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シャーロット 〜魔法の調べは、観測の果てにあり〜  作者: 桜の浜


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第十七章 株式仲買店員 (八)

 トビアスと別れたあと、シャーロットはいつものカフェにいた。


「どうした?」


「どうもしないわ」


 レストレードの問いかけに対して、シャーロットはそっけなく言う。


 レストレードにはホールの件で、ウェストブリッジ社とモーソン商会、そしてアーサーのことをさらに詳しく調べてもらっていた。


「この前の事件のことを調べているのか?」


「就職活動よ」


「お前、働くのか?」


 ウェストブリッジ社のことをまだ調べているのかと思っていたレストレードは、シャーロットの答えに驚いた。


 レストレードから見ても、シャーロットに普通の仕事は無理だと感じている。


「私じゃないわよ」


「依頼人か?」


「ええ、まあ。知り合いよ」


 珍しい言い方だな、とレストレードはコーヒーを飲みながら思う。


「これが、まとめた資料だ」


 この前は、要点だけを聞いていた。

 シャーロットは、より細かい情報をレストレードに頼んでいた。


 監視局の監査官としての仕事は忙しい。

 大きな事件から小さな事件まで、多種多様である。

 その中には、魔法が絡む事件もある。


 レストレードは、事件を解決するためにシャーロットの能力を頼ることがある。

 その対価として、シャーロットの相談事も、できる限り手伝うことにしている。


 機密情報の漏洩につながる可能性は高い。

 だが、シャーロットがすでに知っている情報の中には、それ以上に危険なものもある。

 それを他言していないというだけでも、レストレードは彼女を信頼していた。


 レストレードからもらった資料を、シャーロットは無言で読んでいた。


 ウェストブリッジ社については、トビアスが言った通り、かなり綿密に調べられているようだ。

 アーサーが働いている記録もあった。


 アーサー個人の情報は、あまりなかった。

 犯罪歴のない一般市民の情報など、そう多くないのは当然だ。


 ただ、あまりにも何もない。

 まるで、書類の上にしか存在しない人物のようだった。


 わかったことは、アーサーが王立学園に在籍していたこと。

 その後、ウェストブリッジ社に入社したこと。

 そして現在は、魔導学園の助手として働いていること。


 知っている情報だ。


 次に、モーソン商会。


 ロンドンでも老舗の株取引会社。

 王宮や貴族との取引が中心であり、仕事内容に特別な何かがあるわけではない。


 ただ、トビアスとの話の中に出てきた東インド研究所に出資していた。


 しかも、かなり中心的な役割を担っていたようだ。


 東インド研究所は、インドの大乱で閉鎖された。

 その時に莫大な負債を抱えている。


 立て直すために、様々な利権を売り渡していた。


 その売却先の中に、ウェストブリッジ社の名があった。


 ウェストブリッジ社は、かなり前から存在していた。


 いや。


 モーソン商会から利権を譲り受けるために作られた会社なのかもしれない。


「何かわかったか?」


 レストレードは、少しだけ楽しそうな口調で聞いてきた。


「ええ。モーソン商会は、東インド研究所の研究内容を実質的に管理していたのね」


「そうだ。東インド研究所で生まれた研究成果は、モーソン商会を通して魔法省や軍、企業に販売されていた」


 東インド研究所が一時期、莫大な利益を得ていたのはそのためか。


 しかし、それは失敗に終わった。


「東インド研究所が、また関わっているのか?」


「まだ、何とも言えないわ。でも、その研究内容は軍と外務調査局が徴収したのよね」


「ああ、そのはずだ」


 東インド研究所の情報は、機密扱いのものが多く、あまり残っていない。


 あれだけの研究内容を、軍と外務調査局がすべて回収できたとは思えない。


 必ず、情報をまとめ、保存している場所があったはず。


 たぶん、それがモーソン商会。


 その研究内容の一部が、ウェストブリッジ社に渡った可能性がある。


 考えすぎだろうか。


 ただ、シャーロットは最近起きている事件について、一つ気になっていた。


 大きな組織が絡む事件が多い。


 組織が起こした事件の被害が個人に及び、その被害者や関係者が、また新たな事件を起こしている。


 本来、国と人を守るための魔法省ですら、人々の生活を妨げることがある。


 完璧な世界など存在しない。


 魔法社会になり、人々の生活水準は上がったはずだ。

 それなのに、人々は必ずしも幸福に向かってはいない。


 導く者が間違えているのか。


 それとも、魔法がまだすべてを包み込めていないだけなのかもしれない。


 思考が飛躍しすぎているな。


 そう考え、シャーロットは思考を現実に戻す。


「ボヘミア卿だが、最近、大議会にある法案を出している」


 レストレードは、何かを思い出したかのように話し始めた。


「どんな法案?」


 シャーロットは、書類からレストレードへ視線を向ける。


 レストレードは、ちょうどカップをテーブルに置くところだった。


「一部地域での魔法使用制限区域の設立だ」


「魔法使用制限?」


「ああ、そうだ。議会でも通りそうだ」


「そして、その地区は、あのショッピングモールだ」


 魔法の個人使用は、基本的に禁止されている。

 研究や実験などは、許可された場所であれば問題ない。


 わざわざ、そんな法律を作る意味などない。


「捜査に影響はあるの?」


「いや、ない。監視局の捜査は、その制限の対象にはならない」


「そう」


 ボヘミア卿か。


 ボヘミア卿は、最近その影響力を大きく伸ばしている。


 魔導学園。

 魔法省。

 大議会。

 王宮。

 そして、ショッピングモール建設。


 彼の事業の周囲では、何かしらの事件が起きている。


 偶然。


 ただ、結果的にはボヘミア卿の利益になっている。


 シャーロットは、少しだけ思う。


 ホールは、ボヘミア卿の近くにいない方がいい。

 たとえ、待遇が良くても。

 きっと、彼にとっては良くない。

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