とある青年の職務時の体験(3)
彼は勇気を出して、次の日も老人の家に仕事に行ったのだった。すぐに彼女には遭遇しなかった。いつもとおりに、老人の介護をした。安心したように老人は眠りについた。彼の寝顔を見て、青年介護士は思った。
(この人に悪意はない。)
しかしその次の瞬間、異変は起こった。老人は何か寝言を呟いていた。青年は必死に耳を澄ました。それは青年の勘だ。この状況を打破する手掛かりになれば、と・・・・。果たしてそれは正しかった・・・。
「アキコ・・・・、アキコ・・・・。」
老人はしきりに女性と思われる名を繰り返した。そのとき、青年は直感した。
「今日は失礼いたします。」
介護士は老人に別れを告げて玄関の戸を開けたのだった。
「わっ!!」
なんと玄関を戸を開けると、例の若い女が立っていたのだった。
「はわわ。」
慌てる青年をよそに、女はクルッと背中を向けた。そしてまた、彼女は庭の方へ歩いていくのである。青年は彼女について行った。もう恐怖などを気にする余裕などないのだ。すると庭の真ん中に着いた彼女は、スカートを広げて座り込んだのである。まだ少女らしさの残る仕草に、青年は思わず言葉を発した。。
「ひょっとして、君はアキコさんですか?」
青年の問いに対して、彼女は何も答えなかった。だが彼を決して無視してはいなかった。彼女は青年の方に向いてニコッと笑ったのである。
(やはり彼女はアキコなのか。)
もはや彼女に対して、青年は違和感を感じなかった。それどころかこの若い女は、自分に何かを伝えようとしてるのではないのだろうか。そして彼は敷地を出た。青年の直感がそうさせたのである。
青年は職場に戻り、先輩に相談すべく足早に部屋に入った。
「あっ!!」
入室するなり彼は驚嘆の声をあげた。先輩はいた。勿論その事には全く問題ない。青年の視線は先輩の傍にいるセーラー服姿の少女にあった。間違いない。昨日、道で青年と遭遇した少女である。別に会話は交わさなかったのだが・・・。
(この女も、あの家の女に負けないくらいミステリアスだ・・・。)
率直な感想を青年は思った。
「もう我々の手に負える相手ではないぞ。」
その先輩の台詞で、青年は状況を把握したのだった。どうやらこのセーラー服の少女は、その道の人間の様なのである。つまり青年の味方と考えて差し支えないのであろう。青年は先輩の助言に素直に従い、この少女と共に三人で例の老人の屋敷に行くことになったのであった。
その翌日、打ち合わせ通り3人は屋敷に行った。敷地内に入ったが、あの若い女は立っていない。やはり青年が仕事を終えないと現れないのだろうか。いや今日に限っては、そうでは無かったのである。
「あっ!!」
またしても青年は驚嘆の声をあげた。そう、あの若い女はいたのだ。その敷地に。だがその姿は異様であった。彼女は地面に仰向けになって寝そべっているのである。そして気がついていないのだろうか?・・、青年達の方には顔を向けていない。しかし若い女の表情をみて、青年はゾッとした。彼女は空を見上げて、ほほ笑んでいた。先輩はセーラー服の少女の方を向き、コクリと頷いた。
「お前は仕事をしろ。俺らに任せておけ。」
その先輩のいう事を素直に聞き青年は老人の屋敷に入り、いつも通りに仕事をこなしたのである。
「では失礼しますね。」
いつも通りに、老人は無表情だ。青年は気にしない。彼は庭に出た。
「ん?」
それは青年が、意表を突かれた声であった。何と先輩とセーラー服の少女は、大きなスコップを持っていたのだった。いつも間に調達したのであろうか。そうゆう疑問は大した話ではない。肝心なのは何故、彼らがそのようなものを持っているか、なのである。青年は二人の元に駆け寄った。
「あっ!?」
青年は文字通りにビックリである。二人は大きな穴を掘っていた。そこから出てきたものとは・・・・。
「こ、これは・・・。」
それが白骨遺体であることは明白であった。しかも若い女性のモノ、と思われる衣服を身にまとっていた。そしてその遺体は、恐らく長い年月が経っているのであろう。青年は全てを悟った。
その瞬間、セーラー服の少女は再びスコップを動かし、その白骨遺体を埋めだした。先輩も少女と共に穴を埋めだした。青年も二人を手伝った。やがてその白骨遺体は見えなくなった。
「後、どうするのかは貴方達が決めなさい。」
そう言い残し、少女は去っていったのである。青年は先輩に肩をポンと叩かれた。そうなのだ。いまさら、老人の罪を問うには遅すぎるのだ。あの若い女の素性を分かっているのは、この屋敷の老人だけであろう。青年は思った。最早この事に関して、老人には何も話す事はあるまい。
そしてこの日以降、青年の前に若い女が姿を現すことは無かった・・・。
~「とある青年の職務時の体験」~ <完>




