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残された時間

食べたくない。

そう思うのは気持ちなのか、身体そのものなのか。 相変わらず進まない食事。当然、体力の戻りも遅い。言うことを聞きたがらない身体を従え、床に座って膝を抱える。

視界の端に映る調律環の明滅が目障りだ。光を遮ろうと片手を伸ばす。

バチッ…_ もう片方の腕に新たに嵌められた輪がそれを許さない。一度破壊を試みた海陸に対しての防止措置だ。溜息を吐き、明滅を受け入れた。

つい昨日、ほんの一瞬出会えた燈夜の顔が蘇った。驚いたような、焦ったような。そんな顔をしていた。

(会えて良かった…)

誤魔化してなどいない、純粋な気持ち。

出来れば一言で良い、言葉を交わせたら__欲を言ったらキリはない。

そっと目を瞑る。夜、眠れていないわけではない。

夢の中はこの薄暗い部屋も、空気が配管を通る無機質な音も無い。

子供達の笑い声。楼蘭の呼ぶ声、流輝と燈夜の会話、温かくて柔らかい世界に居られる。

__…

誰かが部屋に入って来た。顔は上げない。

織玖であれば、扉を開けてすぐに声を掛けてくる。

無言であれば、それ以外の誰かだ。足音が近付いてくる。

「測定を行う。椅子に戻れ。」

楊震だ。

「………。」

無言で従い、椅子に座り、真っ直ぐ前を見る。

「名乗れ。」

「………。」

「聞こえなかったか?」

「…F‐369。」

絞り出した自らの番号。楊震は海陸が調整槽室に戻されてからまるで確かめさせるように言わせる。 海陸が口にすると、目に見えて調律環の明滅が速くなった。警告のように腕の奥がじわりと熱を持つのをぐっと目を瞑って耐える。

「隠しきれてない。…今、“内通者”を尋問すれば容易に掴めそうだな。」

「………。」

明滅の速さは変わらない。F‐369の反応も、何も変わらなかった。

「安心しろ。上層部は余計な混乱を嫌ってお前の条件を飲んだ。私も指示の無い案件に労力を注ぐ気は無い。__明後日。調整を施行する。余計な気は起こすな。」

測定を終え、去りながらそう残した楊震。扉が閉まる。

「…………。」

明滅の速さと眩しさを増した調律環をした手をぐっと握り締める。海陸はようやく下を向けた。


ーーー


『あの』通信が行われる時間帯。久し振りに聞こえてきた音声。

“…適_者に…して_動力管理部へ通達_”

雑音が混ざり聞こえにくい音声。“適合者”という単語を敏感に聞き取り流輝は集中力を上げた。

“日…の決定を_各所に準備要請…。施行は__”

(“明後日”…!…大丈夫なの?間に合うの?) ざわざわと心臓を撫でていく嫌な予感。

「…すみませ〜ん、忘れ物、しちゃって…10分で戻ります!」

無理に作った元気な声が裏返る。上司にいつものようにペコリと頭を下げて笑い、流輝は管制通信室を飛び出した。

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