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第四十七話 最終決戦

 聖母アレサの放っていた神聖な気配が、この宇宙から急激に衰えたその時から、塵世に存在するあらゆるものの本質と意味は、糸の切れた凧のように秩序を失い始めた。


 重力、引力、魔力。光、元素、闇。正義、邪悪、平凡。もともと明確に分かたれていたはずのすべての境界が、緩やかに、それでいて致命的に曖昧になっていく。


 塵世の守護神は十二柱いる。だが、それぞれの権能がこれまで常に秩序立っていたのは、定則の神・アレサが背後からすべてを統合していたからにほかならない。


 そして今、その統合が崩れ始めていた。


 この巨大な異変は、結界の内外にいるすべての塵世守護神に、ほぼ同時に感知された。呼吸のように自然に巡っていた神力は、この瞬間から重く淀み始める。鉄のごとく堅固だった法則にもまた、微細でありながら確かな綻びが生じ始めていた。


 それでも、彼らの攻勢は一切鈍らなかった。むしろ、さらに加速していく。


 守護神たちは誰もが理解していたからだ。こういう時こそ、逆世守護神にこれ以上時間を稼がせてはならない。速やかに決着をつけねばならないのだと。




 そして、最初に追い詰められたのはゼプロスだった。


 鹿首の魔樹にも似たその逆世邪神は、それまでの戦いの中で根のような触手を結界へ幾重にも突き刺し、空間そのものに宿るエネルギーと魔力を狂ったように吸い上げていた。さらには、この極度に引き延ばされた時空結界そのものさえ、自らの養分へ変えようとしていたのである。もしこのまま根を張り続けることを許せば、この結界どころか、やがて塵世全体までもがその狩場へ変わっていただろう。しかも、その触手は塵世守護神本体に届かずとも、ほんのわずかに近づくだけで神力を貪欲に吸い取っていた。


 だが今や、ベンヌオとヘルガティラは、もはやゼプロスにそれ以上の成長を許さなかった。


 ベンヌオが、水晶から鋳造されたかのような巨大な翼を広げる。青白い光は幾重にもその背後へ積み重なり、まるで夢そのものが宇宙の中で翼を広げたかのようだった。幻想の神たる彼が呼び出した精霊たちは、まさしく幻の境から訪れた使者である。ゼプロスが、エネルギーと名のつくあらゆるものを飢えたように吸収していようとも、精霊たちはその触手の間を縫うように飛び交い、次々と切断していく。その姿は花の間を舞う蜂群のようでもあり、あるいは森の奥で無数に明滅する星屑めいた蛍火のようでもあった。彼らは一切の手加減なく、その穢れた邪物を削り取っていく。ベンヌオは知っていた。この種の邪神と真正面から近接で絡み合えば、相手の術中に落ちる。だからこそ、今この場で遠距離から完全に牽制できるのは、自分しかいないのだと。


 そのベンヌオの反対側に立つヘルガティラは、沈黙したまま一切の容赦を見せぬ執行者のようだった。


 ベンヌオとヘルガティラの連携の前で、ゼプロスは神すら殺し得る毒と毀滅の力で編まれた死の気配を放ち、さらに塵世から吸収した力を凝縮したエネルギー弾を撃ち込んでくる。だが、ヘルガティラが片手に握る黒き長鞭は、その先端が触れた瞬間、飛来するエネルギー弾を流星雨のようにまとめて爆裂させ、四方へ降り注がせた。さらに、もう一方の手にある巨大な宝石杖は、静かでありながら強靭な神輝を絶えず放ち、その爆発そのものと余波までも一括して消し去っていく。ゼプロスに、その飛び散ったエネルギーを吸収する余地すら与えず、エネルギーそのものの存在を初めからなかったかのように消し去っていた。


