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シャーロット 〜魔法の調べは、観測の果てにあり〜  作者: 桜の浜


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第十三章 四つの署名 (四)

 シャーロットはレストレードと別れ、寮塔の自室に戻ってきた。


 ちょうどその時、ステラから連絡が来ていた。


 内容は――。


 機密事項が多すぎるため、調べるのに時間がかかります。

 経歴だけ送ります。


 アーサー・モースタン。

 メアリーの父であり、イギリス軍インド駐在の大尉。

 所属は、東インド研究所の警備担当。


 東インド研究所は、インドの治安維持で駐留していたイギリス軍に警備の依頼をしていた。

 通常、いくら他国とはいえ、国が直接運営していない研究所の警備などしない。

 しかし、東インド研究所は軍に多額の資金を流していた。

 そして軍と東インド研究所は共同研究を始めた。

 このインドの地で。


 アーサーは、その研究所でイギリス軍の警備担当として勤務していた。

 経歴を見る限り、大きな問題や事件は起こしていない。


 その当時、東インド研究所と軍の関係は強かった。

 そして、その研究所の警備担当とは、ある種の出世コースであった。

 当時はかなりの収入があったのだろう。

 それは、軍だけではないところからの支援があったためだ。


 しかし、十年前の事故後の報告書がほぼない。

 消失という極めて特殊な状態なのにだ。

 まるで調査自体をしていないか、秘密にしているかのようだ。


 一番の問題は、その当時の東インド研究所の研究内容すらも残っていないことだ。

 もともと秘密主義の研究が多いため、表にあまり出ていない。

 さらに、事故後の隠蔽が強かったのだろう。


 アーサーと当時一緒に勤務していた軍の関係者を調べるよう、レストレードに追加の依頼をかけることにする。


 メアリーは母親を早くに亡くしているので、父と二人暮らしだった。

 メアリーが言っていた通り、魔導学園にも通っていた経歴があった。

 卒業後は、ある屋敷で住み込みで働いていた。


 その場所が特殊な場所だった。


 ブナ屋敷。

 コッパー・ビーチズ研究所。


 ベリルの宝玉を用いて、魔法観測理論の中でも危険領域の研究である立方体の実験を行い、そして事故を起こした場所。

 そこに、メアリーは住み込みで働いていた。

 事故が起こる三か月前まで。


 メアリーの魔導学園での研究内容は、言語魔法による魔法観測制限論。


 魔法観測制限論。


 魔法の観測を言葉で縛ることにより、どの使用者でも均一な魔法の発動を行う理論。

 かつて、アドラー准教授が行っていた理論に近いものだった。

 もしかしたら、二人は関係があるのかもしれない。


 そうすると、どうしても。


 あの女性の影がちらつく。

 赤い、深紅のドレスを着た彼女が。


 意識を戻し、メアリーから預かった真珠を再確認する。


 六色の真珠。

 魔法の波動を感じる。


 シャーロットは、真珠の一つを机の上の容器に移した。

 椅子に座り直す。

 円を発動し、真珠の観測核を確認する。


 真珠の観測核の中にあったのは、記録だった。


 通常、魔道具に使用する宝玉には、“魔法が働くシステム”が入っている。

 そうすることで、魔法を使用できない者も、魔道具を使用することで魔法を使用できる。

 これは生活インフラだけではなく、武器としても同じ仕様だ。


 しかし、これにはそれがない。

 あるのは記録である。


 研究内容?

 日記?

 数式?


 情報だけがある。


 もう少し深く入らないと、まだ確定できない。

 そう考えていると、部屋の扉が開いた。


 ノックなしで入ってくるのは、ワトソンくらいだ。


「ただいま」


 ワトソンは、予定より帰りが遅くなった。


 シャーロットには説明していないが、報告業務が監視局だけではなく、前回の事件の件もあり、魔力管理局も関わっているのでさらに面倒になっている。

 レストレードとステラがいなかったので、報告が少し手間取ってしまった。

 魔力管理局の担当とはだいぶ打ち解けてきているが、それでもお役所である。

 きっとシャーロットなら、面倒だからやらないと言うに決まっている。


 帰りに最近人気のドーナツを買って帰ったので、さらに遅くなった。

 シャーロットは、お昼も食べていないだろう。


「おかえり、ワトソン」


 シャーロットの感じがいつもと違う。


 もしかして、また“球”を行っていたのだろうか?


