↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャーロット 〜魔法の調べは、観測の果てにあり〜  作者: 桜の浜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
109/124

第十六章 黄色い顔 (五) 

 二人は、再び研究室のテーブルへ戻ってきた。

 紅茶は、すっかり冷めていた。

 シャーロットは気にすることもなく、冷えた紅茶を一口飲む。

 頭の中では、先ほど見た人工観測機の構造を組み立て直していた。


 人間の脳を模した観測装置。

 しかし、あの大きさで人間と同じだけの観測を行えるとは思えない。

 ならば。


「あれは、今どんな魔法を制御しているのですか?」


 エフィーがシャーロットを見る。

 シャーロットが考えた答えは一つだった。

 全ての魔法を観測しているわけではない。


 対象となる魔法を限定している。

 それなら必要となる処理能力も減り、装置そのものを小さくすることができる。


「素晴らしいです」


 エフィーの表情が明るくなった。


「その通りです。今の人工観測機にできることは、まだ一つだけです」


「それは――」


「秘密ですか?」


 シャーロットが先に言った。


 エフィーは一瞬きょとんとしたあと、笑った。


「いいえ。これはお教えします」




 シャーロットが自室へ戻ると、ワトソンがいた。


「お帰り、シャル」


「ただいま、ワトソン」


 それだけ言うと、シャーロットは窓際にある自分の椅子へ座った。

 ワトソンは、その様子を見てすぐに分かった。

 また何か考えている。


 今日は確か、研究棟へ行っていたはずだ。

 エフィーにも会えたのだろう。


 そして、この様子なら相当面白いものを見つけたらしい。

 夕食まではまだ時間がある。

 放っておこう。


 シャーロットは、先ほど見た人工観測機を思い出していた。

 あれが完成すれば、誰もが個人魔法を使用できるようになるかもしれない。

 魔法技術の一つの到達点。


 だが――。


 それだけなら、模倣だ。

 誰かが観測し、生み出した魔法を再現する。

 それは結局、今ある魔道具を極限まで発展させたものと大きくは変わらない。

 シャーロットが知りたいのは、その先だった。


 人工観測機は、既存の魔法を再現するだけなのか。


 それとも。


 あれ自身が観測し、まだ存在しない魔法を生み出すことができるのか。


 もし後者なら――。

 あれは、ただの魔道具ではない。

 シャーロットの興味が、さらに強くなる。


 そして、もう一つ。


 あの人工観測機を動かしているものは何なのか。

 エフィーは、それだけは教えなかった。


「シャル、ご飯できたわよ」


 ワトソンの声が聞こえた。

 同時に、食卓から温かな香りが漂ってくる。

 シャーロットの思考が、ようやく現実へ戻った。



 食事の間、ワトソンは監視を続けていた隣家について報告した。


 大きな動きはない。


 外出するのは、ほとんど家政婦だけ。

 買い物の内容も、食料品や日用品ばかりだった。


 エフィーが訪れるのは三日に一度ほど。

 滞在時間は毎回、およそ二時間。


 何をしているのかまでは分からない。


 一方、魔導学園でのエフィーにも不審なところはなかった。

 研究は順調。

 勤務態度にも問題はない。


 あとはレストレードからの情報を待つか。

 それとも、面倒だからエフィー本人に直接聞くか。


 その前に、一度ここまでの調査結果をグラントへ報告しておくことになった。



 数日後。


 シャーロットとワトソンは、繁華街から少し離れたカフェにいた。


 一度見ただけでは、カフェだとは分からない。

 年季の入った建物に看板はなく、店内を覗かなければ営業していることすら分からないほどだった。


 シャーロットたちがよく利用する店だ。


 理由は単純だった。

 静かだから。

 貸し切っているわけではない。

 普段から客がほとんどいない。

 今日は、珍しく奥の席に客がいた。

 年配のマスターが一人で経営している。


 古びた外観とは違い、店内は趣向が凝らされていた。

 テーブルも椅子も、よく見ればかなり上等なものだ。


 もっとも、シャーロットはそんなことを気にしたことがない。


 いつもの席で、お気に入りの紅茶を飲んでいる。


 向かいでは、ワトソンが店主手作りのプリンを食べながら、レストレードから届いた報告書を読んでいた。

 スプーンを口へ運んでいたワトソンの手が止まる。


「……シャル」


「なに?」


「これ、どういうことかしら?」


 シャーロットは、ワトソンから報告書を受け取った。


 エフィー・マンロー。


 アメリカでの経歴。

 魔法学園への所属記録。

 研究歴。

 そして――婚姻記録。

 シャーロットの視線が止まった。


「結婚していたのね」


「ええ。グラントと出会う前に」


 ワトソンは食べていたプリンを置いた。


「前の夫を捨てて、グラントと駆け落ちしたということかしら?」


「そうね、でも籍が入っていない、きちんと別れたようね」


「グラントと出会って、別れたということ?」


「そう見えるわね」


「前の夫がここにきている可能性がある」


 隣の家にいるのか、それならば隠れてエフィーが会っているのも納得できる。

 ワトソンは、空になったプリンの空き瓶の底を見る。


「でも、いくらグラントとエフィーが結婚したとしてもすぐにロンドンに来れるのかしら?」


「どうして?」


「エフィーの研究よ」


 ワトソンが首を傾げる。


「人工観測機?」


「ええ」


 シャーロットは報告書をテーブルに置いた。


「あれだけの研究をしていた人間を、アメリカ魔法学園が簡単に手放すとは思えない」


「本人が辞めると言ったら?」


「それでもよ。研究設備、研究資料、共同研究者。それに研究成果の権利もある。本人一人がロンドンへ来れば終わるような研究じゃない」


 確かに。


 ワトソンはもう一度、報告書を見る。

 エフィーの過去にはまだなにかがある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。