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日向の影

孤児院の庭。

決して広くないその場所で子供達が走り回っている。話し声、笑い声、泣き声。様々な声に溢れる中、使われていない遊具にぼんやり腰掛ける燈夜の姿があった。

陽だまりの暖かさに徐々に重くなる瞼。垂れそうになる頭に声が掛けられた。

「燈夜。」

「……あ、悪い。」

夢と現の間を一瞬で行き来し、顔を上げる。海陸だ。

「楼蘭さんが呼んでたよ。ブレーカーがおかしいんだって。」

「んー、今行く。」

伸びながら立ち上がろうとするが根っこが生えたように身体が立ち上がりたがらない。

「疲れてる?」

「疲れ…か?寝不足ではあるかな。」

ここしばらく。蒸都の技術者や研究者は日夜、蒸都の機構を単独で動かす新たな手段を、医療関係者は蒸都の空気に染まった人間達がどうすれば外の空気にも適応できるかを討論し、試行を重ねている。

普段の仕事に加えての、蒸都を背負った重大な任務に人々は躍起になっている。それでもそれぞれが長丁場になるということはわかっている。根を詰め過ぎず、継続的に動く為に休みは設定されており、倒れそうな疲労感は無い。

「楼蘭さん、そんなに急いでないって言ってたよ。」

そう言って燈夜の傍の遊具に腰掛ける海陸。ここに帰ってきてから血色は随分と良くなった。

調整槽室で過ごしていた海陸には蒸都の空気は合わないらしい。

相変わらず咳をしてるけど、統括部を信じていない嶺亜さんが調整槽室には戻さない、と服薬とあまり外に出ないのを条件に孤児院での生活を続けている。

「いや、行くよ。お前も外にいない方が良いだろ。」

反動を付けて立ち上がる。海陸は立ち上がらずにどこまでも煙に覆われた空を仰いでいた。

「海陸ーー!!!逃げて!逃げて!!」

切羽詰まった流輝の声がする。表の道から庭の門扉を目指して駆け寄ってくる流輝。


「流輝ー、うるせーぞ。」

その流輝の後ろから歩いてやって来る嶺亜の姿があった。


「外出んなっつっただろ!何でのんびりお外で日向ぼっこしてんだよ!」

海陸にもはや恒例となりつつあるデコピンを喰らわせ、監督不行き届きと燈夜を睨み付ける。

「五分も出てません。」

「五分でも外は外だろ。」

小さな抵抗を一瞬で打破されて口を真一文字に結ぶ海陸。

「何だクソガキ。反抗期か?ちょっと前まで“すみません”しか言わなかったクセに。ほら得意だろ。一言詫びて中戻れや。」

散々な口の聞き方だが、嶺亜の表情自体は楽しそうに笑っている。

「………」

「聞こえねぇなぁ!おい!」

蚊の鳴くような小さな声で“すみません”と残して院の中へ戻っていく海陸。

「もー。嶺亜さん、海陸をいじめないでよ。」

「いじめてねぇだろ。ったく、生意気になりやがって。お前ら甘やかしすぎじゃね?」

舌打ちする嶺亜だが、燈夜の知る限り海陸がああいう態度を取るのは嶺亜だけだ。何か違った心の扉が開いているのかもしれない。

「様子見…ですか?」

「まぁな。…あの様子じゃ、“全て”を話したわけじゃなさそうだな?」

「………。」

嶺亜の言葉に燈夜は頷き、流輝が顔に影を落とした。

「多分、話すと拗れると思うので。」

「お前が思うんならそうなんだろうな。ま、その友情にヒビが入らないよう立回るんだなあ。」

「……はい。」

平和な光景にぽつんと影がある。ひたひたと近付いてくるその影が、日ごとに大きくなるのを燈夜も流輝も確実に感じ取っていた。

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