 ワトソンは少し怪訝そうな顔をした。


「どうしたの?」


「ええ。これから依頼で外出するわ」


「外出? どこに?」


「迎えに来るわ。もうそろそろ」


「そう」


 そう言いながらも、ワトソンはシャーロットに出来立てのドーナツを渡した。


「おいしいわね、これ。いつもと違う」


「なるほど。チョコをコーティングして、その中にナッツを混ぜ込んでいるのね」


 シャーロットは、言われなければ食べないほど食に興味が薄い。

 だからこそ、ワトソンは定期的においしいものの情報を仕入れ、買ってくる。

 決して自分が食べたいのではない、と言い聞かせながら。


 ワトソンは、シャーロットが放置していた作業着などをクローゼットにしまいながら尋ねる。


「どこか行っていたの?」


「ええ、レストレードと」


「依頼?」


「マリアの居場所が分かった」


 マリア。


 その名前を聞いて、ワトソンは嫌な記憶を思い出す。

 あの女のせいで、シャーロットは危険な研究に手を出し、ワトソン自身も命の危険にさらされた。


「大丈夫なの?」


 前回の事件があるので、少し心配になる。


「ええ、たぶんね」


 たぶん。


 シャーロットにしては、珍しく曖昧だ。

 シャーロットは曖昧な答えが好きではない。

 そういう場合は、あえて何も言わないはずである。

 マリアという存在が、その答え方にさせたのだろう。


 気づくと、十九時になっていた。


 外は暗く、魔力灯の明かりはあるが、霧でぼやけて見えていた。

 馬車が来る時間だ。


「行くわよ、ワトソン」


「ええ」


 ワトソンは立ち上がり、シャーロットの身だしなみを整える。


 学園前の校門に馬車が停まっていた。

 馬車に乗ると、メアリーが座っていた。


「メアリー?」


「ワトソン、やっと会えたわ」


 ワトソンは意外な人物に少し驚いていた。

 それとは対照的に、メアリーはとても笑顔だった。


「ええ、元気そうね」


 そう言うと、メアリーはワトソンに抱き着いた。


「わ」


 ワトソンは少し驚いていた。


「二人は仲がいいのね」


 シャーロットは、二人の関係を見てつぶやいた。


 それに対する二人の感想は違った。


「そうかしら?」


 ワトソン。


「ええ。そうなの」


 メアリーが言った。


 馬車の中では、なぜか静かだった。


 シャーロットは、馬車の中からロンドンの街並みを確認する。

 地図の上をなぞるように、上空から場所を頭の中で作り出す。

 頭の中ではロンドンの霧がないので、はっきりと見える。

 どこへ向かっているのか。

 そして、どこを通るのか。


 馬車はしばらく走り、やっと目的地に着いた。

 郊外の古びた屋敷だった。


 三人は馬車を降り、屋敷のドアを叩いた。


 現れたのは中年の男性。

 身なりはきちんとしている。


「はじめまして。私はサディアス・ショルトーだ」


「メアリーだね」


「えっと、そちらは」


 サディアスは、シャーロットたちを見る。


「シャーロットと申します」


 シャーロットは言う。


「そうか、君が」


 サディアスは、まるでシャーロットが来ることを知っていたようだ。

 シャーロットは、その答えが少し気になる。


「私を知っていらっしゃるのですか?」


「ええ。あなたはこの界隈ではかなり有名ですよ。この前の事故の件もありましたので、我々も助かりました」


 この前の事故。

 ロンドンのインフラ事故。

 そう言われている。

 しかし、シャーロットが関わっていることは、一部の魔法省の人間しか知らないはず。


 シャーロットはそれ以上、尋ねなかった。

 本題は自分のことではないからだ。


 そして、そのまま奥の間へと通された。


 応接室に座ると、お茶が用意された。

 メアリーが持ってきたお茶に似ている香りがした。


 サディアスは、お茶を一口飲む。


「メアリー嬢。私の父は、君の父と同じ所属だった」


「ショルトー大佐。それが父の役職だ」


「父は、十年前に港で君に会ったと言っていた。本当はそこで話をする予定だったのだが、君のお父上が失踪したため、口をつぐんだ」


「それは、ある秘密があったからだ」


「秘密?」


 メアリーは尋ねる。


「そう。アグラの秘宝だ」


 アグラの秘宝。


 東インド研究所の名と権力を伸ばした研究成果。

