神出鬼没、されど百鬼夜行
朝起きると母が自室まで来た。
珍しいことだ。
こういう時は、お母さんは何か大事な話をしたいときか、想定外のことが起こったときだ。
そして、高校受験の時でもそれは起こらなかった。
そう、母が自室前に来るというのはそれほど珍しく、そして、何か深刻な問題が起こったときだ。
母が扉をノックする。
「……白夜、白夜、起きてる……?」
消え入りそうな声で呼ぶ。
「うん……、ちょっと待って。」
私は寝起きがいいほうではない。
特に自分が起きようとした時間以外は。
「どうしたの?」
寝ぼけ眼で扉を開け、母さんと対面する。
何か……、よくない事でも起こったのだろうか。
「それがねぇ……、ハクを訪ねてきた子がいるのよ。」
「え?」
誰だろう。
今日は何も予定はなかったはずだ。
ましてや、誰かと会う約束なんて……。
「……男の子なのよ……。」
?!
私は頭が真っ白になりそうだった。
眠気は吹き飛び、髪が逆立つようだった。
もしかして、と。
「……白い髪に、赤い目をしてなかった?」
「えぇ、そうね……、何か約束でもしてたの?」
「ううん。でも、行ってみるね。着替えるから少し待ってて。」
扉を閉めて、着替える。
霧崎君だ。
何故来たのかは知らないけれど、彼が来た。
私はそう確信した。
特に用意をしていなかったので、オレンジ色のセーターに青めのロングスカートを合わせた。
一階にむかおうとすると、あることに気づいた。
階段を降りると目の前が玄関なのだ。
そこに霧崎君がいる。
どうしようか。
せめて軽くでもいいから洗顔くらいはしたかった。
まあ、少し待ってもらおうか。
大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせ、私は階段を降り始めた。
「あ、霧崎君、少し待っててね。」
やはり来訪者は転校生だ。
そのまま居間まで移動する。
タオルを用意して顔を洗っていると、母がこれまた新しい質問をぶつけてきた。
「……あの子、初めて見たけれど知り合いなの?」
「うん……、ほら、転校生。……話さなかったっけ?」
「えぇ。」
顔を洗いながらなので、言葉が途中で途切れる。
「なんで、今日来たかは知らない。……だけれど、話だけ、聞いてくる、ね。」
「わかったわ。気を付けてね。」
「うん。ありがとう。」
洗顔が終わった。
うん。
やはりこれくらいはしておきたい。
心構えとしても、規則的な生活としても。
「行ってくるね。」
母にはそういって、廊下を渡る。
「お待たせ。霧崎君。ちょっと歩こうか。」
私は変わると決めたのだ。
少し道路に沿って歩く。
「……それで、今日はどうしたの、突然。」
「ああ、少し付き合ってほしくてね。」
辺りはまだ薄暗く、そういえば時間も確認していなかった。
「霧崎君、聞いてもいい?」
「なに。」
今日の私は一味違うのよ。
「いま何時?」
変わると決めたのだから。




