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後戻り

動力庁舎の人間でも殆ど足を運んだことの無い奥地にそれは眠っていた。

蒸都と原界へと繋ぐたった一つの道、昇降機。長年使われていないようには思えないその鈍い輝きがどことなく重々しい。

「燈夜、マスク準備したか?」

「持ちました。」

「正式なのじゃねぇから時間気を付けろよ。」

二人が会話をする中、海陸は辺りを見回していた。微かに。この光景が頭の片隅に残っている気がしている。幼い頃に、理由も分からず知らない大人に囲まれてこの場所を、通ったような…気の所為かもしれないくらいの薄さを鮮明にしようと観察する。

ボォ___… 

太くて短い音が思考を遮断する。

歯車がゆっくりと回りだし、昇降機が起動した。

「上につくまでに約10分。単純計算で往復20分だ。ガキじゃねえからわかるだろ。」

「はい。」

マスクをした燈夜の表情は読めない。声も、くぐもっているのか、暗いのか。それすらもわからない。

「海陸、来い。」

嶺亜に呼ばれて振り返った先の昇降機。中には先に燈夜が入っている。その場の雰囲気がそうさせるのか、少し緊張する。

「あ?何だよその顔。」

「…何でもありません。」

「ククッ生意気なヤツ。…あー、そうだ。お前、これ持ってろ。」

嶺亜から手渡されたのは特殊な形状の小さな鍵だった。

「?」

「持ってろ。捨てんなら昇降機出た後だ。良いな?」

詳しくは語られず昇降機の中に送り込まれた。

決して広くはない昇降機。海陸が乗り終えると音を立てて格子状の扉が閉じた。

“それじゃ、行くからな。揺れるぞ。”

通信管から嶺亜の声が聞こえる。返事を待った言葉ではない。程なくして、昇降機は上昇し始めた。


特に会話もなく、ただ登っていくのを示す文字盤を眺める。

「……海陸。」

昇降機自体の音と、マスクの所為で聞こえにくい燈夜の声に横を向く。視線は合わない。

「ごめん。…俺、嘘…吐いた。」

「え…?」

「お前はこのまま原界に帰る。蒸都には…戻らない。」

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