11ー8 王
11ー8 王
メイアは、あたしに降りるようにと促す。
あたしが背から降りると牙をむいて魔狼たちと対峙した。
『ここは、わたしに任せて。はやく世界樹へ!』
ぐるる、と獰猛な唸り声をあげるとメイアは、魔狼の群れへと突進していく。
「メイア!」
あたしは、1人その場に取り残された。
メイアと魔狼たちが遠く離れ、辺りは、静寂に包まれる。
あたしは、前を見据えて歩きだした。
行かなきゃ!
あたしは、一歩ずつ進んでいく。
目の前に岩の壁のようにたっているのは、光輝く世界樹。
あたしは、その世界樹を見上げ手を伸ばす。
触れる直前で手を止めた。
世界樹は、脈打っている。
触れるものを全て食らおうとするように世界樹の幹から光の蔓が伸びてあたしの腕を掴んだ。
その瞬間。
あたしは、知った。
世界樹の呪いを。
世界のために眠りについた王の絶望を。
王は。
絶望していた。
己が眠りにつけば世界は救われる筈だった。
にもかかわらず。
世界は、滅ぼうとしている。
しかも。
自分が眠りについている間に、世界は、あまりにも変化してしまった。
愛するものは。
失われた。
うしなわれた!
「違う・・違うの!」
あたしは、溢れ落ちる涙を止められない。
「あたしはっ!」
『幻獣の女王』は。
あたしは、声がつまる。
それでも!
あたしは、叫ぼうとした。
あたしはっ!
「もう1人のっ!あなたをっ!」
愛しただけ!
それでも。
世界樹から伸びる蔓があたしを絡めとっていく。
白い光に包まれて意識が消え、吸収されていくのを感じる。
あたしは。
消えていく。
世界樹の中に。
吸収されていくのを感じた。
光の中へと沈んでいく。
一粒の涙が煌めくのが見えた。
ああ。
これは。
あたしは、涙を両手で受け止めるとそれを覗き込む。
そこにいたんだね。
あたしは。
涙へと溶けていくのを感じた。
頬に優しく触れる何かを感じてあたしはゆっくりと目を開いた。
そこは、暖かくて。
優しい。
光に満ちた場所。
花が咲き。
風に花弁が舞う。
甘い香りが漂っていて。
あたしは見た。
朽ちかけた大樹の側に立つ1本の若木の幹には、目を閉じたあの人が取り込まれている。
わずかに残されている人間らしさである目元がぴくりと動いて。
目が開いた。
それは。
青い。
美しい空の色。
「見つけた・・叔父さん・・」
あたしは、その若木に寄り添うとそっと頬を幹につけて目を閉じる。
見つけた!
どくん
世界が脈打つのがわかった。
空が。
大地が。
脈打ち崩れていく。
歪んでいく。
甘く腐り落ちる。
鼻をつく腐敗臭が辺りに立ち込めていく。
爛れ、どろどろに崩れた世界の残滓から何かが。
あたしに手を伸ばす。
それは、じょじょに人の姿をとって。
輝く黄金の髪に褐色の肌。
そして。
煌めくような赤い幻獣の瞳。
それは。
『幻獣の王』
「見つけた・・我妻よ・・」
力強かった腕があたしに伸びてくるのをあたしは、身を竦ませて待つ。
冷たい指先があたしの頬に触れ。
そして。
王の唇が動く。
「・・待っていたぞ・・」
我が女王よ
あたしは。
震えが止まらない。
それでも。
恐怖の中、叔父さんを取り込んだ若木の前に立ち、王に向き合う。
王よ・・
あたしは、震える唇でその名を呼んだ。
我が夫よ
『幻獣の』
王




