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上昇

管制塔。

蒸都の各機構の稼働状況が並ぶ監視盤の前で、楊震は書類を整理していた。

規則正しく並ぶ数値。蒸気圧、送気量、送気管の流量。

日常の確認作業だ。


蒸都の仕組みが露呈し、人々が動き出した。日々、蒸都を自走させるべく議論を交わし、実験を試みている。しかし、調整槽室からF‐369の存在が居ないのは事実であり、蒸都は貯蓄エネルギーだけでどうにか動いているのに変わりはない。

動き出した者もいるが、変わらず動かない者もいる。

(上層部…)

一部の人間は頑なに変わらなかった。そして、その一部がいる事がブレーキにもなっている。予算を出し渋る、既存の機構での実験をさせない、エネルギーの消費節減を促さない。

想定内ではあった。むしろ、そういった人間ばかりだと思っていたからこそ失望はなく、動き出した人々の多さへの驚きの方が大きい。


上層部の考えは理解している。

F‐369は調整槽室から居なくなっただけで、蒸都から居なくなったわけではない。

彼らにとっての最大の希望は手元にある。だから、動かない。

考えるだけで何かが動くわけではない。ふっと大きく息を吐き、目の前の作業に気持ちを戻す。この時間帯で無駄に稼働している機構が無いかの点検だ。



「……?」

楊震の視線が止まる。

長年動いていないはずの機構に小さく灯る稼働表示。

「……昇降機?」

注意深く数値を眺める。

起動時間。

現在高度。

昇降速度。

どれも正常に作動している。


「…誰が許可した。」

呟いて管制鍵の記録を確認する。

登録者名……嶺亜。

楊震の眉が僅かに動いた。昇降機は既に半分以上上昇している。

「あの男…今度は何をするつもりだ。」

嫌な予感がする。手を止め、部屋を出ていく楊震。

昇降機はその間も静かに上昇を続けていた。

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