 この二重の圧力の下で、ついにゼプロスは明確な劣勢を見せ始める。無数に伸び広がっていた根は次々に断ち切られ、まるで結界全体を覆い隠そうとしていた巨大な角にも細かい亀裂が走り始めた。毒霧とエネルギーを絶えず送り出していた胸の核は、ベンヌオの精霊たちによる無数の貫通と、ヘルガティラの鞭撃による震爆を浴び続け、ついに二柱の神の眼前へ露出した。


 ゼプロスは威嚇のような低い唸り声を上げた。それは同時に、命乞いのような哀鳴にも聞こえた。必死に抗おうとはする。だが、権能そのもので完全に押し潰してくる二柱の神の前では、もはや抗う力など残っていない。追い詰められたゼプロスは、なおも触手をさらに分裂させ、他の逆世守護神たちの傍へまで這わせていった。


 ベンヌオは両手を掲げた。その瞬間、すべての精霊が同一の意志に導かれるように一斉に合流し、宇宙の闇の中に澄み切った一筋の星河となって流れ出す。


 同時にヘルガティラは宝石杖を真正面へ突きつけ、黒き鞭を巻き戻した。それはまるで、この処刑に最後の期限を刻み込むための所作のようだった。杖の先が指し示した先へ、神の権能が具象化したエネルギー波が放たれる。その波は、小精霊たちの星河に抱かれるようにして、ほとんど同時にあの紫緑の核へ到達した。


 ゴォォン!


 ゼプロスの胸腔が、内側から一気に炸裂した。


 次の瞬間、ヘルガティラのエネルギー波はその核を完全に粉砕し、さらに存在そのものを消し去った。そこへ無数の精霊たちが三叉戟を手に、巨大な断片へ次々と取り付き、ゼプロスの内側から外側へ向けて、その巨体を剥ぎ取るように切り刻んでいく。


 その爆発は、通常の意味での爆砕ではなかった。むしろ、汚染された巨大な生命構造そのものが、突如として存在を許されなくなったかのような崩壊だった。紫と緑が入り混じった毒の光が内部から狂ったように噴き上がり、幾層にも広がっていた根と触手は哀鳴を立てながら急速に枯れていく。その巨大な躯体は、根元から引き抜かれた腐敗樹木のように宇宙空間で歪み、崩れ、砕けていった。小精霊たちはその残骸をさらに細かな破片へ裂き分け、最後にヘルガティラの権能が、残された存在そのものを消し去った。


 ゼプロスは、ついに完全に討ち滅ぼされた。




 だが、戦場は一柱の逆世守護神が墜ちた程度では、少しも和らがなかった。


 むしろ逆だった。ゼプロスは死の間際、残された力を触手を通じてロゼメルシュラへ送り込んでいたのである。


 巨大な口のようなローブをまとったその邪神は、ゼプロスの死を感知した瞬間、全身を突如として大きく収縮させた。次の瞬間、その巨大で猩紅のローブが猛烈に膨れ上がり、まるで花が一気に開いたかのように無数の花弁状に裂け、大量の分身を一気に吐き出した。


 一体、十体、百体、千体――瞬く間に、結界内の至るところがロゼメルシュラの姿で埋め尽くされる。


 あるものは元のままの巨大な体躯を保ち、あるものは半身に近い大きさしか持たない。だが、その大小にかかわらず、すべての分身が行っていたことはただ一つ。


 ――捕食だった。


 それらはプルドリセが伸ばした神の腕を呑み込み、セウロが振るった斬撃を呑み込み、ベンヌオが放った精霊を呑み込み、この結界内に漂う神力そのものまで貪っていく。


 さらには、ゼプロスが死の際に撒き散らした毒の残滓までも、いくつかの分身がまとめてその口へ巻き込んでいた。


 もはやそれは一柱の邪神というより、無限に増殖し、無限に貪り続ける災厄そのものだった。


 プルドリセは無数の神の腕を次々と打ち込み、それらすべてを一度に押し潰そうとする。だが、叩き潰されたローブと血肉は、ただちに別の個体へ組み替わっていく。セウロの巨大な刃が一度ならず何度もそれを断ち、粉砕し、破片へまで切り刻んでも、残された欠片は微細なものであろうと、何か歪んだ生命律動に呼び戻されるように、再び集合を始めてしまう。


