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シャーロット 〜魔法の調べは、観測の果てにあり〜  作者: 桜の浜


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第十七章 株式仲買店員 (七)

 シャーロットは、久しぶりにショッピングモールに来た。

 平日なのに、人が多い。

 思った以上に混雑している。


 あんな事件があったのだが、誰もそんなことは覚えていない。


 ショッピングモールには、二つの顔がある。

 名前の通り、買い物を中心とする場所。

 そして、企業の事務所や研究施設が集まる場所。


 大手企業だけではなく、新鋭の企業も多数ある。

 その区画の一角に、シャーロットはいた。


「何をしている?」


 聞いたことのある声が、シャーロットの背後から聞こえた。


「買い物よ」


「こんな、何もないところでか?」


「ええ」


 声をかけてきたのは、魔法省監視局監査官のトビアスだった。

 この前の指環事件で、シャーロットは少しだけ関わりを持った。


「今度は何を調べている?」


 トビアスの声は、前よりも優しげに聞こえた。


「ちょっとね」


 シャーロットは、もう一度ここを観てみたかった。

 そして、この場所にあるものを。


「ああ、ここか。それは面倒だな」


 建物は、ウェストブリッジ社の近くだった。


「知っているの?」


「ああ、もちろんだ」


「どうだ。そこで話すのは」


 トビアスは、シャーロットを近くのカフェに誘った。


 店員に飲み物を頼んだトビアスは、席に座っているシャーロットを見る。


 銀髪のショートボブ、灰青色の瞳。

 血が通っていないような白い肌。


 きちんと食べているのだろうか、と少し心配になる。


 少女の瞳が、周囲を一度観察する。


「どうして、あの会社が気になった?」


 シャーロットに回りくどいことを言っても意味がない。

 直接聞く方が話は早い。


 あの会社とは、ウェストブリッジ社。

 ショッピングモールを建設する際にボヘミア卿が出資し、この区画の整備、経営の中心となった会社だ。


 表向き、怪しいところはない。

 大きな事業を行う際に、中心となる会社は必要だ。


 指輪爆破事件での、この一帯の捜査は一応終わっていた。


 犯人は死亡。

 動機は復讐。


 しかし、その復讐を利用して、ある計画が実行されていた。


 一つは、新しく作られたショッピングモールの治安維持のため。

 もう一つは、第三王子の健康回復のための魔法利用。


 様々な立場が絡み、混ざり合った事件だった。


 ボヘミア卿が出資し、このエリアを統括するために作られた会社でもあるため、監視局でも調べていた


「知り合いが、その会社に勤めることになったのよ」


 シャーロットは、そっけなく言った。


 知り合い。

 依頼主だろうか。


 しかし、この会社に勤めるのか。

 決して悪いわけではない。

 むしろ待遇などを考えると、良いだろう。


 裏側を知らなければ。


「まずい会社ではないだろう」


「ええ、表面上は」


 知っているのか?

 どこまで気づいている。


 トビアスは、店員が持ってきたお茶を一口飲む。


「何か気になるのか?」


「この会社、この地域の犯罪を制御していない?」


 トビアスは、飲んでいたお茶を吐き出しそうになる。


「ごほっ、な……」


 シャーロットは、おいしそうに紅茶を飲んでいる。


「そう。やっぱり」


 カマをかけられた。


 こんな小娘に――いや、姿形だけで見てはいけないと知っていた。

 それなのに、侮っていた。


「どうしてそう思う?」


「指輪爆弾事件の時に、少しね。表向きは何もない。でも、被害者の選定、後始末、監視局への対応。綺麗にできすぎているわ。まるで、自分たちの計画通りに動いている。犯罪を制御しようとしていると考えるのが自然ね」


