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シャーロット 〜魔法の調べは、観測の果てにあり〜  作者: 桜の浜


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第十六章 黄色い顔 (三)

応接室で依頼を受けてから、一週間が経った。


シャーロットは、グラントの家の近くにいた。


「どう? 何かわかった?」


独り言にしては、少し大きな声だった。


「エフィーは出入りしているにゃ。三日に一度くらい」


声は、シャーロットの隣に立つロンドン・プレーンの枝葉の中から聞こえてきた。


「中に住んでいるのは、たぶん二人」


「二人?」


「それと、エフィーはお金を渡しているにゃ」


脅されている?

シャーロットは、隣家の二階の窓を見上げた。


「家にいる二人の素性は?」


「一人は家政婦みたい。もう一人は、ほとんど姿を見せない」


黄色い顔は、きっともう一人の方だ。


ワトソンは、家政婦が外出した際に後をつけていた。

買っていたのは食材と生活用品。

量から考えれば、おそらく二人分。


少なくとも、この家に二人が暮らしていることは間違いなさそうだった。


「分かったわ。もう少し調べて。レストレードからも情報が来るはずだから」


「了解にゃ」


ワトソンと別れたシャーロットは、その足で魔法省近くのカフェへ向かった。


久しぶりに来る店だった。


店内には、すでにレストレードがいた。


シャーロットは相手の返事を待つこともなく向かいの席に座り、店員に紅茶を頼んだ。


突然現れたシャーロットにも、レストレードは嫌な顔ひとつしない。

読んでいた資料を閉じ、テーブルの上に置いた。


「また面倒なことに首を突っ込んでいるみたいだな」


「ただの依頼をこなしているだけよ」


レストレードは、そうは思っていなかった。


外務調査局の局員が内々に持ち込んだ時点で、ただの依頼で済むはずがない。


しかも今回は、外務調査局そのものとの関係を悟られないように調べる必要があった。

下手をすれば、始末書だけでは済まない。

レストレードとシャーロットは外務調査局に良い顔をされていない。


「これだ」


そんなレストレードの苦労など知らず、シャーロットは差し出された資料を読み始めた。

隣家の家主は、ロンドンの会社だった。

社員用住宅として借り上げられている。

契約手続きに問題はなく、家賃も半年分が先払いされていた。


会社そのものにも、今のところ怪しい点はない。


ロンドン王立学園と取引があり、主な事業は器具の整備。

設立してまだ間もない会社だが、不正や経営上の問題も確認されていなかった。


ただし、一つだけ気になる点がある。


その会社は、スコットランドで最近作られた会社だった。


これから進出する予定で、その準備のために社員を送り込んだ。

そう考えれば、不自然ではない。


ただ――。


グラントとエフィーがロンドンへ来た時期と、ほぼ重なっている。


偶然と言えば、偶然だ。


「どう思った?」


レストレードは、いつの間にか運ばれてきたサンドイッチを食べていた。


シャーロットの前にも紅茶が置かれている。

少し冷めていた。


「偶然」


「俺もそう思う」


エフィーがその家に出入りしていなければ、それで終わる話だ。

しかし、彼女は実際に何度も家へ行き、金まで渡している。

ならば、エフィーとこの会社の間には何らかのつながりがある。


「この会社、もう少し調べられる?」


「ああ。もう調べている。ただ、この街には情報がほとんどない。向こうの担当に照会をかけているところだ。少し待ってくれ」


シャーロットは、冷めかけた紅茶をようやく口に運んだ。



研究棟。


ロンドン魔導学園において、最先端の研究が行われている場所だ。

ここで生まれた技術が、数年後には街の暮らしを変えていることも珍しくない。


この街の未来を作っている場所。

そう言っても、過言ではなかった。


ただし、シャーロットにとっては少し意味が違う。


ここは、知的好奇心の宝庫だった。


新しい研究。

前に見た研究の進展。

見たことのない術式。

新しく作られた魔道具。


一つ見始めれば、次が気になる。

気づけば数時間が経っていることも珍しくない。


食事より楽しい。

睡眠よりも惜しい。


シャーロットにとって研究棟とは、そういう場所だった。

そんな研究棟にも、まだシャーロットが足を踏み入れたことのない研究室がある。


魔法整備学。


シャーロットも以前から気になっていた分野だった。

この世界で魔法を利用する方法は、大きく二つに分けることができる。


一つは、術者自身が魔法を観測し、直接使用する方法。

シャーロットの魔法もこちらに分類される。


そしてもう一つが、魔道具を通して魔法を利用する方法だ。


街を網の目のように走る巨大な魔力導管。

監視局の局員たちが携帯する小型の魔導銃。

形も目的も違うが、どちらも魔法を個人だけの力にせず、誰でも利用できる形へ変えるために作られている。


魔法整備学も、その考え方から生まれた。


個人にしか扱えない魔法を分析し、それを誰でも利用できる形へ変える。


それが、この学問の目的だ。

理想だけを聞けば単純に思える。

しかし、実際の研究は非常に難しい。


そもそも、個人固有の魔法を持つ人間自体が多くない。

さらに、その魔法は術者本人の観測方法や思考、魔力の性質などに強く依存している。


同じ現象を再現しようとしても、別の人間には同じように発動できないことが多い。

汎用魔法なら、最初から多くの人間が使用できることを前提として術式が組まれている。


だが魔法整備学が扱うのは、その逆だ。


一人のために生まれた魔法を、多くの人間のための魔法へ変える。


個から、全体へ。

言葉にすれば簡単だ。

実際に行うとなれば、恐ろしく難しい。

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