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シャーロット 〜魔法の調べは、観測の果てにあり〜  作者: 桜の浜


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第十四章 緋色の研究 (十二)

「私が殺しました」


 男は監視局の受付の前でそう言った。


 受付にいた女性局員は、落とし物を拾ったとでも言われたように、はい、わかりましたと答える。


「え、今なんとおっしゃいましたか?」


 局員は聞き返す。


 男は同じ言葉を言う。


「私が殺しました」


 局員は戸惑っていた。


「どうしましたか?」


 トビアスは監視局に戻る時、受付の男を見た。

 男は挙動不審でもなく、態度も普通だ。

 ただ、トビアスは怪しい匂いを感じていた。


「私が殺しました」


 その言葉を聞いた瞬間、トビアスは魔導銃を男に向けた。


「動くな。警備を呼べ」


 トビアスの叫び声に、監視局は一時騒然となる。

 監視局の中にいたレストレードやステラが、男の周りを囲む。


 囲まれていても男は動じない。


「誰を殺した?」


 トビアスは男の正面に回る。

 何も持っていない。

 いや、手を握りしめている。

 まさか。


「手を動かすな!」


「これを知っているのですか?」


 まずい。


 トビアスは一瞬、躊躇する。


 男は指輪を落とした。

 一つ。

 いや、二つ。

 違う。


 指輪の落ちた音が局内に響いた。


 まずい。


 トビアスは盾の魔法を発動し、指輪の前に張る。

 同じように、レストレードとステラも盾で指輪を囲む。


 長い一瞬だった。


 爆発しない。


「これは、ただの残骸です」


「さあ、早く捕まえてください」


 トビアスは盾を解除し、男に近づく。

 身体検査をする。

 何もない。

 いや、指輪をつけている。

 もちろん外すことなどできない。


 拘束具で男を捕らえ、取調室に連れていく。

 それも一番頑丈な作りの部屋へ。


 落ちていた指輪は使用した後の残骸だった。

 かなりの数が落ちている。

 それだけ使用していたとしたら、何人亡くなっているのだろう。


「今、シャーロットがこちらに向かっている」


 レストレードはすぐに連絡を取ったようだ。


 取調室で身分証明書を確認する。


「まずは身元だな」


 ジェファーソン・ホープ。


 アメリカ人。


 トビアスが見た印象では普通の男だ。

 人を殺すようには見えない。

 違うな。

 こんな大きな事件を起こして、人を殺すようには見えない。


 仕事は御者。


 犯人に利用されているのか。


「誰を殺した?」


 トビアスは男に聞く。


「事件を知らないのですか?」


 事件は報道されていない。

 男、ジェファーソン・ホープは知っている。


「どの事件だ?」


「どの? 言い方がおかしい」


「すべての事件です」


 すべてというのは、二つの殺人事件のことか。

 それ以外にも誰かを殺めている可能性がある。


「すべてというのは、指輪に関わるということか」


 男は軽く笑みを浮かべた。


「さすが、トビアス監査官です」


 トビアスは名乗っていない。


「私のことを知っているのか」


「監査官歴も長く、堅実な仕事をしている。この前のインフラ事故の時の手際もとてもよかった。あなたが居なければ、もっと被害が大きくなっていた。市民の不満をうまく抑制していた。そうでなければもう少し、流れが変わっていたと思います」


