起源の記録
中央演算室からの権限転送により、
起源封印層が、強制解凍された。
観測管理局・中央資料層。
安定指数が測定不能に達し、自動解凍が実行された。
古い記録映像が、半透明の光として浮かび上がった。
それは管理局設立以前の世界。
分岐は無制限だった。収束という概念すら、まだ存在しなかった。
選択は枝を増やし、枝は互いを侵食した。
やがて時間は閉じた。
未来が過去を食い、世界は同じ瞬間を繰り返し続けた。
三億。
固定前に存在確率が零へ落ちた人間。
消えたのではない。
どの世界にも割り当てられず、未確定のまま凍結された人々だった。
その中に、一人の若い観測補助員がいた。
現在の局長だった。
彼は、何もできなかった。
数値だけが落ちていく。
存在確率。
0.12。
0.08。
0.03。
そして零。
目の前で三億人が世界からこぼれ落ちた。
それでも記録には、
「処理完了」
とだけ残された。
それ以外に、方法がなかった。
映像が途切れる。
現在の安定指数が重なる。
灰色。
あの時と、似ている。
だが決定的に違う点が一つあった。
あの時は、世界が増えすぎた。
今回は違う。
柳端は世界を増やしていない。
それでも管理局は、彼を定義できない。
それは、管理局の定義に存在しない型だった。
だからこそ――
局内には、別の解釈が生まれ始めている。
彼は増やしていない。
侵食していない。
奪ってもいない。
ただ、確定しない。
灰色が、脈を打つ。
柳端は増やしていない。
奪ってもいない。
ただ、確定しない。
その事実だけが、管理局の前提を揺らしていた。
――観測は、本当に唯一の方法なのか。
誰かが口にしたわけではない。
だが、その問いは確かに生まれていた。
そして今、
中央演算室へ向かっている。




