第十四章 緋色の研究 (七)
ジョン・ランス。
監視局の補佐官。
彼は補佐官になってから、自分の与えられ地域の見回りを毎日欠かさず行っている。
他の補佐官は、見回りなど週に一度か二度ぐらいしか行わない。
ジョン・ランスはそれに対して、他の補佐官が仕事をしていないと思っていない。
補佐官の仕事は多岐に及ぶ、資料作りや報告書、監査官の捜査の手伝い、外部との連絡などがある。一部の補佐官は始末書を毎日書いているらしい。
それだけ大変な仕事だ。
だからこそ、自分の与えられた地域の安全と安心を守るのが仕事だと考えている。
いくらそう思っても仕事が休みの日や他の捜査で見回りが出来ない場合がある。そんな時ですら、休みの日に買い物のついでに立ち寄り、前の日、行けなかった場合は次の日、監視局に行く前の早朝に見回る。
そんなジョン・ランスは、決して仕事が出来る男ではない。寧ろ効率が悪く、融通が効かなく。更に無愛想である。
同期には、すでに監査官になっているものもおり、後から入局したものにあっという間に監査官になった者たちもいる。
ただ、彼はあまり気にしていない。
別に監査官になりたくないわけではない。
もし自分が監査官になってしまったら、自分の与えられた地域は誰が守るのか。
彼は本気でそう考えている。
その日も、彼はにいつもの見回りをしていた。
最近、地域が発展している。
そのおかげで、空き家が減り、怪しい売人や家がなく勝手に住み着いている者たちが少なくなっている。
良い方向に進んでいる。
自分の見守りは間違ってない。
彼は、いつも本質をみない。
見えないのだ。
裏通りに出来ている火の燃えた後のようなシミが増えていることを。
そんな彼だが、唯一間違えをしないのが、
どの空き家に人が住んでいるかいないかだけは、ほぼ毎日確認している。
その空き家は暫く誰も住んではいなかった。
人影がいる。
二人だろうか?
ジョン・ランスは、空き家に近づく。
音がしない。
扉を開けると。
人が倒れていた。
死んでいる。
通常なら、遺体を確認する。
しかし彼は、すぐに監視局に連絡を取った。
人が亡くなっている事件は、監査官の仕事であり、遺体の確認は検視官の仕事だ。
彼の生真面目な性格は、結果としてその地域を救った。
犯人ですらそんなことになっているとは思っていないだろう。
シャーロットは、ジョン・ランスから話を聞き終えた所だった。
ジョン・ランスの話は回りくどく視点が彼から動かないため、普段の彼の性格や思考を知らない人間にはわかりづらい。
監査官であるトビアスですら、たまに会話を諦めることがある。
それなのに、シャーロットは上手くジョン・ランスから有益な情報を抽出していた。
トラビスは単純にその能力に驚いた。
「現場に戻るわ、それと」
空き家に、指輪の落とし物がある。
落とし物は、遺失物係で保管中。
「この情報を流して、あと遺体があった情報もね」
トビアスは、内密にと言う状況で知り合いの新聞社に伝えた。大きくではなく、わかる人間がわかるように頼むと。
連絡が終わるとトラビスとシャーロットは現場に戻った。
空き家の中を再度シャーロットは歩き回る。
点の状況を再確認する。
少ない。
点は魔法使用時にはその場所から無くなる。
また、点がまた発生するにはある程度の時間がかかる。
原因は、あの指輪だろう。
点の中の核を飲み込んだ。
飲み込んだ核を利用して爆発の力に変えた。
シャーロットが気になったのは、それが一つだけなのか。
この点の状況からして核を集めたのであれば、検視室の指輪の力は小さいすぎる。
考えれるのは、想定以上の出力がでていない。
もしくは、同じ能力のもが大量に存在する。
シャーロットは、トビアスに現状での考えを伝える。
トビアスは、少し驚いた顔をしていたが、すぐに元の表情に戻った。
感情の起伏が少ないタイプのようだ。
レストレードとは違う。
仕事では感情よりも理性を優先している。
空き家はしばらく、巡視管が警備につくことになった。
問題ないが、人によってはこの部屋に入るだけで不快感が起きる者もいる。
犯人が戻ってくる可能性もある。
かなり低いが。
シャーロットは、周辺の散策をする。
