第十四章 緋色の研究 (十四)
ルーシーの研究には、欠陥があった。
彼女も、うすうす気づいていた。
これは、取引の対価としては危険すぎる。
ルーシーは、先に報酬を頂いていた。
自身の学費。
さらに、家族と思い人の生活と医療の援助。
その対価として、研究の一部を渡す。
ルーシーの研究は、二つあった。
その研究の一つは、危ういものである。
人の命を救い、生活を発展させるのが魔法の本幹だ。
これは、まるで反対だった。
人の命を吸い、危険に晒す。
本当は、人の病の元を見つけ、吸収する。
そして、魔法で消滅させる。
ルーシーの研究は、医療のため。
彼のためだ。
私は彼を救いたい。
一つの想いがあった。
それなのに、これでは誰も助けられない。
私は成し遂げる。
どんな手を使っても。
ルーシーは、学園の研究室でゆっくりと目を閉じる。
ルーシーは、目覚める。
問題がある。
活動できる時間と能力に制限がある。
仕方がない。
まずは、状況を整理する。
わたしの体は、もうない。
あるのは、わたしの意思だけ。
わたしの心は、彼の中にある。
彼は今、嘆いている。
わたしの死体を見ている。
涙を流し、声を出し、悲しんでいる。
伝わる。
その思いが。
こんなにも辛い気持ちが、わたしに入る。
今は、ゆっくりとしていよう。
わたしを受け入れることができるまで。
わたしの葬儀が終わって、しばらくしてから、わたしは彼に話しかけた。
最初、彼は驚いていた。
それはそうだろう。
死んでいる人間が、頭の中で声をかけているのだ。
自分がおかしくなったと思うのが普通だ。
時間をかけて、ゆっくりと彼に話す。
彼は、少しずつわたしを受け入れてくれた。
わたしの計画と目的を。
彼と一緒にいる時間は少なかった。
肉体的な温度を感じることはできない。
ただ、わかる。
心が繋がっていることを。
少しずつ、彼の体を使って行動ができるようになる。
彼が、わたしを理解してくれたおかげだ。
もう少し。
もう少しだ。
わたしを殺した犯人の居場所がわかった。
魔法都市ロンドン。
魔法省のスパイだったようだ。
彼は、ある組織の力を借りて調べたようだ。
その場所は、わたしの復讐にとってもいい場所だ。
わたしは、口元に笑みをこぼす。
魔法都市ロンドン。
入国するのは簡単だった。
彼には何もないのだから、当然だ。
犯人の場所は、すぐにわかった。
どこからか、情報が来たからだ。
なにやら、犯人たちは魔法省の依頼で動いているようだ。
わたしは、彼らを監視しながら、計画を修正した。
彼らを殺すことは変わらない。
だが、所詮、彼らは捨て駒なのだろう。
では、計画を立てたのは誰だろう。
これは、わたしたちの復讐だ。
彼は、わたしを殺した人間に復讐したい。
わたしは、この計画を立てた人間に復讐する。
犯人たちは、指輪を使っていた。
わたしの指輪だ。
どうやら、その指輪を使って人を殺しているようだ。
許せない。
そんな使い方をするなんて。
わたしの命を賭したものが、こんな使い方をされている。
では、それを利用しよう。
彼に、わたしの計画を伝えた。
彼は、指示通りに準備をしてくれた。
指輪をロンドン中にまく。
もう、誰も止められない。
ある貴族と取引をした。
街のゴミを掃除する。
その代わりに、魔法省の情報をもらう。
その貴族が新しく作ったショッピングモール。
その場所に、ジュエリーショップを作った。
アメリカで最先端のショップ。
格安での販売。
売れる。
売れれば、売れるほど。
指輪は世間に広がる。
ある程度、広がる。
犯人も殺した。
さあ、皆が苦しめばいい。
彼は、鏡でわたしを見ている。
わたしは、笑顔で彼を見る。
わたしたちは、二人で一人だ。
彼の指輪が輝いている。
わたしたちの絆。
彼も、きっと喜んでいる。
それは、私ではない。
彼は気づいていない。
私は死んでいる。
彼の中にはいない。
彼の中にいるあいつは、誰だ。
私は、彼の中にはいない。
いるのは、そこではない。
気づいてほしい。
私は、ここにいる。
私の気持ちは、指輪にある。
指輪は、彼の体を救う。
しかし、指輪が彼の心を壊している。
もし、指輪に、核に刻んだ私の言葉を伝えられる者がいればいいのに。
彼も、あいつもいない時間に、私は少しずつ得た情報から、ある人物の名前を聞いた。
シャーロット。
魔法の根本を観ることができるらしい。
もしかしたら、その人なら、彼を救うことができるかもしれない。
彼が起こした事件から、少しでも情報を残す。
気づいて。
彼は、そんな人ではない。
皆に愛されていた。
人を殺したり、貶めたりなどできない人。
私が愛した人。
私のせいで、私が彼を苦しませてしまった。
止めて。
お願い。
私の研究は、彼のためにある。
彼を救ってほしい。




