表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/121

11ー9 妄執

 11ー9 妄執


 王は。

 『幻獣の王』は、今だ目覚めてはいない。

 あたしは、理解している。

 それでも。

 今、目の前に立つ者をあたしは、否定することはできない。

 王があたしの前に立ち、あたしの頬へと手を伸ばす。

 「我妻よ・・なぜ、私を・・」

 裏切った?

 あたしは、王に向かって叫んだ。

 「裏切ってなど・・」

 「ならば、なぜ、私を・・捨てたのだ?」

 違う!

 あたしは、喉が詰まって声がでない!

 わかって!

 伝えないと!

 あたしは、声の限りに叫んだ。

 「愛している・・愛しています!あなたを・・そして」

 あなたの。

 もう1人のあなたを!

 あたしの記憶が溢れだして。

 世界を侵食していく。

 あたしの記憶。

 王が。

 あなたが眠りについた後の思い出。

 1人の夜も。

 孤独な昼も。

 つねにあたしの側にいたのは、あなた。

 あなたの残した半身たる者があたしをいつも包み込んでくれて。

 あたしは。

 いつしかあなたを愛するようにあなたの半身を愛するようになった。

 間違っている!

 あたしは、はやくあなたを目覚めさせようと。

 戻ってきて!

 愛する人。

 そして。

 あたしを、抱き締めて!

 なのに。

 あたしは、死んだ。

 あなたを。

 王を目覚めさせる前に殺された。

 王の眠る棺たる世界樹のもとであたしは、死んだ。

 あたしの血を世界樹は吸って。

 そして。世界は延命された。

 世界樹は、咲き誇り。

 世界は、続く。

 あたしの血を吸って。

 何百、何千の時が過ぎ。

 世界樹が力尽きようとしている。

 贄が必要だ。

 そして。

 世界樹は、王の半身を取り込んで命を繋いでいく。

 あたしは。

 王の名を呼んだ。

 王よ。

 唯一無二の我が王。

 「甦って」

 あたしは、冷たい王の両手に頬を包まれて目を閉じる。

 王の冷たい唇があたしの唇に触れたとき。

 世界が弾けとんだ!

 

 足元が消え、あたしたちは、暗闇の中に浮かび漂っていた。

 王は、あたしを抱き締めて囁く。

 「我妻・・もう、離しはしない」

 いいえ。

 あたしは、泣き崩れる。

 いいえ!

 あたしは!

 あたしは、あなたと共にはいけない!

 あたしは!

 思いでが溢れて世界をおおっていく。

 あたしがこの世に生まれてからこの15年。

 いや、16年?

 あたしが見てきた世界。

 触れてきた人々の記憶。

 愛された。

 愛した。

 記憶が世界を侵して。

 王は、その熱に手を焼かれて低く呻く。

 「熱い・・」

 それは、あたしの過去。

 生まれ変わってから生きたわずかな時間の夢。

 それが王の体を焼く。

 あたしは。

 「あたしは・・あなたとは、行けない・・」

 あたしは。

 生きたい!

 まだ見ぬ明日を。

 まだ、得られない何かを。

 あたしは、夢見る。

 「だから!今、あなたのもとには戻れない!」

 じっと焼けた手のひらを眺めていた王が顔をあげてあたしを見た。

 ぎらぎらと輝く赤い瞳があたしを写す。

 「許さぬ・・我妻・・私だけの・・」

 王の妄執があたしをとらえていく。

 それは、強靭な蜘蛛の糸のようにあたしを絡めとって。

 「共に行こう・・我妻よ」

 再び、共に。

 静かな世界で2人きり。

 共に、生きよう

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