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シャーロット 〜魔法の調べは、観測の果てにあり〜  作者: 桜の浜


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第十三章 四つの署名 (九)

「私を知っているのか?」


 シャーロットの質問に、男は答える。


 スモールは、東インド研究所元所長。


「ええ。なぜ、バーソロミュー氏を殺したのですか?」


 シャーロットは迷いなく本題を突く。


「そこまでわかっているのか」


 エセリンは、男と周囲への警戒を続ける。

 シャーロットの話だと、犯人は二人組と言っていた。

 ワトソンは小屋の玄関を開けたまま、こちらを注視している。

 いつでも男を狙える位置である。

 ステラは外に立ち、家の周りを警戒している。


「あれは事故だったのだ」


 スモールは一瞬、床を見て言う。

 木造の小屋。

 床の一部は黒く変色していた。


「事故? 毒を刺したのにですか?」


 シャーロットは視線を変えない。


「ああ。最初は情報を得るだけの予定だった。しかし」


「情報?」


「ああ。ある情報が入った真珠のことだ」


 きっと、メアリーに送った真珠のことだろう。


「バーソロミューにそれを尋ねると、彼はいきなり暴れ出した。だから」


 スモールは、今見てきたように話を続ける。


 シャーロットは、その答えに疑問を持つ。

 バーソロミューは暴れていない。

 むしろ、後ろから毒矢を刺されて、そのまま亡くなっている。


「それはおかしいですね。スモール所長」


「何がだ」


 スモールの声に、少し熱が入る。


「暴れている人間の後ろから、毒を刺したのにですか? そのお身体で」


 スモールは、杖を右腕に持っている。


「ああ、そうだ」


 バーソロミューは長身だ。

 杖を突いて歩いている人間が、立っている相手の首に毒を刺す。

 暴れている相手にだ。


 そんなことができるだろうか。


 エセリンも気づいたようで、周囲への警戒レベルを上げている。


「もう一人はどこにいますか?」


 シャーロットはさらに聞く。


「もう一人? 誰のことだ?」


 スモールは玄関に一度視線を向け、左手を右手の上に重ねた。


「現場の足跡は二人分ありました」


「は、は、ははは。そうか。すべてお見通しか」


「なら、隠す必要もないな」


「人が死ぬのは、あまり好きではない」


 好きではない。

 やりたくないではない。


 それは、目的のためなら行うという意味だ。


 スモールはいきなり立ち上がり、持っていた杖を半分にし、その半分を口に含んだ。


 ワトソンが、シャーロットの前に飛び出してくる。


 スモールが口にある杖から何かを飛ばした。

 吹き矢の音と、ワトソンの魔法障壁の音が重なり、狭い小屋の中に反響音が響いた。


「な、何だ、その障壁は。吹き矢を遮断だと」


 スモールが驚くのも無理はない。

 魔法障壁で防げるのは、魔法を使用した攻撃だけ。

 しかし、ワトソンの魔法障壁は通常のものではない。

 ある程度の物理攻撃も防ぐことができる。


 驚きの声を上げながらも、スモールは裏口に移動する。


「なるほど、興味深いが、今はその時ではない」


「まあ、お前たちともここでお別れだがな」


 窓側には、もう一つの扉がある。

 スモールは扉を開ける。

 桟橋につながっていた。


 俊敏な動きで桟橋を走る。


「何、あれ。足、悪くないのかよ」


 文句を言いながら、エセリンはすぐに追いかける。


「危ないわ」


 シャーロットの声とともに、ワトソンはエセリンの前に魔法障壁を作る。


 魔法障壁の前で、炎がぶつかった。


 ボートに乗っている男が、魔導銃を発射していた。


「な、魔導銃も効かないのか。素晴らしい」


 スモールはボートに乗り込み、そのまま発進した。


「ち、逃げられた」


 エセリンは、スモールたちが向かう方向を確認する。

 川沿いを歩いて追いかけるか。

 今から応援を呼んでも間に合わない。


 その時、川上からボートの音がする。


「待たせたな」


 レストレードが、ボートに乗ってやってきた。


「こんなの、いつ用意したの?」


 エセリンがレストレードに聞く。


