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世界の外側

落下は終わらなかった。

地面に立っている。

それなのに、まだ落ち続けている感覚だけが残っていた。

時間は、どこかへ置き去りになっていた。


最初に感じたのは、重さのなさだった。

地面はある。足も、確かに着いている。

それなのに、踏みしめた感触が世界へ返っていかない。

世界が彼らを受け取らない。


空は、色を決めきれない。

青と夕焼けと夜が、同時に揺れている。

雲は、形になる前に崩れた。


「……外、だね」

彼女の声だけが、はっきりと届いた。

この場所で、確実に存在しているのは、それだけだった。


管理局の端末は、完全に沈黙している。

管理局が決して踏み込まなかった領域だった。

柳端は、自分の胸の奥が奇妙に軽いことに気づく。

監視が、ない。

誰にも見られていない。

それでも、消えない。

その事実が、これほど重かったのかと、初めて知った。


彼女は周囲を見渡し、静かに息を吐いた。

「ここなら……時間が暴れない」

「どういうことだ?」

柳端の問いに、彼女は少し困ったように笑った。

「ここなら……壊れない」

「何が?」

「私たちが」

彼女の声には、安心と同時に、ほんのわずかな躊躇が混じっていた。


柳端は、それが希望ではなく、賭けの言葉だと理解した。

だが、安堵は長く続かなかった。

足元を、微かな振動が走る。

空間そのものが、脈を打っている。


「来てる……」

彼女の声が、低くなる。

「第三位相が、形を持ち始めてる」

柳端の視界の端で、“何か”が揺れた。

人の形に近い。

だが輪郭は定まらず、過去と未来が同時に重なって見える。


それは、敵意を放ってはいなかった。

だが、拒絶もしていない。

受け入れるかどうかは、彼ら次第だった。

ただ、見ている。

観測ではない。

判断でもない。

選択を、待っている視線だった。


「……あれは?」

柳端の問いに、彼女は目を逸らさない。

「分けられなかったもの」

「時間も、世界も、名前も」

彼女はそう言った。

その瞬間、 柳端は理由もなく息を呑んだ。

見覚えがあった。

まだ起きていないはずなのに。

どこかで、 ずっと見続けていたもののように。


世界の外側で、第三位相は静かに呼吸をしていた。

それは破壊でも、救済でもない。

――可能性、そのもの。


二人のどちらか“だけ”では、足りない。

重なった存在だけが、触れられる領域。


それは、手を伸ばした。

人に似ていた。

だが人ではない。

現象とも違う。

可能性が形を持ったなら、 きっとこんな姿をしている。


柳端は、彼女を見る。

彼女も、見る。

時間は、ここでは流れない。


だからこそ、 決めるのは、今しかない。

柳端は、手を伸ばした。

彼女も同時に。

指先が、触れる。


その瞬間、世界の外側に、はじめて音が生まれた。


止まっていた時間が、 一拍だけ鳴った。

誰のものでもない鼓動が、 世界の外側に響いた。


それは、

どちらの世界にも属さない鼓動。


三つ目の、

はじまりだった。

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