表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャーロット 〜魔法の調べは、観測の果てにあり〜  作者: 桜の浜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
73/76

第十三章 四つの署名 (十二)

  トラファルガー広場。


 その場所にシャーロットたちが着いた時、すでにレストレードたち監視局は警戒体制を敷いていた。

 封鎖し、市民の避難を行っている。


「柱のところだ」


 ネルソン記念柱。

 魔法都市ロンドンの中枢観測柱。

 魔力導管の要。


「そう。どんな感じ?」


「見たことがない装置が、柱についている」


「行くわ」


 シャーロットは向かう。

 少しふらつく。


「大丈夫?」


 ワトソンが駆け寄る。

 さっきので、球を使いすぎている。

 思考ばかりが進みすぎている。

 体と頭のバランスが崩れている。

 このまま無理をすれば、シャーロットが壊れてしまう。


 逃げよう。

 二人でこのまま馬車に乗って逃げよう。

 別に、シャーロットがこの街を救う必要などない。


「問題ないわ。すぐに行かなきゃ。時間がない」


 シャーロットの中には、避難するという考えはない。

 むしろ楽しんでいる。

 見たことがない装置を。

 見たことがない魔法を。


 天高くそびえ立つ。

 トラファルガー広場の中心に、それはある。

 四頭の獅子はロンドンを見張っている。

 守護するはずの獅子が、動いていない。


 装置は柱に取りつき、魔力導管を侵食し始めている。

 噴水の色が、青から赤に変わり始めた。


 すごい。


 シャーロットは、その場に座る。


 球を発動する。

 観測を始める。


 素晴らしい。

 ロンドン中の魔力導管の制御を乗っ取っている。


 紫の王冠、コ・イ・ヌール。


 インドの秘宝を利用したもの。

 十年前のインドの反乱の元になったもの。

 それが、ここにある。


 東インド研究所と一緒に消えたと思われていた。

 インドの秘宝を奪い、自らの研究に使用していた東インド研究所。

 そのことが、インドの国民に怒りの炎をつけたことすら、彼らは気づいていなかった。


 軍と魔法省が、最後まで探していた。

 それが、ここにある。


 今のままだと、魔力導管の流れを無理やり増幅させ、破裂させる。

 ここだけじゃない。

 ロンドン中にある魔力導管すべてだ。


「レストレード、街からの避難を。最低でも、魔力導管がある場所からは必ず」


「わかった」


「ワトソン、あなたも避難して」


 シャーロットが、珍しいことを言う。


「いるわ」


 ワトソンは、いつものことを言う。


「そう。わかった」


 時間が来た瞬間、魔力導管に大量の魔力が流れる。


 今は、とても穏やかに流れている。

 その代わりに、魔力導管の色は徐々に変色している。

 蒼から赤へ。

 真っ赤に染まっていく。


 どうするべきか。


 放っておくと、ロンドンの街に魔力が弾かれる。

 街全体が、魔力導管から伝わった魔力で崩壊する。

 連鎖式の爆弾だ。


 無理やり紫の王冠コ・イ・ヌールを取るか。


 だめだ。

 これには、観測核を使った爆弾が繋がっている。

 取った瞬間に、大爆発を起こす。

 この地域一帯が吹き飛ぶ。

 ロンドンの政治と経済の中心が、すべてなくなる。

 さらに、魔力導管から爆発の余波がいく。


 あまり変わらない。

 被害を市民に向けるか、政治と経済に向けるか。


 紫の王冠コ・イ・ヌールを解除しながら、魔力導管を安定させていく。

 ロンドン全体か。

 同時に、爆弾を処理する。


 シャーロットは、軽く息をつく。


 唯一の利点は、先ほどアグラの秘宝で、街全体の魔力導管の流れを見ていたこと。


 よし。


 シャーロットは、違和感を覚える。


 簡単すぎる。


 そのシャーロットの考えは、少しおかしい。

 通常、同時にこんな処理などできない。


 そんな中でも、シャーロットの中に一つの思考が現れる。


 スモールの研究は、四つの署名。

 観測者の同時観測による魔法の使用。

 それにより、威力をさらに拡大することもできる。

 防御に回せば、時間を稼げる。


 なぜ、これを使用しないのか。


 スモールは、その使用者の一人のはず。

 しかし、彼は自ら死を選んだ。


 おかしい。

 ここまで準備しておいて、なぜ?


 この場所は、常に四頭の獅子が守護していた。


 では、いつ入れた。


 この場所に侵入するなど、王宮に入るくらい難しいはず。

 最強の盾がある。


 シャーロットですら、誰にも気づかれずに行うことはできない。

 たとえ侵入できたとしても、装置を付ける時間などない。


 全てが止まった世界でもなければ。


 あった。


 ベリルの冠のシステムが止まった時があった。

 あの時、ロンドン中のシステムがほぼ止まった。

 ここも止まったのか。


 まさか、あの事件は、ベリルの宝玉を盗むためではなく、システムを止めることが目的だった。


 たまたま?

