした。
場が硬直したその時、旦那様はようやく我に返られました。
旦那様は冒険団の者たちへ顔を向け、大声で下がるよう命じました。
しかし、彼らは一歩も動きません。
そこで旦那様は、やむなく魔法杖を強引にお母上の手へ押し戻し、声を低めて言いました。
『あなたの団員を下がらせなさい。魔法杖は物品として保管しておけばいい。今ここで返してはいけない。持っていなさい』
そう言ってから、旦那様は他の貴族たちへ向き直って礼をし、冒険団の者たちには退くよう手で示しました。団員たちも、団長であるお母上の合図を受けて、ようやく元の位置へ下がりました。
貴族たちのざわめきの中、旦那様は大きな声で叫びました。
『ご静粛に!』
それは、私が聞いた中で、旦那様が発した最も大きな声でございました。
『これは私の失態です! 本来、別の冒険団にいる大柄な勇士へ渡すべき褒賞と、目の前の魔女殿へお渡しする褒賞を取り違えておりました! まことに申し訳ありません! 後ほど私が自ら光帝陛下の御前へ赴き、罪を申し上げます。ですが、どうかまずは私にこの式典を最後まで進行させてください。これもまた、光帝陛下の御意志であり、ご命令なのです!』
貴族たちの怒りは、その後、旦那様の失態への非難と、式典の秩序を勝手に乱した冒険団員たちへの不満へと向かいました。けれど幸いにも、騒いでいた貴族たちは少しずつ静まっていきました。
そして、あの肝の冷えるような式典が終わった後、旦那様は責任を取る形で、当時王廷で持っていた職を辞されました。
その後、旦那様は私的に、王廷貴族を前にしても一歩も退かず、仲間を守ろうとしたあの冒険団を訪ねたのです。
旦那様の目には、友情と絆によって結ばれた冒険団の方が、腐敗した王廷に従い、ただ職務だけを守る軍団よりも、はるかに強く映ったのでしょう。
それ以来、坊ちゃまのお父上は、各地の冒険団と深く交流を持つようになりました。
そして、お母上との付き合いの中で、二人の想いも少しずつ深まっていきました。あの出来事からわずか一年後には、お二人は婚約を結ばれたのです。
ああ、坊ちゃま。あなたはご存じないでしょうな。当時、坊ちゃまのお祖父様が、旦那様の婚約者が黒髪の冒険者だと知った時、どのような顔をなさったか。
白い髭が、荒い息に合わせて上下に揺れておりました。まさに、怒りのあまり言葉も出ないご様子でした。
ですが、しばらく接するうちに、黒髪の魔女と呼ばれたルシア――つまり坊ちゃまのお母上は、私たち全員にその人柄の魅力を感じさせてくださいました。
たとえ、彼女が光族らしからぬ漆黒の髪を持っていたとしても。
たとえ、時と場に合わない言葉を口にすることが多かったとしても。
それでも、彼女はあまりにも率直でした。
嘘をつかない。
人を欺かない。
わざと何かを隠そうともしない。
その性格は、透明な水晶のようでした。人々の間で七色の光を反射し、彼女と接するすべての者に、自分自身の本当の姿を思い出させてくれるのです。
だから、カルロ家は少しずつ彼女を受け入れていきました。
やがては、カルロ家の者たち全員が、多かれ少なかれ彼女の影響を受け、以前よりも率直で、以前よりも誠実になっていったほどです。
坊ちゃま。どうか忘れないでください。
黒い髪は、あなたに不当な扱いだけをもたらすものではございません。
本当に輝くものは、金色の髪ではないのです。輝くべきは、あなたの中にある、黄金のような心でございます。
……
おお、我が太陽神よ。もうこんな時間でございましたか!
坊ちゃま、灯りを消します。
おやすみなさいませ!」




