第十七章 株式仲買店員 (一)
「どう思う?」
「そうね。変ね」
シャーロットは、男の質問につまらなそうに答える。
話しかけているのは、ホール・パイクロフト。
魔導学園の最終学年の生徒である。
少し暗い色の金髪を軽く指でかき上げながら、緑がかった茶色の瞳でシャーロットを少し見つめたあと、ホールはゆっくりと隣の席に座る。
長身にもかかわらず、ホールの動きは大きな音も立てない。彼の性格を表しているようにも見える。シャーロットは、そんなホールが隣に座ることに嫌な顔もせず、また喜びもせず、いつものように無表情である。
ホールの見た目は、同性でも納得するくらいに整っている。そんな彼が見つめたり、隣に座ったりすれば、好意を持っていない者でも少しは緊張するだろう。
シャーロットは意識的に感情を抑えているわけでもなく、ただただホールの容姿に関心がない。
愛想がまったくないシャーロットだが、学内ではかなりの有名人だ。
だが、彼女と話をする者はほとんどいない。挨拶すらほとんどしない。
最初は皆が勇気を振り絞るが、どうやらその勇気よりもシャーロットの感情の壁の方が高いようで、大体はあきらめる。
そんな中でもホールは、シャーロットの顔色を気にせず話しかける者の一人だ。
さらに、異性で話しかける者はほぼいない。ホールは、シャーロットに異性として何の感情もない。別に異性に興味がないわけではない。
単純に、シャーロットに何も感じない。だが、人間の能力に関しては認めている。
いや、頼っている。
困ったときや悩んでいるときは、すぐにシャーロットのところに駆け込む。
そんなときのシャーロットは、面倒くさそうな顔をして話を聞く。
いつも以上に辛辣に、シャーロットは答えを言う。
ホールは、その答えを満足そうに聞く。
頼み事や相談事は嬉々として聞くが、雑談などはほとんどしない。
シャーロットのショートボブの銀髪は、いつもきれいに揃っており、歩くたび軽く揺れている。白い肌は、血が通ってすらいないように見える。その白い肌の先にある指は、すぐに折れてしまいそうなほど細い。
その指で持っていたペンを、シャーロットは軽く叩く。実際はそれほど響いていないのだが、裁判官が判決時に叩く金槌のような音が周りには聞こえる。
時間切れだ。
聞き耳を立てている周囲の人間は、そう判断している。シャーロットは、決して話をしないわけではない。ただ単純に興味がなくなるだけなのだ。そうなると、相手の話から自分の研究や新たな魔法式の考察へと思考を移していく。そのため視線は宙を見て、相槌すらも打たなくなる。
そのときの無意識の行動だった。
それに気づいているのか、いないのかわからないが、ホールは話をやめない。
「それで、どう思う?」
ホールのさらなる質問に、シャーロットの青い瞳がホールの方に少しだけ向く。
「変ね」
と、同じ答えを言う。
「いや、変なのは俺も感じている。だからどう思うと聞いている」
「変ね」
シャーロットの視線は、宙から移らない。
今、シャーロットは自分が作り上げた魔法式を宙に作り出し、その魔法式を基にした魔法の実験を頭の中で実行中である。
そのため、ホールの話をほぼ聞いていない。
教室に入ってきて、その様子を見ていたヴァイオレットは、なぜかいたたまれなくなる。
相変わらずホールに対して冷たい。
というか、関心がない。
いつもどうでもいいことをずっと話しているからかもしれない。
ホールの話の中で、百のうち一つくらいしかまともな話をしない。
だからではないが、シャーロットは話を聞いていない。
興味がない話にシャーロットの頭は反応しない。
適当な相槌をするだけ、まだましな方である。
そんな姿を周りが見ているので、シャーロットに誰も声を掛けなくなる。特に異性は、それを見るだけで心が折れる。
しかし、ホールはめげない。
仕方なく、ヴァイオレットは助け舟を出す。
「シャル、少し変わった案件よね」
「そうかしら?」
ヴァイオレットの声に、シャーロットはやっと反応した。
ヴァイオレットも途中からしか聞いていないが、どうやらホールの相談事は、彼の就職先のことのようだ。来年卒業する予定なので、就活中なのだ。
こう見えて、ホールは優秀だ。
学内でもトップクラスの生徒だ。
単純に見た目だけでも、異性から好感を持たれている。寄ってくる異性も多いのだが、いつもシャーロットに付き纏っているので、ホールは一途に彼女を思っているのだな、と周りが勝手に納得していた。
二人が並ぶと、見た目だけならお似合いの二人に見える。
ここで、認識の違いが生じる。
シャーロットは、ホールのことを話しかけてくる生徒の一人としか思っていない。
ホールも、自分より優秀で切れ味抜群なシャーロットのことを、明確な答えをくれる存在としか思っていない。
異性同士の感情が二人にはない。
たぶん、とヴァイオレットは思っている。
シャーロットにはもっと大人なタイプがいいとすら考えている。
ヴァイオレットが入ることで、ようやく三人の会話はまともに進んでいく。
「だって、モーソン商会と言えばかなり有名な会社でしょ。ホール先輩はそこに内定をもらっているのよ」
モーソン商会。
株式を取り扱い、最近かなりの収益を上げている。そういえば、最近できたショッピングモールにもかなりの出資をしていた。情よりも利を取るその姿勢は、経済の発展のためには不可欠だが、決して未来を見ているわけではない。
「……」
シャーロットは、ようやく新しく組み立てた魔法式の、頭の中での実験を終える。
結果は失敗だった。何かが足りない。予想したよりも観測結果が小さい。
少し残念だが、これでまた新たなことを考えられるという希望もある。楽しみだなと感じ、軽く口元を緩めた。
それを見たヴァイオレットは、少し機嫌が良くなったのだなと感じ、話を振ってみる。
「その会社よりも手厚い待遇だなんて、よっぽどホール先輩は買われているのね」
シャーロットは、ホールが話していた内容を頭の片隅から引っ張り出す。
たしか、ホールの就職の内定が決まったあとに、他の会社からさらに好待遇を提示されたとかだったはず。特に興味がないから、もう少しで消される情報だった。




