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120/121

11ー10 いつか

 11ー10 いつか


 これ以上、抗うことはできない。

 あたしが諦めかけたその時。

 世界に亀裂が走る音が聞こえた。

 がらがらと崩れ落ちていく世界。

 差し込んだ光は、あたしを柔らかく包み込んでいく。

 それは、あたしへの思い。

 メイア、それにグリノア様、マリカさん。

 みんなの思いがあたしを包み込んだ。

 「戻って!」

 「一緒に!」

 「もとの世界へ!」

 ああっ!

 あたしをとらえる糸が一つづつ切れていくのがわかる。

 幾百、幾千、幾万の人の思い。

 それがあたしを包み込む。

 あたしは。

 こんなにも世界に必要とされているのだ。

 愛されているのだ。

 最後のあたしを縛る糸が切れて。

 あたしが解き放たれようとしたその時、王の手があたしの腕を掴んだ。

 たとえ、そうであろうとも。

 闇に眠った長い長いときの中で。

 王の心が流れ込んでくる。

 お前が。

 お前だけが光。

 離しはしない!

 王の手に掴まれたところからあたしの中に王が入り込んでくる!

 侵食されていく。

 あたしは!

 戻りたい!

 『幻獣の女王』ではなく。

 1人の少女として世界を。

 人々の中で。

 生きたいの!

 涙が滲み。

 はらはらと溢れる。

 だが。

 王は、あたしを離しはしない。

 あたしは。

 己が消えていくのを感じていた。

 王の中に。

 溶けて消えていく。

 チカという自我が。

 失われていく。

 ふと。

 一瞬だけ。

 夢のように過る思い。

 青い瞳の影。

 ああ!

 あなたと。

 生きたかった。

 そうして。

 あたしの意識は、途切れて・・


 目の前が赤い。

 炎だ。

 それは、熱い炎。

 燃えている。

 全てが燃え尽くされようとしているのをあたしは感じた。

 次第に炎は、人の形をとり。

 あたしは、その人に抱き締められていた。

 それは。

 「叔父さん?」

 「チカ」

 叔父さんは、あたしにその美しい微笑みをむける。

 「待たせたね」

 「・・遅いよ!」

 あたしは、安堵の涙を溢した。

 お前は・・

 王が地獄の底から響くような声を絞り出す。

 「返せ・・我妻を・・わが半身よ・・」

 消え失せろ!

 王の体が熱を放ち、世界が燃え上がる。

 炎と炎がぶつかり合って!

 軋む音が聞こえる。

 空間が!

 歪んで。

 ひび割れていく!

 「渡すわけにはいかない」

 叔父さんのあたしを抱き締める手に力がこもる。

 あたしも。

 叔父さんにぎゅっとしがみつく。

 もう。

 あたしは、離したくない!

 叔父さんとの思いでが甦ってくる。

 始めてあった時のこと。

 叔父さんが幻獣を受け入れた時のこと。

 異世界に呼ばれた時のこと。

 始めて。

 叔父さんを好きだと意識した時のこと。

 あたしは、叔父さんの手に自分の手を重ねる。

 お願い。

 『幻獣の王』

 あたしにもう少しだけ、時間をください。

 この少女が一生を生きるだけの時間を!

 あたしにください。

 お願い!

 あたしの思いが重なって。

 青い透明な炎が王の体を包んだ。

 「暖かい・・」

 王が呟く。

 王は、青い炎に包まれて。

 そして。

 あたしを見つめて頬を揺るた。

 君は。

 「ああ・・そうか・・君は・・」

 その短い生を生きることを望んだのか。

 王は。

 あたしの手を離す。

 闇に沈んでいく王の姿をあたしは叔父さんの腕に抱かれて見つめていた。

 いずれ。

 また、会うこともあるだろう。

 そのときは。

 もっと。

 あたしは、涙を瞬きで散らす。

 『幻獣の王』は、再び眠りについた。

 あたしが。

 チカが生きる間。

 そのほんの瞬きのような時間。

 王は、眠るのだ。

 そして。

 次に目覚める時。

 あたしたちは、共に生きるのだろう。

 それまでは。

 あたしは、心の中で祈る。

 王の眠りが安らかであることを。

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