 いや、あの時マリアは、こんな計画がうまくいくわけがないと言った。


 計画は、こっちが目的だった。

 システムを止めたのは、この装置を付けるためだった。


 では、なぜマリアは私の名前を言った?

 シャーロットが知れば調べる。

 わざわざ言う必要があるのだろうか。


 シャーロットに情報が行かなければ、ロンドンは火の海にできた。

 マリアは、計画者なのか。

 実行犯なのか。

 どちらの味方かが不明だ。


 マリアの所にあった絵。

 絵は、あらゆる人によって見方が変わる。

 四つの署名は、逆にあらゆる角度から観測することで、魔法を強化する。


 何かで強化している?

 人ではない。

 ここにいるのは、シャーロットとワトソンだけ。

 スモールはいない。


 無観測魔法。


 観測者がいない魔法。

 それは、魔法の一つの到達点である。


 魔法は、観測することで世界に現れる。

 観測者がいない魔法は、制御できなくなる。

 魔法の源、点の中の核が消滅することによる爆発により、無になるか。

 点が消え、静寂区になる。

 魔法が使えない世界が現れる。


 それが、ここにある。


 何かがおかしい。

 スモールの研究は、それとは真逆の研究だった。

 四つの署名による、多方面観測での魔法使用。


 シャーロットは、なぜか後ろにいるワトソンを見た。

 ワトソンも、シャーロットを見ている。


 ワトソンが見ている景色。

 シャーロットは、それを観測してみる。


 何かを見落としている。

 トラファルガー広場には何がある?


 柱と獅子。


 獅子は、このネルソン記念柱の守護者。

 今、守護をせず、沈黙している。


 獅子は、柱を見ている。


 四頭の獅子は、ネルソン記念柱を背にして、ロンドンを守護していたはず。


 それが今、獅子はネルソン記念柱に視線を向けている。


 シャーロットは、球を左手で固定しながら、右手で円を発動する。

 獅子の一頭を観測する。


 あなたは何を見ているの。


 獅子は、ネルソン記念柱を見ている。

 紫の王冠コ・イ・ヌールを見ている。


 彼らは、それを見ている。

 いや、守護している。


 紫の王冠コ・イ・ヌールが発動した瞬間、魔力導管に大量の魔力が流れ、ロンドン中が爆発する。

 その後に。

 さらに、その後に起きる魔法。


 無。


 破壊して、そして消滅させる。


 シャーロットは、円をさらに三つ発動する。

 獅子四頭を解析していく。

 アドラーの残したものにもそれはあった。


 ワトソンの心配そうな声が聞こえた気がした。


 待って、ワトソン。

 愚痴も文句も心配も、後で聞く。


 面倒なことをよく考えた装置だ。


 時間が少なくなっている。

 解析がまだ終わらない。

 むしろ、観測するものが増えている。


 今あるシステムを使い、自分たちに都合のいい計画へ作り変えている。


 人は、魔法も武器も使い方を間違えていく。

 正しい方向はわかっている。

 けれど、自分たちの目的や欲望に少しだけ負ける。

 それに多くの人が乗り、大きくずれていく。

 正しいと信じて。

 そして最後は、ぶつかり合うのだ。


 解析終了。


 後は、どう処理するか。


 ネルソン記念柱のシステムは壊せない。

 王冠コ・イ・ヌールを取り外し、爆弾を解体する。

 ネルソン記念柱のシステムを組み直す。

 ロンドン中の魔力導管の流れを整理する。

 さらに、四頭の獅子による多方面観測、四つの署名の魔法を解除する。


 同時だ。


 球。


 シャーロットは、観測度をさらに上げる。

 十五%。

 いや、二十%まで上げる。


 ネルソン記念柱。

 紫の王冠、コ・イ・ヌール。

 四頭の獅子。


 全てを飲み込む。


 先ほどアグラの秘宝で得た情報を、それに加える。


 さあ、消えて。


 消える。


 魔法が。


 無になる。


 そして、生まれる。


 システムが入れ替わる、その刹那。


 シャーロットは、


 世界は、

 こんなにも、

 鮮やか。


 ああ、そうか。

 人は、魔法を使うことはできないのだ。


 本質がわからず、表面だけ。

 上辺だけしか、世界を見ていない。


 だから、歪む。

 歪んだ人たちが、歪んだ魔法を使う。


 もしかしたら、魔法などない方が、いいのかもしれない。


 シャーロットは、ワトソンの顔を思い出す。


 ごめん。


 そんな心配そうな顔をしないで。


 私は、まだ、大丈夫。


 みんなの命を、私と一緒に消すことなんてしないわ。


 死ぬ時は、一人がいいわ。


 それがきっと……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