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シャーロット 〜魔法の調べは、観測の果てにあり〜  作者: 桜の浜


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第十四章 緋色の研究 (十三)

「取引をしたいのですか?」


「ええ」


「では、無差別大量殺人を防ぐ代わりに、私を殺した計画者の命が必要です」


 ルーシーは楽しそうに答える。


「計画者は誰かわかるの?」


「残念ながら、わかりません」


「ですので、魔法省の職員全員の命でかまいません」


「それでいいの?」


「はい」


 シャーロットは納得している。


 無関係な市民の命と引き換えなら、安いものだ。

 彼らはそのためにいる。


 その中にレストレードやステラがいることすら忘れている。

 覚えていたとしても、仕方がないと考えるかもしれない。


「そんな条件、飲めるわけないだろう」


 トビアスは、もちろん止める。


 このままだと、シャーロットは魔法省の職員全員の命を差し出しそうな気がしたからだ。


 そうするのが一番早いのは、間違いないのだが。


「そうですか? でも、計画者がわかりませんので、その方を呼んでいただけますか?」


 できるわけがない。


 外務調査局が関わっている事件の計画者など、知るわけがない。

 これは取引ではない。

 トビアスは焦りを感じる。


「あなたの要求を断った場合は、どうなるの?」


 シャーロットは、トビアスのことを無視して続ける。

 シャーロットにそんな権限などないにもかかわらず。


「そうですね。あなた方が言う、無関係な市民が死にます」


「あなたは、それでいいの?」


「はい。かまいません」


 ルーシーの笑顔は変わらない。


 構わないことなどない。

 こんなやつを、なぜ野放しにしていた。

 トビアスは、外務調査局に対して怒りが収まらない。

 彼らが代わりに犠牲になればいい。


「困ったわね。それじゃ、指輪が爆発するのは、どんな条件があるの? 時間、場所、人」


「それは教えられません」


 ルーシーの笑みは崩れない。


「そう。やはり、知らないのね」


 ルーシーの笑みが固まる。


「あなた、ルーシーじゃないもの」


「な、何を言っているの。私はルーシーよ」


 ルーシーの笑みが引きつる。


「シャーロットさん、時間稼ぎですね。そうですか。もしかして、回収でもしているのですか。さすがです」


 回収している?


 指輪を。


 シャーロットは、すでに動いていた。

 どこで指輪の情報を?

 外務調査局に直接接触したのか?

 だからといって、シャーロットに奴らが力を貸すとは思えない。


「あなたがつけている指輪は、爆弾ではないようね」


 拘束具で机の上に固定されているルーシーの両手。

 その左手の薬指には、指輪がある。

 指輪についた宝石は、赤い光を放っている。


 ジェファーソン――いや、ルーシーの笑みが消えた。


「これは、私と彼の絆です。決して誰にも渡すことはできない。これは私たちだけのもの。決して、決して……」


 シャーロットの視線は、ずっと変わらない。


 ジェファーソンの中にいるルーシーを見ている。


「じゃあ、あなたが選択をして」


 シャーロットの手には、二つのカプセルがあった。


「私が、この薬を飲む。正しい選択をしたほうに、本当のことを答える。それでどう?」


 カプセルを見て、ルーシーに笑顔が戻る。


「ああ、素晴らしい。選択ですね。そう、そうです。人生は選択です。楽しいですね」


「おい、それは……」


 ホテルにあった薬。


 勝手に持ってきた。


 レストレードが渡したのか。


「大丈夫よ。私が助かったら情報が入る。死んだら現状のまま。問題ないわ」


 問題はある。


 トビアスは、シャーロットの思考の危険性を感じる。

 シャーロットは、自分の命の価値に興味が薄い。

 まるで、死ぬことすら研究の一部のように考えている。


「わかりました。やりましょう」


 沈黙。


 シャーロットは、右にあるカプセルを飲む。


「ああ、素晴らしい。彼女は正しい選択をした」


 シャーロットが机に倒れる。


「おい、まさか、あのカプセルは……」


「はい。もともと、あそこにあったのは両方とも毒です。毒は二つ。致死性か、そうでないか。彼女は苦しまず亡くなった。ああ、素晴らしい」


「そう? 別に苦しくもないし、まだ生きているわ」


 シャーロットは顔を上げ、笑顔を見せる。


 ルーシーの表情が固まる。


「私の勝ちね。さあ、話して」


「ど、どうして生きている。ルーシーの薬は完璧だ。こんなことは起きない」


 男の声がした。


 ジェファーソンの声が。


「偽物だ。紛い物だ。嘘だ。お前らは嘘をついている」


 取り乱している。


「あなたは賭けをして、負けたのよ。偽物でも、イカサマでも、あなたは賭けに乗ったのよ」


「ひ、卑怯だ。許されない。あいつらと同じだ。所詮、お前らも同じだ」


「それは、あなたも同じでしょう。あなたに人を裁き、選択を与える権利などないわ」


「それに、偽物のルーシーを創っていたのは、あなたよ。ジェファーソン」


 ジェファーソンから表情が消える。


 シャーロットは球を発動する。


 ジェファーソンの左手の指に照準を合わせる。


 指輪が蒼く光る。


「な、な、何をしている。それは、私とルーシーの絆。いや、ルーシーは私の中にいる。私は誰だ?」


 ジェファーソンが、よくわからないことを言い始める。


 混乱しているのか。


「そう。やはり」


「何だ。何をした」


「あなた、わかっていないのね。指輪のこと」


「わかっている。わかっている。これは、ルーシーが残したものだ」


「あなたは知らないのよ。この指輪の意味、そして、その力を」


「指輪は、人を殺すためではなく、あなたを生かすためのものなのよ」


「私を、生かすための……」


 ジェファーソンの声が変わった。


 シャーロットが作った球の光が、狭く暗い部屋に輝きを与えていた。


 ジェファーソンは思い出す。


 昔のことを。


 ずっと昔のことを。


 忘れていた何かを。


 そして、聞こえないふりをしていた言葉を。


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