「そうだ。監視局でも、そう考え始めている」


「しかし、王族、ボヘミア卿、さらに外務調査局が絡んでいる」


「だから手が出せず、放置しているの?」


「いや、捜査している。だが、今のままだと下っ端しか捕まえられない」


 真実ではない。


 捜査は行き詰まっていた。

 下っ端を捕まえて尋問したが、すぐに弁護士が現れ、釈放された。

 その後、下っ端は行方不明になった。


 完璧に管理されている。


 いつから、そんなものができていたのだろう。


「ウェストブリッジ社は、危険なのね」


 トビアスは答えられない。


 表向きは普通の会社だ。

 裏側はわからない。


「正面から乗り込むのは、やめた方がいい」


 トビアスができる忠告は、それだけだった。


 シャーロットの視線は、まだウェストブリッジ社に向けられていた。


 シャーロットは紅茶を飲み終えたあと、立ち上がった。


 急激に発展したこの地域では、周辺の土地の価格も上がり、今まで住んでいた人たちが立ち退いている。

 最新式の魔力導管が使われることで、この区画の税金も跳ね上がった。


 元々は、ロンドンの発展から取り残された場所。

 貧困層が集まっていた。


 そのため、土地の価格も安く、開発しやすかったはずだ。


 開発が進む中で、魔力導管などのインフラも最新式へと変更された。


 住民は、最初は喜んでいた。

 しかし、時が経つにつれ、税金が跳ね上がった。


 住民たちに、それを払い続ける余裕などない。

 立ち退くことで、いくばくかの金を受け取り、土地を離れていった。


 そして、空いた区画で新たな事業が始まる。


 いつの間にか、その土地はロンドンでも有数の価格になっていた。


 うまくやったのだろう。


 シャーロットは、この場所に人工的な空気を感じる。


 王族が住まう王宮エリア。

 都市機能の中心部である官庁街。

 そして、産業の中心部となったこの場所。


 この場所は、ロンドンという都市の発展に必要不可欠になっている。


 さらに、一つだけ気になる点がある。


 魔導学園との共同研究施設がない。


 あるのは、すべて王立学園との共同研究施設だ。


 ボヘミア卿は、魔導学園の理事である。

 それなのに、だ。


 王宮と王立学園の関係は深い。


 だが、この街が魔法都市となってからは、魔導学園と王宮の関係も強くなった。

 王立学園では、魔法の研究が遅れていたからだ。


 地位や名誉を重んじた結果だ。


 才能と自由を重視した魔導学園の研究は、ロンドンに、そして世界に魔法をもたらしていた。


 この地域には、新たな魔法設備が組み込まれている。


 なぜ、魔導学園は蚊帳の外に置かれているのか。


 シャーロットが調べた限りでは、ほとんどの魔法研究や魔法設備について、王立学園と民間の研究施設が提携していた。


 シャーロットは、別に魔導学園が魔法研究のすべてを担うべきだとは考えていない。


 研究は、様々なところで行うべきである。

 そして、その研究内容は、できるだけ開かれたものであることが大事だ。


 それが、さらなる魔法の発展につながる。


 シャーロットは研究室を練り歩き、研究内容を確認したあとは、その研究について自分なりの意見や、今後の対応策などを伝えている。


 そのことが自分の実績にならなくても、シャーロットは構わない。

 より新しい魔法に逢える喜びの方が大きいのだ。


 皆が同じ考えを持っていないことも理解している。


 自分の研究成果による実績や利権。

 企業ならば、それによって得られる利益も大事だろう。


 ただ、それが魔法社会の未来に何をもたらすのかは、また別のことだ。


「モーソン商会は、どう?」


 トビアスは、意外な名前を聞いて少し驚く。

 捜査の中では、まったく関与していない。

 老舗の会社だからだ。


「いや、何もないな」


「そう」


 トビアスの反応から、何かを隠しているわけではないだろうと、シャーロットは考える。


「モーソン商会は、確か株取引が中心の会社だな。そういえば、昔、東インド研究所にかなりの出資をしていたはずだ」


 東インド研究所か。

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