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シャーロット 〜魔法の調べは、観測の果てにあり〜  作者: 桜の浜


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第十三章 四つの署名 (五)

 ポンディチェリー・ロッジ。


 そこには、ある研究所がある。


 サディアスは言った。


 四人は馬車で目的地に向かった。

 場所は、サディアスの屋敷からさらに北に向かった先にあった。

 ショルトー大佐の情報を調査したところ、ある研究所とのつながりがあった。


 レストレードからの報告書によると、ここはかつて東インド会社が管轄していた研究所。

 今は魔法省に接収されている。

 活動記録はほぼない。


 しかし、現状を見る限り、この場所は研究所として動いている。

 研究所の周辺には、人が出入りし、管理している跡が見える。


「研究所ですか?」


 シャーロットが尋ねる。


「はい」


「管轄は誰が?」


「東インド研究所だ」


 でも、その機関はもう活動していないはず。


「六年前までは父が行っていました。その研究を引き継いでいるのが、私と兄だ」


 研究所の中は静かだった。


「今日は誰もいない」


 サディアスは言った。


 サディアスに連れられて、ある研究室に入る。


「今、兄を連れてくる」


 サディアスは研究室の奥に向かおうとする。


 そこで、シャーロットたちが見たのは、床に倒れている人影だった。

 研究室の中央で仰向けになっている、白衣を着た男性だ。

 ワトソンは急いで近づき、脈を取り、首を横に振る。


「死んでいるわ」


「な、な、兄さん」


 バソロミュー。

 サディアスの兄が、研究室で亡くなっている。


「シャル?」


 シャーロットは白い手袋をはめ、バソロミューの体を確認した。


 正面には傷跡がない。

 ワトソンが体を横にする。

 首の後ろに小さい斑点がある。


 自分で打ったのか。

 いや、違う。


 こんなところに、自分ではやらない。

 苦しんでいるが、暴れた形跡はない。

 ということは、致死性が高い。

 この毒は体内のみで活動するものだろう。

 そうでなければ、今頃みんな倒れている。


「これは事故ではないわ」


「どうして、こんなことに」


「今日は誰もいないとおっしゃられましたけど」


「ああ。今日は閉鎖していた」


 シャーロットは、バソロミューの周りを確認する。


 一人、二人の足跡らしきものが見える。

 小柄な女性か、男性か。

 歩幅が狭く独特だ。

 もう一人は、足が悪いのか。

 いや、杖を突いている。


 バソロミューの近くに、封筒が落ちていた。


「開けてもよろしいですか?」


「ああ」


『四つの署名』


 書かれていたのは、それだけだった。


「わかりますか?」


「ああ、まさか、そんな」


 サディアスは、恐怖に驚いていた。


 その時、離れた場所から音がした。


「ここには誰もいないと言いましたよね」


「ワトソン」


 ワトソンは、音の方へ駆け出した。


「今、監視局を呼びます。二人はここで待機してください」


 シャーロットは、研究所の通信機を使った。


 よかった。

 通じる。


 通信やシステムは作動している。

 破壊が目的でもない。

 見る限り、研究資料にも手を出していないように見える。

 殺害が目的だろうか。


 しかし、普段は研究室には人の出入りが多いはず。

 まるで、今日誰もいないことを知っていたかのようだ。


 魔法省監視局に連絡をし、繋がったのはステラだった。


「すぐに向かいます。危険ならば避難してください」


 シャーロットは、犯人は逃走中であり、数分前の出来事だろうと伝えた。


「“四つの署名”とはなんですか?」


 シャーロットは、サディアスに聞く。


「父が死ぬ間際、同じ手紙が来ました。そして私たちに言いました。“四つの署名”から守れと」


「どういう意味ですか?」


「わかりません。ただ、東インド研究所の破綻は、“四つの署名”により実行されたと」


「東インド研究所ですか」


 シャーロットは質問を変える。


「ここの運転資金は誰が?」


「軍と東インド研究所だ」


「東インド研究所は解体されたはずでは?」


「表向きは。しかし、創設した貴族たちがその運営を引き継いでいる」


「ここや、メアリーが働いていたブナ屋敷などですね」


「そして、軍もまだつながりが深い」


「軍と東インド研究所が合同研究? 魔法省は蚊帳の外?」


「いや、魔法省も知っている。正確には外務調査局だが、彼らは東インド研究所の創設者である貴族と手を組んだ」


 東インド研究所の創設には、二十四人の貴族が絡んでいる。

 魔法省の権力拡大に対抗するために、貴族は一つの研究所を作った。

 しかし、国内での研究には規制がかかる。

 そのため、国外の占領地を利用した。


 国内と違い、規制の少ない国外の人と資源を利用することで、東インド研究所と貴族は莫大な利益と権力を得る。


 そして、魔法省と東インド研究所との対立は激化していく。

 しかし、それはセポイの大乱により終わった。


「インドでの実験は、大きな成功を収めた。しかし、ここで問題が生じた」


「大乱のことですか?」


「いや、その前からだ」


「一つは、東インド研究所の権力争いだ。二十四人の貴族が大きく二つの派閥に分かれた。そのせいで、指示系統が破綻した。さらに問題が起きた。オーストラリアの事故だ」