この地区は、何かがおかしい。
空き家だけが異質だと思っていた。
そうではない。
路地を深く進んでいくとその異様さが現れてくる。
「この地区は、もともと浮浪者が多かったはず、その人たちはどこへ消えたのかしら?まるでみんなを消したかのようにきれいに居なくなっているわ」
シャーロットは、道路を清掃している人たちを見ている。
ここを再開発する貴族が雇っている清掃人だ。
道路を街をきれいにするという今までない試みをしている。
きれいな街には犯罪も少なくなるという統計がある。
実際この地区の犯罪利率は少なくなっている。
いい事例だとトビアスも評価していた。
だが、シャーロットの言い方だと別の趣旨があるように見える。
保管室。
監視局は、街の遺失物を管理担当する部署がある。
落とし物には、大きく二つある。
市民や監視局の局員が見つけた問題がない遺失物。
それと、犯罪が絡む遺失物だ。
犯罪が絡むものはそのまま捜査機関で調査される。
今回の指輪は、問題がない遺失物で保管されることになった。
指輪自体は、シャーロットの魔法で消滅したので、似たようなものをワトソンが探して持ってきた。
そのことで、シャーロットは、ワトソンに少し怒られた。
「指輪って結構高いのよ」、「あと勝手にどこかに行かない。学園をさぼらない」と
小さいシャーロットが少し小さくなったようなにトラビスは見えた気がした。
トラビスはそれを見て、この子にはきちんとした大人が周りにいるのだなと安心もした。
シャーロットは、同じ偽物でも、宝石の輝きが違うのはまずいといろいろ注文をつけた。イミテーションでは意味がない。
ワトソンは、いつまでたってもシャーロットが花壇から帰ってこないので、また作業着で講義に出ていたのかと嘆いていたところに、急に連絡が来た。
今すぐ用意して欲しいものがある。
知り合いの店を回り、やっとの思いで監視局に来た。
あとで監視局に請求するつもりだ。
準備は整った。
後は、誰がその網にかかるかだ。
新聞が発売。
その日のうちに、指輪を求め何人かが現れた。
受付には、ステラが立つことになった。
最初はシャーロットがその場で対応すると言ったが。監視局の局員ではないのと、事件とは別の訪問者の対応ができないだろう。
レストレードとエセリンが無理だ。という声を上げていたのが一番大きいかもしれない。
こういう時のシャーロットへの信頼は極端に低い。
シャーロットとワトソンは、保管室の裏で待機することになった。
保管室にある、拾得物とその書類をシャーロットは楽しそうにみている。
落ちていた場所、時間、日付、拾った人間。
書いている書類はその程度だ。
それを眺めながら、シャーロットはその理由を考え始める。
拾ったものを届ける人間とはどのような思考なのか、そのまま自分のものにした方が利になるはず、更に監視局まで行く手ももかかる。
善意という言葉が人にはある。
それだけで人は動くのだろうか。
シャーロットは、少し気になっていた。
拾得物が偏った場所から多く出ている気がする。
通常の倍、いやもう少し多い。
事件のあった地域。その地域での拾得物の割合が多い。
日付を見ると再開発が始まった時期の少し前から今日までが期間で増えている。
時間帯はバラバラだ。
拾った人間の名前がない。
名乗らなかった。
拾ったものは、指輪が多い。
その指輪には宝石はついていない。
ただのリングだ。これでは売ってもあまり価値がない。
だが、こんなものをわざわざ見つけて持ってきた人間がいる。
資料の情報を保管室の職員に聞くが、その場にいた者たちはあまり覚えていない。
背広を着た中肉中背の男性。
学生、主婦。
誰が見ても一般人。
全員がそのような回答をした。
指輪を目的にしているものは、最初の会話でほぼわかる。
最初の何人かはただ指輪が欲しいだけの者たちだった。
昼くらいに、年配の女性が現れる。
話の内容にも矛盾もなく。
まるで本当にその場で落としたようだった。
シャーロットは、指輪をその女性に見せるようにステラに後ろからいう。
指輪を見た瞬間。
その女性は、間違えだったといなくなる。
シャーロットは、ワトソンに尾行をたのんだ。




