冴内蔵くんの覚醒
彼は男子高校生、冴内蔵。自らに彼は冴えない風体である。そして外見だけでなく、本当に冴えない男であった。特技はなく、かといって何かに打ち込んでいる訳でもない。正に将来性のない男の見本であった。だがそんな彼にも・・・・。
「オメーみたいなのは男としては認めねーよ!」
「クズの見本だな!」
またいつの通りに、彼は苛められていたのだった。数人の生徒に取り囲まれ、罵られ子突かれている。こうやって内臓をいたぶることによって、彼らは自分自身の優越感を持とうとしているのだった。この状況を冴内臓は慣れているのだろうか。それとも抵抗することを諦めているのだろうか。それを良い事に彼らは苛めを楽しみ続けた。しかし・・・。
「お前ら、集団じゃなきゃなにもできないのかよ!」
一人の女生徒の怒鳴り声が、彼らの中に割って入った。
黒井里に図星をさされた苛めていた奴らは引き下がった。
「アンタも情けないよ。」
里も捨て台詞を残し去って行った。
「うう・・・。」
内臓は項垂れていた。しかし・・・。
===== そのままでよいのか!! =====
内臓の心の中で、何者かの声が響き渡った。その瞬間、彼は変わった。
「そうだ!!俺は甲子園に出るんだ!!そして!!」
彼は決意を述べた。ただし彼は野球部で万年補欠であった。
しかし冴内臓は本当に変わった。人が変わった様に練習をして、体力面だけでなく本当に上達していったのだった。やがて周りの人間も、内臓の努力を認めるようになった。
そして学校内で彼の事が噂になるくらいになった。そんな内臓の練習を遠目から見守る女子生徒が一人いた。
「やるじゃん。内臓。」
そう呟く彼女は、冴内臓の幼馴染でもある。
そして彼は見事にレギュラーの座を勝ち取った。それも四番ピッチャーという大抜擢である。余り強くない野球部とはいえ、短期間でこれほどの成長を遂げるとはとんでもない事と言える。
しかし彼女の眼は誤魔化せなかった。除霊師にして、冴内臓の幼馴染・・・。
「すげええ!!内臓の奴!」
応援に駆け付けたクラスメートが感嘆の声をあげる。
内蔵は覚醒する。そのひたむきな努力を以てして鍛えられた身体は、以前のいじめられっ子とは別人のものであった。不器用ながらも衰えぬ速球で、あれよあれよと言う間に内臓達は勝ちあがって行ったのであった。
周りは戸惑うも、内蔵に対する評価は鰻上りだ。しかし里が内蔵をみる目は冷静だった。それには理由があった。
そして決勝戦前日。内蔵は里を校舎の屋上に呼び出す。
「俺は里のお陰で、変われたんだ。もし明日の決勝で勝てたら付き合ってください。」
「え!?」
唐突な告白に戸惑う里。しかし彼女は自分の使命を決して忘れてはいなかった。
「まあそれはそうとして、これを見なよ。」
里は数ヶ月前の新聞を、ズイッ内蔵の前に突きつけた。
「これはアンタだね。」
それは他校の非常に有名な選手が自殺したという記事であった。つまり今の内臓には、エリート野球選手の霊がとりついているのだ。
「辛かったんだよ。」
内蔵、いや彼に取りついた霊はアッサリと里の指摘を認めて項垂れていた。
「でも未練があり内臓に取り憑いて、野球をしたかった?」
里の指摘に対して、黙って霊は頷いた。
「アタシも暫くは黙っていたけど、もう見過ごす訳にはいかない。」
流石にこの状況で、甲子園予選を突破するのはまずいであろう。霊はいつかは内蔵からは離れなければならない。そうしないと、いつかは内蔵の精神と肉体に大きな障害が残る事になりかねないのだ。
「すいませんでした、また野球が出来て楽しかったです。」
以外にも、もう霊は観念していた。そして問題なく、徐霊は行われたのであった。
「明日は頑張んなよ!」
<バン!>と里は内蔵の背中を叩いた。そう明日、内蔵は実力で明日の甲子園予選決勝戦に望まなければ行けないのだ。それは彼にとって勝ち目のない戦であった。
===== 夏の高校野球選手権予選 決勝戦当日 =====
有望選手の加護を失った彼の見通しは絶望的だった。だがしかし。予想外の試合内容であった。内蔵は好投し、試合は一進一退の攻防となる。恐らく霊がついていたとはいえ、努力したのは内蔵の肉体だったと言うことなのだろうか。だとすれば内蔵にとって、霊の素晴らしい置き土産ではなかろうか。
そして同点で迎えた9回裏ツーアウト満塁、内蔵はサヨナラの押し出しフォアボールを与えてしまう。自身の投球で試合に敗れた内蔵は、泣き崩れて立ち上がれない。しかしチームメイトが彼の身体を引き上げる。
「良くやった!内蔵!」
その声の主は良くみれば、かつて内蔵を苛めていた奴らだった。そこには心から内臓を応援していた事が伺えた。彼らも内臓の頑張りを認めた者達だったのだ。
そんな彼らをみて、里はクスッと笑った。
===== ファミレスで若い男女が向き合っていた =====
里と内蔵だった。
「OKだよ。」
「へ?」
「内蔵はキョトンとしてる。」
「だからアンタと付き合うのOKって事だよ。」
「は、は、は・・・?」
内蔵はテンパッている。里はお見通しなのだ。霊が取り憑いていたとは言え、彼が野球を通して自分を変えようとしていたことを。里に告白したのも、本当に内蔵自身の意思だと言うことを・・・。
「もっとしっかりしようねえ、内臓。」
~「冴内蔵くんの覚醒」~ <完>




