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シャーロット 〜魔法の調べは、観測の果てにあり〜  作者: 桜の浜


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第十七章 株式仲買店員 (六)

シャーロットは部屋の前で止まり、軽く扉を叩く。

そこは寮長室だ。

返事がした瞬間には、もう扉を開けていた。


「どうしたのです、シャーロット?」


中には、ハドソン寮長がいた。


「少し、部屋を借ります」


シャーロットはそう言うと、部屋に入り、ソファに腰を掛ける。

ハドソンは、少し困った顔をヴァイオレットとホールに見せた。


「しょうがないわね。少しだけよ」


そう言うと、隣の部屋に消えていった。


ヴァイオレットは前から思っていたが、ハドソン寮長はシャーロットに少し甘い気がする。


ヴァイオレットとホールは、テーブルを挟んでシャーロットの正面に座る。


シャーロットは、何かを待っているようだった。

ハドソンが隣の部屋から出てきた。

トレイには、紅茶が用意されている。


「はい、どうぞ」


まるでシャーロットの家の給仕のように、ハドソンはお茶を置いていなくなった。


その紅茶を一口飲み、シャーロットは二人を見る。

ヴァイオレットは、まだ訳がわからず、すぐには紅茶に手をつけられなかった。

隣にいるホールも同じ状態だ。


そんなホールが、意を決したように言う。


「シャーロット。ハリー・ピナーとは誰なんだ?」


「ハリーは、アーサーの兄よ」


「それが何か関係あるのかい?」


「ちょっと待って。私にもわかるように説明して」


ヴァイオレットは、二人の会話を止める。


「わかったわ」


シャーロットは、もう一口紅茶を飲む。

ヴァイオレットとホールも、それを見て紅茶を飲む。


少しだけ、時間がゆっくりと進んだ気がした。


二人の様子を見て、シャーロットはゆっくりと話し始める。


シャーロットは、ハドソンからアーサー助手の情報を得たあと、すぐにレストレードに連絡を取った。

知りたいのは、アーサーとウェストブリッジ社の情報だった。


レストレードから得られた情報では、アーサーに犯罪履歴はない。

ただ、戸籍上の兄が一人いる。

それくらいだった。


シャーロットは、その兄についての情報を集めてくれと、レストレードに頼んだ。


その兄、ハリーはモーソン商会で働いていた。


「えっと、アーサー助手のお兄さんがモーソン商会で働いているの?」


「ええ、そう」


ヴァイオレットの質問に、シャーロットは答える。


「それが何か問題あるのか?」


「問題はないわ。でも、ホール先輩がモーソン商会で働くと問題になるわ」


ホールは、不思議そうな顔をしている。


「どういうことだ?」


「兄弟が働いていた場所は、モーソン商会とウェストブリッジ社」


「ショッピングモールでの土地開発で、二つの会社は相互に利益を得ていたわ。情報がつながっていたみたいね」


「兄弟間で情報を流していたの?」


それくらいは、問題がないのではないのか?


ヴァイオレットは、シャーロットの話の意図がわからない。


「まあ、兄弟同士での情報のやり取りはあるわね。正しくはないけど、よくあることよ」


良くないのか。

ヴァイオレットには、よくわからなかった。

身内なら、仕事の話くらいするだろうと思った。


「でも、それが本当にアーサーの兄ならね」


「え? 誰なの?」


「アーサーの兄は、ロンドンにはいないのよ」


レストレードから得た情報では、アーサーの兄はロンドンにはいない。

アメリカにいる。

国内に帰国した履歴もない。


不正に帰国した可能性もある。

だが、そんな危険を冒すのは、何らかの犯罪が絡んでいる場合くらいだろう。

それに、企業としても、そんな人間を雇うのは危険すぎる。


「じゃあ、誰なの?」


ホールは少し考える。


自分がハリーに会うとまずい理由を。


なんだろうか。

知り合いとか。


もちろん、そんな知り合いはいない。

知り合いであれば、何がまずい?


もしかすると――。


「まさか、アーサー助手とハリーは同一人物なのか?」


「ええ、その可能性が高いわ」


シャーロットは、アーサーの勤務状況もハドソンから見せてもらっていた。


なぜか、一日置きに魔導学園での勤務になっている。

それ以外の日は、ウェストブリッジ社で勤務する。

そういう契約だ。


しかし、実際にはウェストブリッジ社へ出勤していないのだろう。


「アーサーは、二つの会社で名を変えて働いていた。だから、ホール先輩がモーソン商会で働くと困るのよ。正体がばれてしまう可能性があるわ」


ホールは、呆然としている。


なぜ、そんなことをしているのか。

ヴァイオレットには理解できない。


「アーサー助手は、なぜそんなことをしているのですか?」


ヴァイオレットは、もっともな質問をする。


シャーロットは一瞬だけ沈黙し、二人の目を交互に見る。


「ウェストブリッジ社とモーソン商会はつながっている。そして今度は、魔導学園の情報を流す予定なのかもしれない」


「そんなことできるのか?」


ホールの言うことはもっともだ。


基本的に、研究内容は機密事項になる。

学園の外に流出させることは罪になる。

危険な行動だ。


「できるけど、やる意味がわからないわ。ただ、アーサー助手の研究内容よ。あれと似たような研究が、王立学園にもあったわ」


ホールとヴァイオレットは、二人して視線を合わせる。


なんで、そんな研究内容をシャーロットが知っているのだろう。


もしかして、王立学園に出入りしているのだろうか。


ヴァイオレットは、少し不安になる。


危険なことによく首を突っ込んでいるが、そこまでしているのか。

いや、シャーロットならやりかねない。


いつかの、あの魔法実験場もそうだった。


興味が危険を超えていく。


だから、誰かが止める役目にならなければならない。

きっとワトソンさんも、そう思っている。


「アーサー助手は、モーソン商会に情報を流しているということか?」


ホールは、アーサーの横顔を思い出す。


研究には真摯で、研究室でも相談に乗ってもらいやすい。

わかりやすく、こちらが理解しやすいように誘導してくれる。


そんなアーサーに、裏の顔があるのか。


ホールは、自分の中の感情を少し整理できないでいた。


「じゃあ、ウェストブリッジ社からの待遇は……」


「そうね。もしかしたら、そのためのものかもね。口止め料じゃないけど、似たようなものかもしれないわ」


ホールは、テーブルの上にある紅茶が、いつの間にか空になっていたことに気づいた。


その時、寮長室の隣の扉が開き、ハドソンが現れた。

温かい香りが室内に入ってくる。

どうやら、紅茶を淹れ直してくれたらしい。


「さあ、これを飲んだら帰りなさい」


ハドソンはそう言うと、自分の机に座り、書類に目を通した。


シャーロットは、それ以上話す気はないらしい。

いつの間にか、シャーロットがテーブルに置いたクッキーを食べていた。


ヴァイオレットも、それを見て一ついただいた。


お、おいしい。


これは、どこのお店のものなのだろうか。


というか、シャーロットはどこからそれを持ち出したのだろう。


その後、三人の話し合いは解散となった。

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