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シャーロット 〜魔法の調べは、観測の果てにあり〜  作者: 桜の浜


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第十四章 緋色の研究 (四)

「奇妙ね」


 シャーロットは空き家に入り、現場の部屋を見ながら言う。


 ここには何もない。

 トビアスの言った通り。

 何かに似ている。


 シャーロットは、その感じを思い出す。


 そう。

 ここは静寂区と同じ。

 魔法の源である点が、極端に少ない。


 空き家の周り、いや空き家自体は正常だった。

 この部屋だけが異質な空間になっている。


 シャーロットは円を発動する。


 彼女の固有魔法。

 それにより、この部屋を解析する。


 青い光が部屋を覆う。

 トビアスは廊下からその光景を見た。


 青い光。

 監視局の局員なら使える盾の魔法。

 それと同じ青。

 同じ青色でも、深みが違う。


 もっと深い。

 海の中。

 深い。

 深海。

 飲み込まれるような錯覚。


 綺麗だ。


 トビアスは、自分がそんな情緒的なことを思っていたことに気づいていない。


 いつもなら、シャーロットが勝手に魔法を使用すると、困った顔をしたり注意したりする人間がいる。

 だが、今日は誰もいない。

 そのせいではないが、シャーロットの円の精度はいつもより高かった。


 消されている。


 情報が。

 魔法の源である点。

 その中にある核の情報が消されている。


 まるで、黒板に書いたチョークの字が黒板消しで消されているようだ。

 誰かが拭き取った。

 それでも完全には消せていない。


 文字が見える。

 消した点に、上書きしたようだ。


 RACHE


 シャーロットは見えた文字をつぶやく。


 聞いたことがない単語だ。

 レイチェ。

 レイチェル?


 トビアスはそれを聞いて答える。


「女の名前か?」


 シャーロットは、その単語が英語ではないと考える。

 ほかの言語。

 ドイツ語。


「違うわ」


 これは、復讐よ。


 復讐。

 ドイツ語。

 亡くなっていたのはアメリカ人。


 シャーロットは、さらに深く潜る。


 これが始まりなのか。

 それとも終わりなのか。


 ただ証拠隠滅を図っただけではない。

 核の情報を消すことなど、普通の人間にできるはずがない。

 魔法の知識が優れているだけではない。


 魔法の根源を知っている。


 人を一人殺すだけのために、やるようなことではない。

 普通ならやらない。

 無駄だ。

 こんなことはする必要もない。


 実際、シャーロットだからわかったことである。

 監視局のトビアス監査官でさえ、違和感以外はわからなかった。


 そうまでしても、隠さなければいけないものがここにあった。

 そう考えるのが自然だ。


 遺体を消す方が手間はかからない。

 遺体を処理するための時間がなかった。

 違う。

 それだと、復讐という文字を残す意味もない。


 遺体はなければならない。

 文字も残さなければならない。


 これは犯人からのメッセージだ。

 それは誰に向けてだろう。


 監視局?

 アパートの大家?

 イーノック・ドレッバーに関係する者へか。


 部屋自体だけではない。

 遺体の方にも、何かがある?


「遺体はどこにあるの?」


「安置所に運んで、検視中だ」


 身元はアメリカ人。

 この街で仕事もしている。

 仕事は保険調査会社。

 会社自体は聞いたことがない。


 空き家の調査で来たのだろうか。


 この辺り一帯は、再開発の噂が流れている。

 ロンドンの街自体が関わっている大きなプロジェクト。

 街の西部は、発展から遠い状態である。


 犯罪を犯した者や、仕事や家がない者たちが集まり始め、治安が悪くなってきていた。

 魔法省や政府の福祉課などは定期的に足を運び、状況の改善に努めた。

 しかし彼らは、さらに深く闇に沈んでいった。

 そのため、現状はあまり変わらなかった。


 長らく誰も変えることができなかったこの地域を、ある貴族が莫大な予算をかけて整備する計画が発表された。

 場所が場所だけに、他の貴族や地域からの反発はなかった。

 住んでいる人たち以外は。


 彼らには声を出して反発することなどできないと、皆がわかっていた。


 治安と街のさらなる発展のため。

 その貴族が各方面から認可を取るために、言い続けた言葉だった。


 計画は順調に進み、第一計画が完了した。


 できたのは、郊外の一大ショッピングモールだ。

 国内外のブランド店を集めることで、敷居を上げた。

 さらにその周りには新興企業の店を増やしていくことで、どの世帯でも対応できる場所にした。


 もちろん、治安強化のために警備にも力が入っていた。

 王宮並みの警備が、そこにはある。


 一番驚くのは、その場所に行った者が全員こう言うことだ。


 ゴミ一つない。


 店舗にも道路にもない。


 そして、次なる計画のために、この地域の再調査が始まっていた。


 シャーロットは、その計画が出てから、この地域の浮浪者が徐々にいなくなっていることを感じていた。

 最初は、どこか違う地域に移動したのだと思っていた。

 しかし、ロンドンの街のどこにもいない。


 シャーロットは日課の散歩で、ロンドンのあらゆる場所を定期的に徘徊している。

 そこで仲良くなる浮浪者や、身寄りのない子供たちもいた。


 最低限の生活ができるようにするのは、貴族の役目でもある。

 そう考えている者たちが作った孤児院や寄合所に、案内をすることもある。


 中には搾取する孤児院などもあるが、シャーロットの知り合いの貴族のところは、そのようなことがない。


 それでも強制はできない。

 あくまで伝えるだけだ。


 ここにいた者たちにも、計画が出始めたころに早めの移動を伝えた。

 貴族の中には、彼らのことを人間だと思っていない者もいる。

 命の危険が起こる前にと考えていた。


 計画を立てた貴族は、その者たちに施しを与え、別の区画に住まわせたという報告書を出していた。

 レストレードから見せてもらったが、彼らがどこにいるのか、シャーロットでさえまだ確認できていない。


 シャーロットは、窓から見えるショッピングモールを見ていた。


 まるで、絵で作られた世界ね。


 ボヘミア卿。


 新たな世代に受け継がれたその力は、より大きくなった。

 この地域で何をする予定だ。

 これが、彼らの考える新しい世界なのだろうか。


 整っている。

 煌びやかで、汚れがない。


 なんて、怪しいことこの上ない場所。


 魔法省の施設もあり、この場所に予算を回している。

 これ以上この場所が大きくなると、きっと面倒になる。

 シャーロットはそう考える。


 視線を部屋に戻す。


 反対する組織や、隠れて住んでいた人の犯行だろうか。


 復讐。

 それは誰に対するものだろう。


 この場所か。

 殺された人か。


 シャーロットの中に何かが見えた。

 それは小さい光のような輝きだった。


 なんだ。


 何かを隠そうとしていた。


「被害者、何かをつけていた?」


「衣服は着ていた。後は、別に大したものは持っていない。いや、指輪があった。高価そうな指輪をつけていた」


「指輪?」


「ああ、指輪だ。むしろ所持品はそれくらいだ」


「急いで。監視局へ向かいましょう」


 シャーロットたちは、監視局へ急いだ。


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