 その状況で、誰よりも早く決断を下したのはゼラルセウスだった。


 アレサの気配が宇宙から失われて以降、守護神たちは一秒ごとに、自らの神力が削られていくのを感じていた。無・ゼラルセウスの半透明の神躯は、静かに前へと漂い出る。これまで穏やかだった双眸には、この時初めて、凍るような決意が宿っていた。


 彼は、もはや先ほどまでのように魂性エネルギーを目標へ付着させる程度の使い方では終わらせなかった。自らの権能を、さらに深い層まで解放したのである。


 膨大な半透明の魂エネルギーが、その体内から奔流のように溢れ出した。ロゼメルシュラの分身たちは、その一体一体が、その魂エネルギーを直接体内へ撃ち込まれ、さらには周囲の空間ごと呑み込まれていく。


 次の瞬間、ゼラルセウスは両腕を大きく広げた。

 それは祈りにも似た姿だった。


 その次の瞬間、結界は爆発の連鎖に埋め尽くされる。


 轟! 轟! 轟! 轟! 轟――!!


 数百、数千、数え切れぬロゼメルシュラの分身が、一斉に内部から爆裂した。


 それは火炎による爆破ではない。“魂”の力が、存在そのものへ直接炸裂したのだ。ローブも、血肉も、猩紅の液体も、闇のエネルギーも、結界の中に暴風雨のように撒き散らされる。その余波に巻き込まれ、まだ直撃されていなかった分身たちまでもが次々に歪み、裂け、砕けていく。


 その光景を見たクイターは、即座に法杖を振るった。生命の権能が結界全体を掃き、散乱した残骸から一つずつ再生の資格を剥ぎ取っていく。まだ脈動していた断片は、たちまち根を失った朽木のように急速に乾いていった。


 この一撃によって、ロゼメルシュラのあの災厄じみた分裂の勢いは、ついに強引に押さえ込まれた。


 だが、それでもまだ足りない。


 爆発の後にも、なお無数の、より細かく砕けた断片が闇の中で互いを引き寄せていた。再び集まり、一つの形へ戻ろうとしている。その再生能力は、ゼプロスすら凌いでいた。


 これだけの数の分身がまだなお分裂を続けている以上、すべてを根こそぎ消し平らげなければ、ロゼメルシュラはまた別の形で必ず蘇る。しかも以前よりさらに強大な姿で。


 もはや魂魔の神に残された手段は一つしかなかった。


 彼は、自らの最高位の権能を使うことを決めた。


 ゼラルセウスは静かに両腕を開き、自身の内奥にあるさらに深い魂の権能を、完全に外へ解き放っていく。もはやそれは“攻撃”ですらなかった。神格そのものを燃やしているのだ。


 半透明の神躯には次々とひびが入り始める。だがその代わり、青い双眸に宿る光だけは、ますます強く、ますます眩くなっていった。それはまるで、二つの恒星が内部で崩壊しながら最後の光を放っているかのようだった。体内には、星座を繋いだような魂の経絡が、異様なほどの輝きを帯びて浮かび上がっていく。


 次の瞬間、魂魔の神の神躯は、ついに崩れた。


 それは普通の自爆ではない。“魂”という概念そのものを、この結界全域へ無理やり拡散させるような崩壊だった。数え切れない半透明の裂け目が、一瞬のうちにすべてのロゼメルシュラの分身、本体、残片へ刻み込まれる。裂け目は一つ残らず震え、発光し、互いに共鳴していった。


 そして――


 今度は、結界全域を覆う魂爆が起きた。


 ゴォォォォン!!!