 それが、アグラの秘宝と呼ばれるものだった。


 この街ロンドンは、魔法省の魔導システムのインフラが生活の基盤になっている。

 その基礎は、ベリルの王冠のシステム、そして街中に張り巡らされた魔力導管によってできている。

 水道や光熱、さらに街灯にいたるまで、生活に欠かせないものは、そのベリルの王冠の魔法システムによって支えられている。

 これが、ロンドンを世界的な魔法都市として確固たるものにしている。


 しかし、それとは違うもう一つのシステムがある。


 それは、情報である。


 街のすべての情報は、点の中の観測核に記憶される。

 その記憶を別の世界に閉じ込め、そこから情報を受け取る。


 通信と情報の要。

 それが、アグラの秘宝を使ったシステムである。

 その根幹のシステムを作ったのが、東インド研究所だった。


 そして、東インド研究所が魔法省の一機関になった時、アグラの秘宝のシステムも魔法省に移管された。


「アグラの秘宝。今や、このロンドンの情報通信インフラの要になっている」


「それには、重大な欠陥があった」


「父はそれを知り、情報を流そうとしたあなたの父と共に動こうとした」


「しかし父は六年前に亡くなり、あなたの父もすでに失踪していた」


 レストレードからの資料にも、ショルトー大佐が六年前に亡くなっていたと記載があった。

 病死。

 特別不可解なことは、資料にはなかった。


 メアリーは黙って聞いていた。


「そして六年前、我々は真珠をあなたに贈った」


「この真珠はなんですか?」


「これは、インドの東インド研究所の研究で作られたものです。君のお父上が大事にしていたものを活用して」


 メアリーは、持ってきた真珠を見つめる。


「その真珠には、アグラの秘宝の情報が入っている」


「情報が真珠に?」


 シャーロットは尋ねる。

 先ほど真珠を円で観測して見えたものは、その情報なのか。


「そうだ」


「アグラの秘宝のシステムは、観測核に読み込ませた情報を集め、それを一か所に集約するものです。そして情報を取り出すことは、そのシステムを使用しないと不可能なはず」


「しかし、この真珠により、情報を持ち出すことが可能になった」


「そんなことをすれば」


「そう。機密情報を抜くことができる」


「東インド研究所と軍は、それを隠蔽しようとした」


「そして信じられないことに、その後あの事故が発生した」


 セポイの大乱。


 イギリス軍が、インドの管轄を撤収することになった事件。

 発端は、東インド研究所の事故とインド国内の民衆の不満が重なったこと。


「私の父は、インドからの撤収時のけがが元で退役しました」


「そしてロンドンに戻った時、情報を魔法省に流そうとした。しかし父は、受け取ってしまったのです」


「何をですか?」


 メアリーは聞く。


「お金です。けがで退役した父の医療費と生活費。それだけでは足りないくらいの金額を。そして……」


「口止め料ですか」


「はい」


「父が亡くなる一か月前に、私と兄は知りました」


「そこで父は言ったのです。どこかにまだいる大尉なら、きっと真実を公表するはずだと。死が近づいてきて、後悔していたのかもしれません。そして、あなたを偶然見かけたのです」


「どこでですか?」


「コッパー・ビーチズ研究所。ブナ屋敷とも呼ばれる、貴族の研究施設だよ」


 レストレードの資料通り、彼女――メアリーは、そこでつい最近まで働いていた。


「はい。三か月前まで働いていました」


「どうして、そこで」


 メアリーは尋ねる。


「父は、ある研究の手助けをしていました。それと、あなたが勤めていた研究所は相互研究を行っていました。そこで、あなたを見かけたそうです」


「父はあなたを調べました」


「メアリー。あなたの現状と、大尉がまだ行方不明であることも。自分だけお金を受け取ってしまったと。もし大尉がおられれば、どうしていただろう、と」


「大尉がもし帰って来られれば、きっとこの真珠の意味も分かると」


「それで、私の誕生日の日に送っていたのですね」


「はい。それが遺言でした。しかし、六年経ちました。このままではいけないと、すべてを話そうと。そしてもう一つが、ある場所に案内することです」


「では、行きましょうか」


 サディアスは言った。


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