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シャーロット 〜魔法の調べは、観測の果てにあり〜  作者: 桜の浜


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第十三章 四つの署名 (十三)

「シャル、シャル」


 ワトソンの声が聞こえる。

 どうしたの。そんな悲しそうな声で。


 今、起きるわ。


 ちょっとだけ待って。

 シャーロットは目を開く。

 一瞬、気を失っていたようだ。


 まずい。


 状況を整理しないと。

 紫の王冠、コ・イ・ヌールから光が消えていた。

 ネルソン記念柱から、緩やかな魔力導管の音が聞こえる。

 四頭の獅子は、いつの間にかロンドンの街を見守っている。


 もう一度。


 シャーロットは、球を発動する。

 頭の中が歪む。


 駄目だ。


 深呼吸。


 もう一度。


 球で柱、王冠、獅子を丁寧に確認する。

 正常。

 噴水の色が少しずつ、赤から青に戻ってきている。


「シャル、大丈夫?」


「ええ、これで大丈夫よ」


「そうじゃないわ。あなたがよ」


「私? ええ、問題ないわ」


 ワトソンは、シャーロットを後ろから抱きしめた。


 温かい。


 シャーロットの背中から声が聞こえる。

 泣いているような音だ。

 シャーロットは、その音を聞きながら、ゆっくりとトラファルガー広場を見る。


 いいわね、ここ。

 また、散歩でもしに来たいわ。


「大丈夫か、シャーロット」


 レストレードがこっちにやってきた。


「ええ、問題ないわ」


 シャーロットのその答えを聞いて、レストレードはネルソン記念柱のシステムに整備の人員を送り込む。

 先ほどまで、ここにはシャーロットとワトソンの二人だけだった。

 噴水の音だけが聞こえていた。


 静寂。


 もうその静寂はなくなり、大量の人員がトラファルガー広場にいる。

 人の種類こそ違うが、平穏が戻ってきた瞬間だった。


「どうする?」


 レストレードが聞いてくる。


「もう一度、アグラの秘宝に行くわ。もう一回見てみないと」


「わかった。ステラと一緒に行ってくれ」


 タワーブリッジ。


 シャーロットたちが到着すると、ステラの方に監視局の人間が来た。

 タワーブリッジには二つの橋がある。

 馬車や人が通る橋。

 それよりも高い位置にもう一つの橋がある。


 それは硝子で作られた橋。

 硝子の真下にはテムズ川が見える。


 観光客がよく来る人気の場所の一つだ。

 ただ、今そこにいるのは観光客ではない。

 三人の男性が横たわっている。

 一応、ワトソンは三人の脈と鼓動を確認し、首を横に振った。


「彼らは誰かしら?」


「たぶん、スモールの共同研究者よ」


 シャーロットは首筋を見る。

 三人の体には、毒針を刺されたような跡があった。


「誰がやったのかしら?」


 スミスを殺したのは、スモールだと思っていた。

 間違いだった。

 同じ毒を使っている。

 スモールの共犯者。

 ボートに乗っていた。

 一瞬、円で観測したときに違和感があった。


 人ではない。

 まるで創られた存在のようだった。


「シャル、レストレードからよ」


 今回とは関係ないかもしれないが、東インド研究所と軍は人を使った人体実験を行っていた。


 通称、ゴーレム。


 実用化される前に、東インド研究所は消滅した。

 ただ、その研究に参加していたのが、アーサー・モースタンだった。

 メアリーの父。


 三人の遺体は、検視室に送られた。


 シャーロットは、遺体のそばで少量の砂を見つける。

 太陽の光を感じる色だ。


 アグラの秘宝の再確認に向かう。

 街の魔力導管の流れ。

 大丈夫そうね。

 ゆっくりと街は平穏に戻る。



 数日後。


 シャーロットは、レストレードからの報告書を見る。

 スモールは死亡。

 歯に隠していた毒を飲んでいた。

 スモールと一緒にいた者は、川から遺体は出てこなかった。

 まるで、川の中で溶けたかのように。

 彼らを狙撃した犯人もわからず。


 スモールの共同研究者である。

 

 マホメット・シン。

 アブドゥラ・カーン。

 ドスタ・アクバー。


 毒針を刺され、死亡。

 犯人は不明のまま。


 魔法省、軍、貴族は、今回のことには何も関与していない。

 屋台の店主のスミスは、魔法省外務局の職員だった。

 もちろん、公式には載っていない。

 内部調査室からの情報だ。


 マリアは、まだ行方不明。

 軍とショルトー研究所は一時停止。


 簡素な内容だ。


 そこには、人の想いも研究の熱意も何もない。

 マリアがどうして貴族を標的にしようとしたのか、少し理解できる。

 見ている景色が違うのだ。

 分かり合うことなどできない。

 ただ、そばにいることを許し合えるかだ。



 事件が一応解決したので、シャーロットは魔導学園の自分の部屋にメアリーを呼んだ。


「メアリー」


 シャーロットは、六つの真珠を並べて円を使用し、同期を行った。

 そして、そこに球を発動する。

 現れたのは、軍服を着た男だった。


「えっ、お父様」


 メアリーは驚きの声を上げる。


「きっと、これを見ている時は、私はもうこの世にいないかもしれない。だから、もし、もしお前がこれを見ることができれば、それに越したことはない」


「え、どういうこと?」


 そこには、映像としてメアリーの父が現れていた。

 アグラの秘宝と四つの署名の本当の研究は、記録した映像を違う場所で見ること。

 それにより、死んだ者や遠くにいる者と会うことができる。

 真珠は、その記録媒体だった。

 しかし、いつの間にか研究は復讐へと繋がっていた。


「知っていたのかしら。スモールは、このことを」


 ワトソンは、メアリーと大尉の映像を見ながら、シャーロットに尋ねる。


「ええ」


「これを作ったのは、スモール自身だから」


「そう。でも、メアリーに見せることができてよかったわ」


 スモールの本当の目的はわからない。

 同じ被害者の娘に、何かを伝えたかったのは間違いない。

 それが何かは、もう誰にもわからない。


 ワトソンは、寂しそうに映像を見ていた。



 十年前、ある計画は実行された。

 ちょうど、オーストラリアで大規模な魔法事故が起きていた。

 世界を震撼させたこの事故の詳細は、まだ入ってこなかった。

 これは大きく利用できた。

 インドでの反乱は、これ以上鎮圧できない。


 その反乱を利用する。

 さらに、大きな力を得ていた東インド研究所の力をそぐことができる。

 東インド研究所を管理している二十四人の貴族。

 しかし、その力は研究所の所長とのバランスが崩れかけていた。


 その結果。


 すべてを整理するのが、一番いい方法であった。

 魔法省は、東インド研究所の研究を引き継ぐ。

 イギリス軍は、反乱の責任を東インド研究所の事故に押し付ける。

 大議会は、二十四人の貴族に新たな役職を与えた。

 すべてが正しい計画であった。


 計画書には、四つの署名が書かれていた。


 大議会。


 魔法省。


 軍。


 そして……。


 男は、ゆっくりと書類を閉じた。


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