 ロゼメルシュラのすべての分身、本体、残片、そしてなお再構成を続けていた血肉までもが、同時に完全爆発を起こした。ローブと猩紅の液体は裂けた血海のように噴き上がり、闇のエネルギーは暴雨のごとく四方へ掃き散る。だがそれすら、クイターとヘルガティラの同時の権能によって幾重にも押し潰され、次々と消されていった。


 そしてその中心で――ゼラルセウス自身もまた、完全に消えた。


 残されたのは、無数の微細で静かな青い光点だけ。それはあまりにも軽く、あまりにも儚い、魂の雪のように宇宙の中へゆっくりと散っていく。だが、その気配が完全に途絶えた瞬間、それらの光点もまた、宇宙に広がる一筋の波紋となって消え失せた。


 ロゼメルシュラは滅んだ。

 そして同時に、無・ゼラルセウスもまた消えた。


 その消失は、遠くで戦うパーリセウスにも直ちに伝わる。自らへ与えられていた無限魔力の源に、明確な欠損が生じたのだ。魔力はもはや、使っていないだけでは留まりすらしない。何もせずとも、そこから流れ落ちていく。




 そしてその一方で、アロデロスを巡る戦況も、他の二柱の逆世守護神が敗れたことで、ついに決定的に傾いていた。


 ゼプロスからのエネルギー供給は絶たれ、ロゼメルシュラによる負担分散と捕食支援も消えた。そのうえ、塵世守護神たちは次々に合流してくる。かつては単身で三神の猛攻を支えていたアロデロスでさえ、もうそれを捌き切れない。


 フルガは再び双剣を握り締めて踏み込み、卍グラスは四本の長兵器を同時に振るう。ケンデルーもまた、わずかな息を整えた後、法杖と短剣を再び構え直した。


 最初に起動したのは、フルガの【剣心・剣影】だった。数え切れぬほどの輝きの斬影が、同じ軌道の上へ狂ったように重なり続ける。その密度に、アロデロスは二本の武器で正面から受け止めるしかなくなった。


 その瞬間に生まれた僅かな隙を、卍グラスは見逃さなかった。強引に間合いへ踏み込み、長槍で左肩を貫き、戦斧で腰を薙ぐ。腰への一撃は盾に防がれたが、直後にアロデロスの重剣と長槍が逆襲してくる。卍グラスは提薙刀で長槍を絡め取り、画戟で重剣を正面から受け止めた。二柱の塵世守護神による挟撃によって、ついにアロデロスの攻防の流れに、ほんの一瞬だけ裂け目が生まれる。


 その“一瞬”を、ケンデルーは待っていた。


 遠距離からの禁縛や、矢や法撃によって全身を穿たれながらも、彼は致命傷に近い重傷を押して神力の鎖を再び起動させる。ついに、アロデロスに残った二本の腕を完全に絡め取った。


 同時に、プルドリセの無数の神の腕が上空から幾層にも圧し寄せ、雨のようにアロデロスへ降り注ぐ。その猛打によって、神力の流れそのものまで封じられ始めた。


 さらに、その神の腕の隙間を縫うようにしてヘルガティラの鞭が叩き込まれる。鞭が打ち据えた箇所からは、あの強靭な肉体さえ破砕され、その欠片は宇宙の中へ舞い散り、まるで星環が弾け飛んだかのように広がった。


 そこへクイターが生命の杖を振るい、その断片から生命の力を引き抜く。さらにベンヌオの精霊たちが、散った破片を次々と奪い去り、二度と本体へ戻らせない。


 この時初めて、アロデロスは本当に支え切れなくなった。

 その脚が、後ろへ下がる。


 だが塵世の神々は、もはや彼に立て直す時間を与えない。


 プルドリセは、アロデロスの神力を封じ込めていた封印の腕を引き戻す。その瞬間、アロデロスの背後にセウロが一歩踏み込み、巨大な刃を斜め後方から振り下ろした。


 フルガの双剣も、ついに完全に自由を取り戻す。【剣心・剣影】はその瞬間に真価を発揮し、幾重にも積み重ねられた斬殺の極致として、双剣の合撃がアロデロスの四本の腕を断ち落とした。


