淹れたての珈琲
~~~~ ここはとある古い屋敷。そこに男は訪れ、住人と対峙していた。その相手はセーラー服の少女であった。男は語り始めた。 ~~~~
私は40手前の独身男です。日頃から自分でもトロい人間だと思っております。実際に仕事の要領も悪く、その日も一人で会社に居残り残業をしていました。まあ私は一人暮らしで、早く帰っても特に何もすることは無いのですが。正直に言うと自分は、こうして仕事をすることによって思考停止しようとしているのかも知れません。それだけ私はつまらない人間なのです。だから特に苦痛も感じずに、一人オフィスでパソコンに向かうのでした。しかしその日は、そんなつまらない日常に大きな変化が訪れたのです。
==== コトン ====
何か突然の音に、私は心臓が羽上がるかと言うくらいに驚きました。
「え?」
自分の目の前のそれに対して、不思議を覚えたのです。湯気が生々しいのです。それは紛れもなく、淹れたての珈琲なのでした。
(え?何で?)
もうオフィスには誰もいないはずなのです。うちの会社は少人数で、警備員も常駐していません。さらに異変を感じました。それは人の気配なのでした。私は恐る恐る顔を上げたのでした。
「はっ!?」
それは思いも寄らない人物でした。
(間島さん・・・・?)
見上げると、まだ少女の面影も残る若い女性が立っていたのでした。その顔は間島さんに、そっくりだったのです。ちなみに間島さんというのは、私の高校時代の同級生なのです。正直に言いますと、当時の私は彼女に好意を抱いていました。しかしそれは、あくまでも私の片思いなのでした。間島さんはとても優秀な生徒で、生徒会長も務めており勿論人望もありました。そんな輝いている彼女とは対照的に、私の方は特に何も特技も特徴もなく地味な生徒だったのです。あえて今風に言うと<陰キャ>というやつですかね。
それはそうと彼女が間島さんであるという事は、極めて不自然な訳であります。何故なら今や私は四十手前の中年。同い年の彼女も、それなりの容姿になっていると思えるのです。いくら間島さんが若く見えたとしても、それは可笑しいのです。明らかに私の目の前にいるのは、少女と言える年頃にしか見えないのです。
ふと我に返ると、その女性はいなくなっていました。そこには少しだけ冷めた、珈琲のみが残されていたのでした。
「ふう。」
~~~~ そこまで話をした男は一息つき、出されていた茶を少しだけ啜った。そして男はジッとセーラー服の少女の顔を見た。そして男は思った。やはりこの少女は相談するに値する人間である、と。 ~~~~
そして次の日も、また次の日も、その女性は現れたのです。その度に珈琲を出してくれるのでした。当然に私は気味が悪くなってきました。それがいくら、かつて自分が好意を寄せていた相手であったとしても・・・。
それから昨日も彼女は現れたのです。私は思いきることにしました。
「君は誰なんだい?」
私は彼女に声を掛けたのですが、返答はありません。それどころか表情すら見せません。よくよく見ると、まさに心ここにあらず、と言った感じなのでした。そして結局は、気が付くと姿を消してしまっているのでした。どうしたらよいのか分からなくなり、知人の紹介で今ここにいる次第なのです。
~~~~ 男は話を終えた。しかしセーラー服の少女曰く、とりあえず何も対応する必要は無い、と言う。そしてセーラー服の少女は男に、変化があればまたここに尋ねてくるように促したのであった。男は素直に聞き入れ、屋敷を去った。 ~~~~
~~~~ そして一週間後、男は再び屋敷に訪れた。 ~~~~
あれからとんでもない事になったのです。相変わらず一人残業をしていたのですが、またしても若い女性が珈琲を出してくれたのです。しかしその女性は・・・・・。
~~~~ 男は言葉を止め、セーラー服の少女の顔を凝視した。 ~~~~
貴女だったのです。昨日オフィスで、私に珈琲を淹れてくれた女性は・・・・。これは一体どうゆう事なのでしょうか。貴女は・・・・・。
~~~~ その男曰く、何とセーラー服の少女がオフィス現れたというのである。しかし当のセーラー服の少女は、全く動じる素振りを見せなかった。そしてまた特に心配はない、という。不信感を抱えながらも、男は彼女の言う通りに屋敷を後にした。 ~~~~
===== そして次の出勤日 =====
また日課の如く、男は一人オフィスで残業をしていた。眠気が襲ってきたその時・・・・。
===== パン!!!! =====
突然に大きな音がして、驚いた男はきっぱりと目が覚めた。そして気が付くと男は給湯室でいたのである。さらに・・・。
===== ガチャ =====
ドアのノブを開ける音がした。一体何者であろうか。男はゴクリと唾を飲み込んだ。
「これで分かったわね。」
セーラー服の少女が現れた。実を言うと男は、そんな気がしていたのだ。そう、男は全てを悟ったのだ。彼は誰にも珈琲を淹れてもらってはいなかった、という事実を・・・・。香りのよい湯気を出す淹れたてのコーヒーカップを、しっかりと男は握っていた・・・。
~「淹れたての珈琲」~ <完>