 オーストラリアの魔法汚染事故。


「この事故のせいで、インドで変な噂が流れた」


「インドでも同じ実験をしていると。そのせいで、インドで暴動が起きた。もともとたまっていた不満が、不安によってさらに大きくなった」


「そして、実際に事故が起きた。いや、正確には、事故を起こした」


 レストレードが言っていたことは、このことだ。

 先月のロンドンインフラ事故と同じ状況。


 市民の暴動をインフラ事故で煽り、目的の方向に力を向ける。

 そうすると、簡単に人は流れる。


 怒りとはエネルギーになる。

 しかし、その分、短絡的な発想が増える。

 思考が止まるのだ。


 思考しない分、爆発的な力となり、対象にぶつけることができる。

 そして、それはとても分かりやすい。

 分かりやすい敵を作ることで、人はそこに向かい始める。


「彼らは、魔法事故を起こした」


「誰が?」


「魔法省だ」


「魔法省?」


 東インド研究所の事故は、観測核の暴走と報告書にあった。


 アグラの秘宝はもともと、魔力導管を使用して有線で繋げるシステムだった。

 しかし、魔力導管はベリルの宝玉でも使用している。

 ここで、二つのシステムが干渉するという問題が発生した。


 現在使用している魔力導管を利用することで、コストの削減ができる。

 それが大きな利点の一つだったのだが、このままでは使用できない。


 別の魔力導管をロンドン中に埋め込むには、国家予算並みの費用が掛かり、現実的ではなかった。


 そこで、アグラの秘宝の根本的な変更に四人の研究者が対応した。

 画期的なことだった。


 もともと見えないものならば、空中にその場所を作ればいい。

 “霧”と呼ばれたその存在を作り上げた。


 そして、もう一つ重要な研究結果が世界中を騒がせた。

 それが、アグラの秘宝の研究につながった。


 観測核には、二つの力がある。


 一つは、情報を得る。

 光。


 もう一つは、エネルギーを発散させる。

 波。


 観測核は、この二つを同時に使用している。


 この研究が、ある研究所で実証された。

 当時は誰も理解できなかったこの研究は、ある一つの実験で確証された。

 それが、十年前にオーストラリアで起きた魔法災害事故である。


 研究所が、いや、街が崩壊し、多数の死傷者が出たこの事故を、多くの国が隠蔽しようとした。


 その理論を、東インド研究所の研究者が利用した。

 軍事目的ではなく、情報というもののために。


 観測核に別のエネルギーをぶつけると、莫大なエネルギーに変わる。

 では、もともと観測核が持っている情報を、他へ移動させる方法はどうするのか。


 “波”には、負荷がかからない。

 必要なのは、観測核の濃度が濃い場所を作ること。

 あとは勝手に引き寄せられる。


 観測核同士は引き寄せられる。

 そこへ、ある方向に力を与えると――。


「魔法省外務調査局は、これ以上の東インド研究所と軍の拡大を止めたかった。彼らは、国外での活動の邪魔になると考え始めた」


「そして、ある取引をした。東インド研究所の解体と、二十四人の貴族の大議会での役職。そして国内で、魔法省が手を出さない研究所を設立すること」


 ボヘミア卿。


 シャーロットは、ある貴族の行動を思い出す。

 魔法省との関わりが深く、私的な研究所を持ち、また多くの資金を投資している。

 魔法省がある程度の問題を揉み消しているのは、このためなのだろう。


「そして、彼らは新たな組織を作る予定だった」


「組織?」


「そのための研究だ」


「アグラの秘宝には、次のステージがある」


「それは観測の拡張」


 サディアスは言う。


「観測の拡張」


 シャーロットは、研究資料を頭の中から引っ張ってくる。


 魔法の核である。

 観測核である核の研究には、二つある。


 一つは、核をさらに深く掘ること。

 それにより、観測核から過去の情報を取ることができる。

 未来の予想にも使用できる研究。


 そしてもう一つは、観測核を拡張することで世界を広げることができる研究だ。


 これは、ある問題を生じる。

 人にも干渉するのだ。

 世界だけではなく、人の内側も飲み込んでいく。

 人と人を繋げてしまう。


「それは、成功したのですか?」


「半分」


「半分?」


「その結果を、軍は魔法省に渡したくなかった。だから表向き、東インド研究所を魔法省に渡した。研究結果も」


「アグラの秘宝は、カモフラージュということですか?」


「ああ。本当の研究は、まだ続いている」


「それは?」


「世界中の人の情報すべてを集めることです」


 そんなことをすれば、世界は監視社会になる。

 しかも誰も知らない間に、情報だけを集められる。


 いや、危ない情報を先んじて手に入れられる利点もある。

 ただ、人の感情はそれを許さないだろう。


「魔法省は知っているのですか?」


「魔法省、いや少なくとも、外務調査局は知っているはずです」


 外務調査局。


 オレンジの種の時といい、行動に迷いがない。

 まるで、あいつのようだ。


 シャーロットは、嫌な奴の顔を思い出す。


「送った真珠には、その資料が入っているのです」


 ワトソンから連絡が入る。


 シャーロットとワトソンは、このロンドンであれば、距離が遠くない限り、アグラの秘宝のシステムを使用しなくても連絡が取れる。


「シャル。テムズ川に向かっているようね」


「わかったわ。私も今行く」


「二人はここで待機してください」


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