 ロンドンのインフラ事故。

 最初は、貴族と一部の魔法省職員の暴走という状況だった。

 前回の爆破未遂事件で本筋が変わった。

 システム自体を止めるのが目的。

 シャーロットが書いた報告書には、そう記載があった。


 そのことをジェファーソンは知っているのか。

 それともカマをかけられているのか。

 男の表情からは読み取れない。


 まるで。


 何かに似ていた。


 そうだ。

 あのアパートの一室と同じ。

 違和感。

 何かがない。


 扉が叩かれる。

 レストレードだ。


 三重の防護結界が張られた魔法の扉と部屋。

 指輪爆弾くらいの威力ならば封じられる。

 もちろん中にいる人は助からない可能性が高いが。


 扉を開けると、銀髪の少女が入ってくる。

 シャーロットは男の前に座る。


 沈黙。


「あなたは、今はどっちなの?」


「どっち? 私は私です」


「そう」


 トビアスは、シャーロットと男の会話を理解できない。

 何を話している。


「どっちを殺したの?」


「私はジョセフを殺しました」


「何故殺したの。薬を使わずに」


「それは違う。選択を与えた。彼は自分で選んだ」


「選んだ? 正しい選択をできなかったということ?」


「正しい選択をした」


「どちらにしても殺していたのでしょう」


「そう。死ぬことは変わらない。正しい死に方をしたということ」


「心臓を刺されることが?」


「死に方が一番重要。命が消えるその瞬間に何を感じるか。幸せか、苦しみか、恨みか、もしくは懺悔か。私はそれを選ばせてあげた」


「そう」


「イーノックを殺したのは、ルーシーね」


「ルーシー。ルーシー。ああ、ルーシー。その名前を聞けて私は嬉しい。これが彼女が生きていた証」


 男の表情が少し変わる。

 先ほどまで無表情だった顔に笑みが溢れる。


「今回ここに来たのは、二つの目的がある。一つは彼らに選択を与えること。もう一つは君に会うことだ、シャーロット」


「会えてよかったわ」


 言葉とは裏腹に、シャーロットの顔は無表情だ。


「俺もだ。ルーシーは言っている。君なら理解してくれると」


「あなたたちの目的は何?」


「目的。選択だ」


「選択?」


「この国は、一部の人間が世の中を支配している。それは素晴らしい結果を示す。しかし、現実は違う」


「各々、自分たちが正しい選択をできれば、正しい生き方ができる」


「指輪でそれを選ばせるの?」


「そうだ。皆が選ぶ」


「あなたが言う選択とは何?」


「命を懸けて選ぶのだ。自分の未来を」


 トビアスは黙って聞いていた。

 犯人の動機よりも、事態を収拾する方法を考える。

 問題は指輪だ。


「指輪をどのくらい作ったの?」


「いくらでも作れる。この街は点で溢れている。まるでどこからかき集めたようだ。そして人は選択する。素晴らしい結果になる」


「選択を望まない者もいるわ」


「選択は常にしている。生きることは選ぶことだ。望む、望まないなどない」


「あなたがその選択を与えることではないわ」


「そうだ。君の言うとおりだ。だが、この街で生きるということは、その責任を負うのだ」


「責任?」


「魔法を使用して生活すること自体、おかしいのだ」


「お前の道理などどうでもいい。指輪はどのくらい街に撒いた」


 トビアスは、二人の会話を遮るように言う。


「撒く? 指輪には対価が必要だ。ただで渡すことはできない。今、何がこの街で人気なのか知らないのか?」


 ショッピングモール。


「指輪を売っている。人は高価なものに対価を払う。誰でも手に取りやすい価格で売ったらどうなる? それも今人気のブランド。流行というのは怖い。皆が同じものを持ちたがる」


「どうして安く流通できるか知らないからな。人の命を吸ってできる宝石。その輝きを」


 逆だった。

 指輪で命を吸うのではない。

 命を吸ってできたのが指輪。


「皆、喜んでいる。人の命でできたものをな」


「そして指輪は、また人の命で輝きを増す」


 これでは無差別に被害が出る。


「あなたの話はわかったわ。ルーシーを出して。彼女と取引をするわ」


 シャーロットは目の前に座っているジェファーソン・ホープに向かって言う。


 トビアスはシャーロットを見る。

 何を言っている。

 ここは通信が繋がらない。

 どうやって連絡を取らせる。


 その時、女の声が聞こえた。


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