「昨日、シャーロットに頼まれてな」


 レストレードは、桟橋にボートを固定しながら答える。


「川下へ逃げているわ」


 シャーロットの視線は、スモールのボートを追っている。


「ああ」


「これは四人乗りね」


 エセリンは、ボートを見ながら言う。


 エセリンの言葉の前に、すでにシャーロットとワトソンが乗っていた。

 しかも、ワトソンがボートの魔導機関を動かしていた。


 エセリンが乗った瞬間、最高速度でボートは走り始めた。

 いきなりの振動に、エセリンはレストレードの方に倒れ込む。


「大丈夫か?」


 レストレードがエセリンの肩を支えながら声をかける。


「ええ、ありがと」


 ただそれだけなのに、エセリンの心の中では喜びを隠せない。


 そんなエセリンの至福の時間は短かった。


「これ、どうするのかしら?」


 ワトソンが後ろで何か言っている。


「ちょっと何? わからないで動かしたの?」


「ええ。急いでいたから」


「もう、貸しなさい」


 エセリンが面倒そうにボートを操作する。

 文句の一つも、普段のエセリンなら言っている。

 しかし、さっきの借りがあるので、黙って操作していた。


 監視局のボートは、通常のボートよりも魔導基盤が違う。

 最高速度が違う。

 スモールたちとの距離が短くなる。


 レストレードは、魔導銃を手に用意する。

 ワトソンは、いつでも使えるように魔法障壁の準備をする。


 シャーロットは前方で、スモールたちの状況を確認する。


 犯人は二人。


 どこへ逃げるの。


 シャーロットは、ロンドンの地図を頭の中で広げる。

 タワーブリッジが、だんだんと大きくなってきていた。


「どこに向かっている?」


 レストレードは、魔導銃の状態を確認しながら、シャーロットに聞く。


「そうね。たぶん」


 シャーロットは、タワーブリッジを指差した。


「シャル、あいつは誰なの?」


「スモール。東インド研究所の元所長よ」


「東インド研究所?」


「ええ。“四つの署名”は、東インド研究所の研究の一つだった」


 シャーロットは、昨日レストレードから届いた資料の内容を思い出す。


「四人の観測者が同時に観測することで、新たな現象として魔法発動を起こす研究」


「当時、東インド研究所は岐路に立たされていたの。一つは、出資者である貴族たちの内紛。魔法省と同調し、共同研究しようとする者たちと、さらに独自に進み、研究所の地位を上げようとする者たちよ。特に、AMA――アメリカの研究機関が勢いを増していたのも大きいわね。まあ、あそこはほとんど国の機関みたいなものだけど」


「その時の所長がスモールよ。そしてスモールは独立を考えるの。貴族との関係も断ち、世界一の研究所にしようとしたのよ」


「それを危険視した貴族と魔法省は、外務調査局にある指令を出すのよ」


「それが、セポイの大乱」


「そう」


「予想以上にうまくいったのよ」


「でも、イギリス軍も引き上げたので、かなりの損失になったんじゃない?」


「それが、軍もインド駐留に莫大な予算がかかり、維持できないくらいの費用がかかっていたのよ。ちょうど議会で、駐留軍の予算削減の法案が通っていたのもあるしね」


「そこで、魔法省と東インド研究所に出資した貴族は、ある密約で話がまとまったのよ」


「もともと不満がたまっていたインド国内の反乱を使えば、すべて解決すると」


 シャーロットが話し終わる頃に、スモールのボートに近づいた。


 もう少しで追いつきそうになる直前。


 スモールのボートが、いきなり大破した。


「な?」


「どこから?」


 ワトソンは周囲を警戒する。

 エセリンは、ボートの出力を抑える。


 シャーロットは円を発動する。

 スモールたちを観測する。


「あれは?」


 人影?


 タワーブリッジ。


 二つの塔の西側の塔の上で、何かが光った。


「ワトソン、見える?」


 シャーロットは、塔を見ながら尋ねる。


「誰もいないわ」


「そう」


 レストレードは川に飛び込み、スモールのボートの残骸に近づいた。

 エセリンは周囲を確認しながら、監視局に連絡をする。


「いいから、応援よこして。テムズ川、タワーブリッジ周辺」


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