 その隙を逃さず、卍グラスの四本の長兵器も一斉にその身へ突き刺さる。


 ケンデルーは、自らの命を削るようにして、黄金の鎖をアロデロスの頸へ、胸へ、四肢へと強引に締め上げた。


 ベンヌオの精霊群、クイターのエネルギーによる洪波、プルドリセの神の腕――あらゆる方向からの攻撃が同時に殺到し、アロデロスの退路と可能性を、完全に塞ぎ切る。


 その瞬間、斜めに裂けた躯体を引きずりながらも、アロデロスは残る六本の腕で一斉に武器を持ち上げ、なお最後の一撃を振るおうとした。


 だが、もう遅い。


 双剣。長槍。戦斧。薙刀。画戟。巨刃。長鞭。神鎖。神の腕。三叉戟。生命の奔流。


 すべての攻撃が、ただ一つの瞬間に集中し、アロデロスを貫き、砕き、引き裂いた。


 灰白色の巨体が、初めて本当に静止する。


 そしてフルガが、自らの手の中に幻のように一振りの刃を顕現させ、それをアロデロスの体内へ深く突き立て、低く呟いた。


「砕け散る刃」


 その一言とともに、全身へ巻きついていた猩紅の権能がついに崩れ始める。巨体はまるで融けるように、宇宙の中で徐々に消散していった。


 あの戦慄すべき鮮紅の光も、瞳の奥から少しずつ失われていく。


 アロデロスは、ついにその場で、神々の手によって討ち取られた。


 ――だが。


 意識が完全に途絶える、その直前だった。


 この逆世守護神は、なおも最後の残余の権能を振り絞り、千切れ残った腕で太刀を掴むと、一直線にケンデルーへ投げ放った。それは稲妻のようであり、また流星のようでもあった。


 次の瞬間、ケンデルーの胸は真正面から貫かれる。


 体内でまだ完全に収束し切っていなかった神力回路ごと、あの太刀は貫通し、粉砕した。まるでフルガの【砕け散る刃】を受けたアロデロスそのもののように、ケンデルーの身体もまた、そこから徐々にひび割れ始める。


 それでもなお、彼がアロデロスの頸と胸へ絡めていた黄金の鎖は、一寸たりとも緩まなかった。


 アロデロスが完全に息絶え、その身が粉末へ変わり、ついにこの宇宙から消え去るまで。

 その時になって初めて、ケンデルーは固く握り締めていた両手を緩めた。


 短剣【噬罪・赦免】が、その手から静かに落ちる。


 贖罪の神の身体は、太刀が突き刺さった部分から内側へ向けて崩れていった。それはまるで、一度床へ落として砕けた彫像のようでもあった。やがてその気配が薄れていくのとともに、砕けた躯もまた光へ変わり、静かに消えていった。




 ゼプロスの滅亡。

 ロゼメルシュラとゼラルセウスの同時消失。

 ケンデルーの犠牲。

 そしてアロデロスの討伐。


 そこまで至った時、もともとトリヤ・スペースとガリシュ・タイムが強引に維持していた、あの緩慢な時空結界も、もはや存続させる意味を失っていた。


 トリヤ・スペースとガリシュ・タイムは、静かに手を払う。


 次の瞬間、神々の戦場を覆っていた半透明の結界は、ゆっくりと収縮を始めた。


 極端に引き延ばされていた時間は、再び本来の流れを取り戻していく。

 固定されていた空間も、少しずつ元の位置へ戻り始める。

 切り離されていた神戦の領域は、元の宇宙と一つに重なり直していった。


 そして、その結界が解けていくのと同時に、そこにいた塵世の神々の視線は、再び別の方向へ一斉に向けられる。


 彼らを引き寄せたのは、なおも膨張を続ける、あまりにも邪悪な気配だった。


 なぜなら、すべての決着を左右する本当の戦いは、まだ終わっていないからだ。


 万悪の根源は、なお滅びてはいない。


 それを、この場で、完全に消し去らねばならなかった。

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