第十六章 黄色い顔 (九)
「どうして、わかったの?」
エフィーは尋ねる。
「黄色い仮面」
「あれは、娘の顔を隠すためのもの」
「あんな仮面でなくても、顔は隠せるわ」
「貴女が本当に行っていた研究は、人工観測機ではない。人の能力を開花させる研究。その過程でできたのが人工観測機」
「貴女の娘は、目が見えないのに、魔法を観測できるのね」
シャーロットは、エフィーの研究室にいた。
グラントとエフィーの和解が終わった後、シャーロットはワトソンに引っ張られて家を後にした。
シャーロットは、グラントとエフィーの関係を観察し、さらにセドリックの話を聞いて、大体の予想はついていた。
だが、それをシャーロットが言うことではない。
夫婦の問題だ。
だから、嘘をついた。
エフィーの夫が生きていると。
そして、この国にいる可能性があると。
グラント本人に直接伝えれば、いくらグラントでも直接エフィーのもとに行く。
最初から、本人同士が話せばすぐに解決する話なのだ。
互いが互いに気を使い、思っている。
そのために、両者の間に小さな溝ができる。
溝は放っておくと、どんどん大きくなり、いつの間にか自分たちでは乗り越えられなくなる。
溝を飛び越えるには、ある程度の勢いが必要になる。
周りの人間は、押すことはできても、溝を埋めることはできない。
信頼し合っている二人であれば、後は分かり合えるだろう。
シャーロットは、そう考えていた。
近くにいたワトソンは、少し冷や冷やした。
二人が理性的ではなく、感情的になっていたら、溝は埋まらなくなるかもしれない。
シャーロットは、たまに人間の感情に対して甘く見積もるときがある。
人は、理性よりも感情を優先するのだ。
シャーロットは、まだそこが分かっていない。
いや、分かってはいるはずだ。
ただ、人の業の深さが見えていないのかもしれない。
それは、私が教えていかなければ。
今回のことで、改めてそう思った。
そして今、シャーロットの本当の疑問の答えを聞くため、エフィーの研究室を訪ねた。
「そこまで、分かっていたの?」
エフィーは驚く。
「ええ、貴女の研究室の内容から推測できたわ」
「そう。生まれつき目が悪かったの。でも、物心つく頃から魔法を観測できたの。娘の前に魔法が現れたの。でも、制御ができない。だから、仮面で抑えることにしたの」
「私の先生の研究は、指輪での魔法観測。私は、それを娘に利用しました。でも、個人的な研究は、あの子の出生のこともあります。だから、人工観測機という研究内容にしました」
レストレードの報告書にあった。
エフィーのアメリカでの論文。
研究結果も論文も、破綻している部分が見える。
本来の意図を隠した内容であった。
何かが足りない。
そのピースを、あえて載せていない。
飛躍した論理が多数あった。
「最後に一ついい?」
「何?」
「グラントのこと、知っていたの?」
「……」
「私は、グラントの誠実さに惹かれました。ただ、それだけです」
「あなた、全て知っていたのね」
ワトソンは、セドリックに詰め寄る。
「お前たちなら、少しくらい何かあっても誰も気にしない」
「意外に優しいのね」
「俺たちは、国のために全てをかけて尽くしている。その国民を守るのは当然だろ」
当然?
国のためなら、国民を殺すことも厭わない。
それが外務調査局のはず。
「エフィーの研究を支援していた会社は、あのショッピングモールにも資金を出しているわよね」
「相変わらず、知らなくてもいいことに気づくな」
「ええ、あなたの依頼だからね」
「そんなことは頼んでないはずだけどな」
「そう?」
セドリックは、紅茶のお代わりを店員に頼んだ。
「エフィーの研究を支援していた会社は、ある貴族のものだ」
「ボヘミア卿?」
「そうだ。彼は、国外事業にも力を入れている」
「AMAと取引できるくらいなの?」
「ああ、良好な関係らしい」
「そこまで、エフィーの研究を欲しがった理由は?」
「さあな」
ボヘミア卿が欲しがったのか?
しかし、あの研究は個人的なものだ。
汎用性が低い。
もしかして、ボヘミア卿の関係者で同じことが起きている人物がいるのか。
「エフィーと娘さんとグラントは、問題ないの?」
「ああ、もちろんだ。命の危険もない」
「そう、よかったわ」
「ああ、そうだ」
セドリックは、最初から知っていた。
エフィーのことも、娘のことも。
だが、あえてグラントには言わなかった。
個人の問題だ。
いくら外務調査局でも、個人のことに口を挟むことなどない。
三人とも白だし、しかも上からは、これ以上関わるなとも言われている。
だが、このままでは、グラントが壊れるだろう。
ちょうどいい知り合いがいたので、紹介した。
彼女が動いたとしても、外務調査局でも簡単に手は出せない。
そして、もし全体像が暴かれても、マスコミに流したりはしない。
皆が幸せになるのが一番いい。




