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これから

蒸都の核についての構造解明や新たな動力源確保に勤しむ日々。

途中で脱落し、日常業務の消化へ戻る者、必要に応じて別の知識を取り入れ始める者。

形は様々だったが、灯りがつくのも、昇降機が動くのも、水が巡るのも、蒸都を生かし続けるのも、どれも誰かの手で保たれ続けていようとしている。

燈夜の中にはもちろん焦りもある。忙しさもある。加えて、充実感を覚えていた。

「蒸都の動力残量、このまま行くと半年後には残70%に落ちます。これも全て、今まで通りの使い方をした場合であり、また、残量20…あるいは10%を切った際も同様の働きをするかは未だに…_」

定期的に行われる報告会。蒸都にとっての光は見えるような、見えていないような。ふんわりとした状態だ。


海陸もたまに動力庁舎に呼ばれて蒸都の人間との身体の違いを知る為の検査に協力している。

「もう帰る?」

検査を終えた海陸が流輝と共に整備部まで来ている。

「あとちょっとだな。先帰ってて良いぞ。」

報告書をまとめながら答える。

「えー、ちょっとなら待つよ。中広場に居るからねー。ほら、海陸。行こ!」

返事を待たずに去っていく二つの足音。

(勝手に決めんなよ…)

そう思いつつも、待たせている、刻限がある、その意識が筆を早めた。

(あの人の言う通り、か。)

一つ大きく溜息を吐いて報告書を納め、帰り支度を済ませて二人の待つ中広場へと向かう。庁舎を跨ぐ大きな渡り廊下を歩いていると、中広場のベンチで話す流輝と海陸の姿が見えた。

流輝が嬉しそうに何かを話し、海陸が穏やかに頷いている。

(もうちょっと、このままにしといてやるか。)

渡り廊下の手摺に肘を掛けて見守る。

「?」

すぐ近くに同じように二人を見ているような姿勢の人物が居た。

何度か報告会で見かけた事がある。

確か、織玖という名の医療関係者だ。そして、いつか燈夜が調べた資料から消されていた名前の人物でもある。

口元に微笑を浮かべて様子を見守るその眼は、楼蘭が孤児院の子供達を見る時のそれとよく似ていた。

「話しかけに行ったりしないんですか?」

何故か話しかけてしまった。

驚いたようにこちらを振り向く織玖。

「あ…すみません。何か、気にしてそうだったから。」

「君は…整備部の子だね。あの子と仲良くしてくれている…」

「燈夜です。」

名乗る燈夜に対して織玖も軽く自己紹介をした。一度、保全庁を離れていた織玖だったが、今回の海陸の件がきっかけで蒸都を自走させるべく、外部からではあるものの、手を尽くしているらしい。

「会わないんですか?その、あいつと。」

「…君は、あの子から僕のこと何か聞いているの?」

「いえ…」

織玖は燈夜の返事に“そうだよね”と呟くと一呼吸置いて続けた。

「僕は彼の消された記憶の中の住人だから。出てくる事も、これから関わることもしない。そう決めたんだ。」

吹っ切れたような、そんな顔だった。

「出会った頃はまだ今より幼くて、表情も、感情も、反応も無くて…せめて僕だけでもこの子に人として接しよう。それが『普通』だろう。そう思ってた。彼の…嶺亜さんの話を聞いて目が覚めたよ。蒸都のためだと自分に言い聞かせていたけれど…人ひとりを犠牲にして成り立つものを、いつの間にか『普通』だと思い込んでいただけだった。」

「………。」

流輝がこちらに気付いて指を指してきた。海陸の視線がこちらに向くまでにすっと織玖が手摺から離れた。自分に向かって手を振る二人へ燈夜が手を振り返す。

“自分は海陸の記憶に残るべきではない”そんな織玖の意思を感じた。

「あいつ…頭では覚えてないかもしれないですけど、多分…あなたの事、覚えてます。」

「?」

「話し方がそっくりだから。」

__どうしたの?

__痛くなかった?

__うん、良かった。

調整槽室の中。

たった一人だけ、人として海陸に話し掛けていた織玖。記憶は消えても残る“何か”は確かにそこにあった。

「君は優しいね。ありがとう。…あの子も良い友達を持った。この時間が、束の間の自由でなくしないように…僕らも頑張らないとね。」

「…はい。」

織玖は去っていった。

織玖を始め、殆どの人間が蒸都の自走が成し得なかった場合、海陸の“協力”を仰いで供給を得ると認識している。だが嶺亜の目論見は__

今、海陸が携わっている検査。沢山あった項目も、もう殆どに区切りが着いた。

もう、その日は近い。

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