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停止。始動。

昇降機区画へ続く通路を、楊震は足早に進んでいた。

普段この奥へ来る者はほとんどいない。

だが今日は違う。

低い機械音が通路の奥から響いてくた。

「……。」

昇降路が動いている。その事実だけで十分だった。

楊震が昇降機区画へ足を踏み入れた時、ちょうど昇降機が下降してきたところだった。


「へぇ、やっぱ来たか。抜け目ねぇな。」

まず飛び込んできたのは、昇降機の操作盤の前に立つ嶺亜だった。それ以外の人間は見当たらない。

「今度は何をした。」

もうこの男が何を企もうが驚かない。そんな心地で問う。

「もうちょいお偉方に本気出してもらおうと思ってな。」

いかにも悪そうな笑みを浮かべ、嶺亜が見上げた昇降機。

重い駆動音に歯車が噛み合う低い振動が近付いてきている。


やがて――

ズゥン、と鈍い音と共に装置が停止した。

格子状の扉が開く。その瞬間、嶺亜が昇降機へ歩み寄る。

「……。」

中を覗き込んだ嶺亜の眉がわずかに動いた。

床に、燈夜が倒れている。

「おい。」

昇降機の中へ踏み込み、燈夜のマスクを外して声を掛ける。

「おい燈夜。」

軽く揺さぶり、反応を見る。僅かだったが反応が返ってきた。

「……ったく。」

大きく息を吐いた次の瞬間ーー。

「このバカ!自分からマスク外すヤツがどこにいんだよ!ここがゴールじゃねぇんだぞ!今から馬車馬になるっつのに考えなしな行動すんな!」

無事を確認するや否や罵声を浴びせる嶺亜。燈夜から呻くような声が聞こえる。おそらく謝っているのだろう。

「喋んな。もうすぐ医療班来るから大人しくしてろ。柄にもなく心配したじゃねぇか、クソガキ。」

雑に頭を撫でつけ悪態をついて立ち上がる。


この二人だけでこの場に居たとは思えない。

「彼は。」

「?誰だよ。」

「F‐369はどうした?」

楊震の中で点と点は繋がっていた。これは、確認作業だ。

「何だよその記号?俺は海陸を元いた世界に返しただけだ。あいつも子供じゃねぇんだ。向こうで何とかするだろ。」

「貴様…それが何を意味するのかわかっているのか?!」

「吠えんなよパイセン。こうでもしねぇと上は動かねぇだろ?今までサボってた分、存分に働いてもらおうぜ。」

楊震自身も感じていた憂いを力技で、的確に削ぎ落としにかかったらしい。

(だが昇降機自体は生きている。追い詰められたら“適合者狩り”をする可能性も…)

指摘はせず、昇降機の操作盤に視線を泳がせた。

「あ、それもう動かねぇぞ。始動させてから鍵どっか行ったからな。」

「!…抜け目がないのはどっちだ…」

もう、ここまで来ると笑いさえ込み上げてくる。

「今頃、原界で海陸とお散歩してるだろうよ。」

再び見上げた昇降機。

いつしか振動は静まり、役目を終えたように駆動音を止めた。


遠くから慌ただしい足音が聞こえてきた。医療班だ。

嶺亜は手を挙げて合図する。

「来たな。こっち。一応意識あし、多分そんな重症じゃねぇわ。」

燈夜を医療班に任せ、ちらりと楊震を見る。

「ガキがこんだけ頑張ったんだ。俺らもお偉方も頑張んねぇとな?」

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